緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 見えざる者ハデス
すぐにタケルは天叢雲剣を抜く!
一度、距離を取ってから、定石通り速攻で電撃を・・・!
ところがどうしたことか、タケルが振りかぶろうとする瞬間、
彼の視界からハデスの姿が消えてしまったのである。
やはり瞬間移動なのか!?
だがヘルメスしか使えない筈の瞬間移動を何故ハデスが!?
サルペドンは急いで、部下たちを斜面の下に下がらせた。
この場にあっていいのは、タケルと自分だけ・・・。
ハデスの能力は自分には通用しない。
大地を揺する能力は使えないと言う意味では、サルペドンもお互い様だが、
サルペドンには殺傷能力十分の拳銃がある。
別に彼は銃撃の名手ではないが、近い距離ならかなりのアドバンテージだ。
だが何故、ハデスは消えた!?
そうだ・・・、これも見るのは初めてだが、
ハデスにはその「名」が冠されていたはずだ・・・。
慌ててサルペドンはタケルに警告する。
「タケル! 思い出した!
ハデスの別名『見えざる者』!
奴はその姿を消すことができる!
ヘルメスの瞬間移動とは違う!
そこに奴はいるはずだ!!」
だからどうして、
戦いが始まってから思い出すんだよ、サルペドンっ!?
タケルは天叢雲剣の雷撃を、さっきハデスがいた場所に向かって撃ち放った!!
だが、その青い牙は空中に虚しく散るだけだ・・・。
ここにはいない、・・・どこに!?
苛立ちながらタケルは叫ぶ。
「サルペドン!
どうやって100年前、お前は奴を捕まえたんだよ!?」
「私の能力は辺り一帯を全て破壊するんだ!
姿を消そうが消すまいが関係ない!
それより、ハデスに集中しろ!
お前なら、殺気を放ったハデスに気づけるはずだ!」
そうは言っても・・・。
戦いの外にいるマリアは、
何とか自分も役に立とうと、彼女の感知能力をフルに稼動させる。
もし、ハデスとタケルが接近しすぎている場合、
さすがにハデスの微妙な位置取りまでは読めるはずもない。
だが、これは彼女にとっては好ましい結果か・・・、
マリアの意識に、ハデスの位置がはっきりと浮かび上がった・・・。
「タケルさん! 斜面の上です!
いま、ハデスは来た道を戻って、高い位置からあなたを見下ろしています!
ただ、・・・恐らくは、天叢雲剣の射程外かと・・・!」
それだけでも貴重な情報だ。
「マリアさん! サンキューっ!!」
言うが早いか、タケルは岩場を駆け上る!
走りづらいが、天性の運動能力を誇るタケルにしてみれば何ほどのものか?
そして届こうが届くまいがどっちでもいい・・・!
天叢雲剣の絶大なるエネルギーの奔流は、
その攻撃対象者の精神に多大なショックを与えるはずだ。
まだ攻撃回数にも余裕はある!
タケルはハデスがいるであろう位置に向かって、最大限のパワーで電撃を放つ!
叫べ、いかづちっ!
霞の混じる世界を! 青い雷光が切り裂いてゆく!!
ああっ!?
ところがタケルの意に反して、何故か電撃は空中にてその勢いは弾けて止まってしまった。
途中で何らかの障害物が!?
・・・その正体はすぐに判明した。
ある意味タケルの狙い通り、耳につんざく大音響と、目も眩む閃光に、
ハデスの能力は一時解除されていた・・・。
確かに岩場の先にハデスはいた・・・。
その顔に驚愕の表情も浮かんでいる・・・。
だが、同じくらいの衝撃を受けたのはタケルも一緒だ。
何故なら、
電撃が止められた位置に、
さっきまでハデスが手にしていたはずの細い槍が、
岩場の隙間に突き刺さっていたからだ。
この戦法はヘファイストスと一緒か!?
既にヘファイストスから聞き及んでいたのだろう、天叢雲剣を防ぐ方法を。
だが、ハデスとヘファイストスの違いはその体力。
何本もの避雷針用の槍と、フィールドを縦横無尽に走り回ったヘファイストスと比べ、
この足場の悪い地形で、なおかつ後一本しかない槍で、この先戦えるわけはない。
すぐに気を取り直したタケルは、またも姿を消されないうちに再び攻勢をかける!
あの槍を越えてしまえば、自分の勝ちだ!!
しかし・・・、
ここでハデスは平素の表情を取り戻す・・・。
そして彼は空いている左手で、タケルの駆け上ろうとする岩場の足元を指差した・・・。
「タケル君、だったかな、
はやる気持ちは分かるが・・・、
足元の『それ』を踏み潰さないでくれたまえよ・・・?」
何を言って!?
既にタケルは次の攻撃の準備を終えていた・・・。
今度は射程距離内・・・!
天叢雲剣を振り下ろせば・・・雷の矢はハデスを貫くだろう。
彼が残る槍を投じたとしても間に合うはずはない。
自分の勝利を確信したはず・・・
だが、確かにその刹那、
タケルの視界には・・・
自分の足元に何かの異物があることを認知していた・・・。
明らかに周りの岩の一部ではない。
別の何か・・・。
それこそ、畑に成っているスイカかカボチャでも、ここにあるかのように・・・。
いや、そんなものがある筈もない。
だが、タケルは次の瞬間、一切の思考が停止する・・・。
自分のまさに踏みしめようとする位置に、
人の頭が転がっているのを見て。
そして、その生首が笑っている・・・。
この顔・・・
こいつは・・・
その物体に張り付いてる笑い顔を忘れようはずもない。
その顔の持ち主の名は
デ ィ オ ニ ュ ソ ス ・・・
いよいよハデスの能力の全貌が・・・。