緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 本能
おお、またもやぶっくまいただきました!
ありがとうございます!!
・・・そんな調子で評価なんかしてくれちゃったりしても・・・。
いえ、なんでもありません・・・。
ミィナの調子のよさは見たまんまというか、
恐らく皆さんのイメージどおりだ。
まぁ、元々ここまで生き延びてきたスサの精鋭たちも、
女であるミィナを最前線に出そうなどとは考えちゃいない。
とはいえミィナも、ただの我が身かわいさで後ろに下がったわけでもない。
・・・本能的に理解しているのだ、
もう、自分のいる集団が、そんじょそこらの障害で危険に陥るような、
ヤワっちぃ集まりではないことに。
先頭をきるタケルの強さが、
もはや、どんな化け物が現れても、信頼してその身を任せれるレベルに達していることも。
もっとも、そのタケルの心の奥底で、
誰にも明かせないような恐怖と不安を抱えていることなど、ミィナは知る由もない。
ただ、今現在この時に於いては、
タケルだってスイッチが入れば、そんな弱気な心など完全に忘れ去ることができる。
彼の鬼の化身のような戦闘力は、
そういった心の在り方を瞬時に変換できるところにあるのかもしれない。
才能や素質といってしまえば、本人はそんな解釈を拒絶するだろう。
・・・自分が生き残るため、
はらわたを捻じ切られるような苦悩や、
無限に圧し掛かる責任の重さから逃れる為に、
いつの間にか身に付けてしまった習性なのだ。
さて、
目の前の真っ黒な猛獣に、普通の人間なら誰しも尻込みするか、
圧倒的恐怖で、その場にしゃがみ込んでしまうものだろう。
勿論、タケルだって想像を超える大きさに、最初の瞬間ビビッてしまった。
その前脚ではたかれたら、顔面の肉は頬骨ごと、ざっくりえぐられてしまうだろうし、
新鮮なエサに飢えた上下の顎は、いとも容易く人間の腕を噛み千切るだろう。
・・・それでも、
戦闘モードに切り替わったタケルには、
もう恐怖の色など消え去ってしまっていた・・・。
「こいつが相手か・・・!」
天叢雲剣を抜くタケル!
既にその瞬間、青い小さな電流が剣身を疾走する。
放電に巻き込まれるのを恐れて、
グログロンガと酒田は、タケルから距離をとった。
一方、獣を操る調教師は、
獣の後頭部を2、3回撫で回すと、
その腕を高くかざした後、
一気にタケル達に向かってその手を振り下ろした!!
同時に獣を押さえつけていた鎖が外される!
グァルルルルルルルッ!!
待ち構えていたように黒く巨大な塊は突進を開始した!
その四肢の動きと共に辺りの岩場が揺れる!
スサの部隊の殆どは、戦闘用の銃を構えるも、
中途半端な威力では殺傷力は期待できまい。
・・・やはりタケルの右手の雷電で・・・。
だが、タケルにとって、天叢雲剣はあくまでも保険である。
いや・・・、
その放電は無意識に発現してしまっただけかも・・・。
スイッチが切り替わった段階で、
タケルは眼前の獣ごときに怯える気配はない!
その眼光は、強烈に・・・
確実に、今にも飛びかかろうとする獣の生存本能を射抜いていた・・・!
動物全てが持つ、死への恐怖・・・。
獣は直感で理解した・・・、
そこに決して牙を向けてはならない存在がいることに・・・。
地下世界の住人誰もが、
真っ黒い獣の巨体に組み敷かれるタケルを予想しただろう。
すぐに、真っ赤な流血が飛び散り、肉片がバラバラに貪られる・・・、
そんな予想を・・・。
だが、それに反して、
突然、獣は電流でも浴びたかのように、ビクついて後ずさった。
その視線はタケルに向けられていたが、
今や、落ち着きなく後方左右にステップを踏み続け、
怯えるような悲鳴を上げ始めたのだ・・・。
タケルのレーザーのような視線は獣に向けられたままだ。
そして彼が一歩、また一歩、足を進ませる毎に、
可哀想過ぎるくらい、獣は慌てて後ずさる。
改めて思えば、タケルはある程度、こうなる根拠があった・・・。
あの時も・・・、
化け物でも犬でもないが、
東京西部で起きた秘密製薬工場での爆発の時、
また、騎士団露西亜支部支部長イヴァンとの戦いの時、
人間には決して懐かない筈のライオンが、自分タケルにかしずいてみせた・・・。
原因も理由も分からない。
もしかしたら・・・、
タケルが自分自身で怯えているそのものを、
彼ら動物は感じているのかもしれない。
知能の低い爬虫類程度では感知できない類のものかもしれないが、
少なくともタケルが「それ」を意識しだした時、
どんな獰猛な獣でさえも恐怖か恭順の意を示す!
こんな・・・
未開の地の番犬でさえこの通りだ。
タケルが次に取った行動・・・、
それは空いている左の掌を背後の仲間たちに広げ、
獣を攻撃しないように指令する。
そしてその視線は、調教師の下へ・・・。
「無駄だ、
・・・オレも犬、好きなんだよ・・・。
オレにこいつを攻撃させるな?
わかるだろ・・・!?」
タケルの言葉に呼応するかのごとく、獣は悲鳴をあげる。
獣を抑えていた兵士たちや調教師は、現実の光景が理解できないでいた。
いったい、目の前の侵入者は、どんなマジックを使ったのか!?
タケルの後ろのスサ兵士たちは、期待以上の戦況にときの声をあげる。
・・・もっとも、タケルには一瞬の不安が彼の心中をよぎった・・・。
(爬虫類程度なら?
いや、そういや・・・あの秘密工場のとき、
大量の蛇たちがオレを・・・。)
そんな不安など、今はどうでもいい。
すぐに獣に意識を戻すと、やはり自分に対し怯えている様子だ。
後は調教師を何とかするか・・・。
どう見てもオリオン神群にも、冥界の王ハデスにも見えやしない。
「おい!?
オレの言葉は分かるだろう?
別にお前から攻撃してやってもいいんだぞ・・・。」
そして改めて天叢雲剣の放電を強める。
・・・すでに彼らも、地上からやってきた侵入者が雷を使役する話は聞きつけている。
そいつによって、トモロス・シルヴァヌス・・・、
そして未確認だが死の神タナトスでさえも敗れ去っていることも・・・。
その噂話が、現実に目の前に存在することを改めて認識すると、
もはや調教師自体が恐怖に呑まれ始めた・・・。
「や、やめろっ!
わ、わかった、コイツを大人しくさせる・・・っ、
し、しかしどうしてこんなに怯えて・・・?」
調教師は慌てふためきながら、真っ黒な獣の口輪を用意しようとする。
だが・・・そこに新たな変化が・・・。
バキィーンッ!!
その場にいる全員が、空気を破裂させるような金属音を耳にした。
タケルも・・・獣でさえも・・・。
ただし、タケルやスサの面々からは、音の源はわからない。
あの、不気味な門の向こうの坂道から、何かが降りてきたとしか・・・。
そして調教師たちが、その方向に視線を釘付けにしていることからも、
その方向から誰かがやってくることは確実なことのように思われた・・・。
ジャラ ジャラ・・・。
また鎖か・・・。
だが、獣臭さもなければ・・・異様な足音もない。
聞こえるのは、石段を踏みつけるブーツのような足音・・・それも二つ!
そして調教師は叫んだ・・・。
「あ・・・!
ク、クラトス様・・・ビア様!!」
次回、黒犬君の名前判明。
ちなみにケルベロスではありません。