緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 予想
タケルとミィナの顔は血だらけだ。
ミィナにいたっては服までボロボロ・・・。
すぐさまマリアが彼女の傷の手当に入ろうとする。
それだけ確認すると、
タケルはクラトスが倒れている山道の上を見上げた。
この先もゴツゴツした岩場が広がっている。
・・・この先にハデスがいるというが・・・。
もう一度、タケルは後ろを振り返った・・・。
みんな自分の後についてきてくれている。
この場では誰も脱落していない。
自分が指示を出せば、いつでも彼らはフォローに回ってくれるだろう。
だから・・・、
自分は眼前に現れる敵を倒す・・・
それだけを目的にすればいいだけなのだ。
「タケル、大丈夫か?」
サルペドンが声をかけてきた。
相変わらず無表情でぶっきらぼうだが、
今の戦いも、彼が難局を切り開いてくれた。
もっとも、この後、オリオン神群の最後の敵とは自分で戦うと言っているのだから、
自分と同様、サルペドンも命を賭けている。
タケルは頬がズキズキ痛むが、それでも余裕の笑みを浮かべてサルペドンの問いに返す。
傷だらけという意味ではミィナのほうが酷い有様だ。
ただ、復讐という目的を果たしたミィナはすっきりとした顔立ちだ。
傷とかは気にならないのだろうか?
「ミィナ、顔・・・平気か?」
彼女はいつもどおりニヒッと笑う。
「デリカシー持ってるなら、あんまジロジロ女の子の顔、見るんじゃねーよっ。」
「あっ、ああ、悪ぃ・・・。」
「まぁ、もうそろそろ戦いも終わりだろっ?
全部済んだら思いっきり遊ぼうぜぇ!?
東京とか案内してくれよ!」
ミィナ一人いるだけで、場の空気は華やぐ。
タケルは満面の笑みで「それ」を約束した。
あれ?
・・・その後すぐに、グログロンガが心配そうに、ミィナのカラダに寄り添おうとしてる。
ちょっ!? おい!
少しだけ後ろ髪を引かれながらタケルは岩場を登る。
後ろには、ほぼ一列となってスサの行軍が続く。
また霧がでてきたか・・・。
擬似太陽も輪郭がぼやけてきている。
そして、気圧か地形の高低差の影響で気温差もあるのか、
幾分、風も出てきたように感じる。
・・・ん?
右手の天然の城壁の麓に誰か・・・
オリオン神群?
いや、ただの兵隊か?
「おい・・・!」
そこには二人の兵がいたが、明らかにタケルの威嚇に動揺している。
天然の城壁の麓には、
何か檻の様なものがあるせいか、そこを守る守備兵というわけか。
「ハデスはこの上にいるのか?」
「き、貴様ら侵入者か!
ま、まさかクラトス様やビア様が敗れたと・・・!?」
「そういうわけだ、
俺たちの目的はハデスだけだが、
お前たちはここで何を守っている?」
兵士たちは、ぎこちなく槍を構えて大声を出す。
「そ、それは貴様らに教える義務はない!
とっとと、その山道を登るがいい!!」
少し、タケルは不審に思う。
確かに自分たちの目的はハデスだが、
この兵たちは何かを隠しているような・・・。
すると、その檻の中の「何か」は自分から姿を見せてきた!
「おお、タケル様!
無事にクラトスは倒されたようですな?」
どっかで見た顔・・・ってパキヤ村の神官ネレウスだ!
「ネレウスさん! こっ、ここに?
じゃあ、ヘファイストスも・・・!?」
駆け寄ろうとしたタケルだが、すぐに守備兵が槍を掲げる。
「それ以上近づくなっ!
ハデス様には、いざとなれば囚人を処刑せよと仰せつかっている!
この者たちを助けたくば、先にハデス様と話をつけよ!」
兵の一人は、槍を背後のネレウスに向けた!
タケルは一瞬、慌てふためくも、当のネレウスは気にも留めない。
「ほっほっほ、心配は要りませぬよ、タケル様・・・、
ヘファイストス様も、何とか峠は越せそうですし、
この兵たちも、何もしなければ私たちに危害を加えませぬ。
タケル様、あなたは安心して、この先に向かうが良いでしょう、
なに?
あなたがハデス殿を倒せば、我々を解放するとハデス殿ご本人も仰っております。
まぁ、・・・あなた方に我々を助ける義理はないのは承知しておりますが・・・。」
そ、そんな事を言われても・・・。
確かに、ここを進むのが第一の目的で、
それをハデスが阻むというなら、打ち破るまで・・・。
そこにヘファイストスを助ける、という目的が加わってもあまり状況に変化はなさそうではある。
「そ、そう?
取り合えずは、良かった・・・。
えっと、・・・この山道の先にハデスはいるって言うんだな?」
「はい、この斜面はハデス神殿の裏手でもあります。
クラトス達と戦われたのなら、
間違いなく、神殿からハデス殿はその戦いを見ていたはずです。
お気をつけなされ・・・。
ハデス殿の能力は、タケル様の心の弱い部分を攻めてきます・・・。」
あっ、
そういえばヘルメスも結局、ハデスの能力を教えていかなかったな?
タケルは一度後ろのサルペドンとネレウスを交互に振り返る。
「サルペドン、
ハデスの能力ってなんだかわかるか?」
「奴の称号は冥府の王だからな・・・、
その名のとおり死者を弄ぶ能力といわれている。
・・・先のクラトスと似たり寄ったりとなるが、
そんな不吉な能力など、進んで見たがる者などいない。
私も同様だ。
死者と会話できるとか、話には聞いているが、戦いにどう応用するかまでは分からない。」
タケルの背筋が寒くなる・・・。
そんな胡散臭い能力など一笑に付したいが、
オリオン神群の能力はこれまで全て現実に遭遇してきた。
まさか、ゾンビとか呼び出すんじゃあるまいな・・・?
次回、いよいよハデスが彼らの前に。