第14話
その言葉を聞いて、
義純、ガラハッド、ライラックの三人は背中の荷物を下ろす。
鮮やかな反応だ・・・、
それぞれが利き腕に何らかの金属物を手にしている。
「義純は全員の言葉が分る・・・、
レッスル様や伊藤さんたちをガードしてくれ・・・。」
職務上はライラックも義純も同格だ。
だがこのライラックの判断は適正であり、
二人は騎士団内でも群を抜く信頼関係を結んでいる。
彼らは完全に臨戦態勢に入った。
・・・ガラハッドが、
先に間道から新しい道を覗くと、
そこは先程まで歩いていた道よりも、さらに広いアーチ型の道だった。
恐らくこちらがこの鍾乳洞の本道なのかもしれない。
彼らはゆっくりと歩を進める・・・。
近くには誰もいない。
だが、全員が本道に入った時、
突然鍾乳洞の内部に明かりが灯った。
反射的に義純たちはゴーグルを外す・・・!
そして彼らは近づいてくる二つの人影を発見した・・・。
・・・義純の手には切れ味のよさそうなサバイバルナイフ。
ガラハッドの右手には伸縮自在のロッド・・・。
そしてライラックの左手には、
サイレンサーを装備した拳銃が握り締められていた・・・!
伊藤が驚くのも無理はない・・・、
まるで007だ。
だが、更にそれ以上の驚愕が彼らを待っていた。
・・・そこに現われたのは二人の薄着の女性だったのだ、
・・・それぞれが刀と槍を手にして・・・!
「あ・・・あれはホーリークルセイダー!?」
義純が思わず叫ぶ。
先日の教会で見たような下着に近い露出の大きい衣装だが、
寒さ対策の為か、ふさふさしたファーを胸や手首、ブーツに縫い付けている。
そして現われた二人の女性は、
何度も練習したであろうお約束のポーズを決めた。
「我が名は救世主を守りしホーリークルセイダー、
戸隠あおい!!」
「我が名は邪悪を滅するホーリークルセイダー、
葛城みさき!!」
「「この洞窟に果てよ! 愚昧な者達め!!」」
セリフを言い終わるや否や、
二人は前衛のライラックとガラハッドに飛び掛ったのだ!!
ライラックたちは完全に後手に回ってしまった。
何しろ相手が女性という事で、
積極的に攻撃ができないのだ。
しかもガラハッドに関しては、
ロッドで彼女達の攻撃を受ける事ができるが、
ライラックの銃ではそれも敵わない。
ひたすら避けるのみだ。
そして彼らはすぐに理解した・・・、
彼女達の技そのものは素人臭い荒っぽいものであったが、
そのパワーやスピードが尋常ではない事に・・・。
騎士団トップクラスの戦闘術を誇るライラックと言えど、
果たしていつまで無傷で耐えられようか・・・?
レッスルが冷静にホーリークルセイダー達の状態を分析する。
「・・・あの者たち、バァルの洗脳を受けとるな!」
「それって絶対、攻撃をやめないってことぉ!?」
「死ぬまでな・・・!」
やきもきしてたマーゴはついに激を飛ばす!
「ライラック!! ガラハッド!!
やっちゃいなさい! 私が許します!!」
もちろんマーゴにそんな権限はない。
だが、
二人の腹をくくらせるには十分だった。
ライラックへの攻撃は息をつかせぬものであり、
普通の警官程度だったら、
この距離では銃口を向けることすら叶わなかったかもしれない。
通常、拳銃は撃つときカラダの正面に構える。
さもなくば視線と銃口を、
標的に向かって一直線にあわせるはずだろう。
だがライラックにはその必要すらない!
振り回される刃をかわしながら、
肘から先だけの狙いだけで弾丸を発射する。
プシュッ!
という乾いた音と共に、
弾丸は見事にホーリークルセイダーの太ももに着弾!
「あぅッ!」
洞窟内に響く悲鳴と共に刀を持った女は転んでしまう。
ガラハッドも負けていない。
リーチの長い槍の動きに閉口していたが、
マーゴの一喝と共に槍の穂先をはじき返し、
その隙を逃さずみぞおちに当身を入れる。
しょせん、彼女達は戦場では素人だ、
彼らにかなう訳がない・・・。
・・・しかし、
ライラックもガラハッドも次の瞬間、目を疑った。
二人のホーリークルセイダーは、
何事もなかったかのように立ち上がったのである!
しかもそれだけではない・・・!
どこからともなく、
蝙蝠の大群がやってきて、
ライラック達だけでなく、
戦闘に参加していない義純や伊藤たちをも襲い始めたのだ。
さすがにこれはライラック達もたまらない。
ガラハッドもロッドを振り回すが、
狙いを定める事ができないのだ。
「きゃああ! ちょっとちょっとー!!」
「うぬ! こいつはやっかいじゃの!」
「ラ・・・ライラック!
その女性達、もしかするとノーフェイスの資料に書かれていた戦闘員と同じ・・・!」
義純の言葉にライラックは思い出した、
あの組織の兵隊達に痛みを感じない部隊がいた事を。
そして彼は悟った、
もはや相手が女性だからと手加減する余裕はないという事に。
ライラックは蝙蝠の攻撃が和らいだほんの一瞬の隙を見つけ、
合計四発の弾を、目にも留まらぬ速さで二人の女性の心臓部に叩き込んだ!
これで動けるわけはない!
むしろやっかいなのは蝙蝠だ。
伊藤は麻衣をかばうために、
娘の上に覆いかぶさり手も足も出ない。
レッスルや義純も、
杖やナイフを振るうのだが、なんの効果もないと言っていいだろう。
蝙蝠たちにかするのがやっとだ。
そして・・・
きれいにセットされた髪を、
ボロボロのぐしゃぐしゃにされたマーゴが・・・、
ここでついに切れてしまった!
「んもぉぉぉぉぉっ!!
みんな、目と耳塞いでーッ!!」
「やばい! 伊藤さん、麻衣ちゃん!
目と耳塞いで!」
マーゴは、
事もあろうに洞窟の中央に向かって手榴弾を投げ込んだのだ。
騎士団特製の特殊閃光音響弾を!
・・・洞窟内を凄まじい轟音・・・
いや破壊的な衝撃が辺り一帯、
全てを呑み込む・・・。
光はともかく、
音響効果はまさしく殺人的だ。
耳を手で塞いでもあまり意味はなかったかも・・・、
いや、
こんな場所でそれすらしなかったら、
鼓膜が破壊されてもおかしくはない。
マーゴも少し後悔したみたいだ・・・。
ライラックや義純の顔を、
「ごめんね?」とでも言いたげな表情で覗き込む。
もちろんの事・・・
蝙蝠どもは一匹残らず駆逐されていた。
とはいえ、
全員、一時的にまともに耳が聞こえなくなっていたようだ、
ここぞとばかりに義純、突っ込む。
「・・・さすがウェールズの魔女・・・。」
全員がしばらくその場に立ち尽くしていた。
行動不能になっていたわけではない、
・・・聴力が完全に回復するまで、
動くのは危険と判断したからだ。
伊藤は麻衣に、
ホーリークルセイダーの死体を見せないように気を使っていた。
ようやくライラックが次の行動に出る。
それはホーリークルセイダー達の武器を確かめることだった。
本来、彼は射撃よりも剣術の方が得意なのだ。
どちらも優秀な成績を誇るからこそ、
エリート中のエリートと呼ばれているわけなのだが・・・。
「お? さすがは『豪剣の騎士』、
銃よりそっちの方が使えそうかい?」
「義純も見たろ?
こいつらとやりあうには、
銃より刃物の方が相性よさそうだ・・・。」
彼は槍の方を選んだ。
・・・刃がむき出しの刀は、団体行動では危険すぎる為だろう。
ようやく、
全員の耳が回復したのを確かめると、
彼らはいよいよ洞窟の奥へ進み始めることにした。
麻衣はさきほどの衝撃で、
精神集中はもはや不可能になっていたが、
その必要ももはやない・・・。
先程灯った明かりが、
洞窟の先を煌々と照らしているから・・・。
だが、その為に・・・、
彼らの後をぴったりと追跡している者がいる事は、
他の者はもちろん、
自分の力を覚醒し始めた麻衣ですら、
気づく事はできなかった・・・。