緒沢タケル編14 冥府の王ハデス 糾弾
ついに衝撃の事実が明るみになる。
今のヘルメスの言葉が何を意味するのか、
スサのメンバーの全員がすぐに理解できたわけでもないが、
以前から、サルペドンの来歴に違和感を持つ者、
これまでスサの戦いの中で数度起きていた、偶然とは呼びがたい地震・・・、
それらの謎を一気に解決する事実に、
まるで連鎖反応のように彼らはサルペドンへの視線を凍りつかせてゆく・・・。
クリシュナ・・・酒田・・・グログロンガ・・・。
そしてタケルも・・・。
「何、わけわかんねーことを・・・」
そう口にするつもりでいた・・・。
だが、タケルにしたところで、これまでのサルペドンの言動・・・、
彼が聞かされていたサルペドンの過去・・・、
オリオン神群ポセイドンの伝説・・・。
デュオニュソスの村から、アテナ、デメテルの会話・・・。
それら全てを思い起こすと、
このヘルメスの言葉は・・・。
「・・・待て、ヘルメス・・・。
お前、今なんて言った?
誰に向かってポセイドンなんて名前を使ったんだ・・・!?」
別に聞きなおす必要など元々ない。
だが、あまりに突然の事実にそれを受け入れられないだけなのだ。
「あ~あ?
やっぱり仲間にバラしてなかったんだ?
それより、お前、俺たちの言葉、よくここまで使えるようになったな?
オレ的にはそっちの方が驚きだよ。
なんたって・・・」
「答えろ! ヘルメスッ!!」
タケルはヘルメスの脱線を許さない・・・。
普段とぼけた顔つきのタケルが、本当の怒りの形相に包まれたなら、
誰が、怯えずに平静を保っていられようか?
まだカラダの出来上がっていないヘルメスが、タケルの脅しにビビッたとしても無理はない。
本人はそれを決して表に出さないように懸命だが・・・。
「な、なに、マジになってんだよ?
そんなに知りたきゃ、後ろの本人に確かめりゃいいじゃん?
こっちだってシャレじゃ済まねーんだぞ?
お前ら地上の人間なんて、一ひねりだと思ってたら、
シルヴァヌスもアレスも、タナトスまでも殺られちまって・・・。
その筈だよ、
オリオン神群の中でゼウス様に次ぐパワーを誇るポセイドンが、
お前らと行動を共にしてたなんてな?
今からでも、アテナのお姉ちゃんやデメテルまでお前らに付いたら、
この地下世界は間違いなく、真っ二つに割れるっ。」
ヘルメスの話は続く。
「そんな事態になってみろ?
ゼウス様は生き残るにしても、
どんだけ大勢の人間が巻き込まれるか想像もつかない。
だからオレはそうさせない為にここまで来たんだ。
お前らの・・・ポセイドンの目的を確かめにな?
え? どうなんだ? ポセイドン?」
ヘルメスの質問は後回しだ。
というよりも、タケルは後半、殆ど聞いちゃいない。
カラダはヘルメスのほうを向いているものの、
その懐疑の瞳はサルペドンに固定されていた・・・。
そういえば・・・、
最初にサルペドンに会った時、
ギリシア神話を伝えると自ら言いながら、出身はギリシアではないと確かに言っていた・・・。
そして、サルペドンの父親だか祖父だか誰かが、タケルの会ったこともない曽祖父と出会って、
今のスサの母体が作られたというが・・・。
もし、サルペドンが大地の神ポセイドンであるというなら・・・。
「サルペドンっ!
今の・・・今の話は本当なのかっ!?」
サルペドンは先ほどから微動だにしない。
サングラスの奥の瞳はタケルのほうを向いているのか?
そして何故、反論しない・・・?
何故、否定しない?
何故・・・黙っているままなんだ!?
やがて・・・サルペドンはため息をつくと、
ゆっくりと自らの右手をサングラスにかけた・・・。
その傷を見るのは久しぶりだ。
火傷の様なもので潰れた右目・・・。
そして・・・ついに観念したかのように、
サルペドンは頭を下げた・・・。
「その通りだ・・・。
私がオリオン神群の一人、大地を司る者ポセイドンだ。
この傷は、100年以上前にゼウスの雷を浴びて傷ついた痕・・・。
そして、私は惨めにもこの地下世界を逃げ出した・・・。
その後、タケル、
お前の曽祖父に出会って、半死半生だった私は保護された・・・。」
どれだけ凍りついた時間が過ぎただろう・・・?
その堰を切ったのは酒田さんだ。
「てめぇ・・・サルペドン!
ふざけんなっ!!」
いきなりサルペドンの胸倉を掴みかかったのだ。
「お前っ・・・!
お前がもっと早く・・・騎士団戦でもその力を使えばっ・・・!
もっと楽に勝負が決しただろう!?
ここに来てからだってそうだ!!
みんながお前の力を知って・・・もっと綿密に作戦を練ればっ!
デンだって、ダイアナだって・・・
多くの仲間も死ぬこたぁなかったんじゃねぇのかっ!?」
これは反論できません。
次回、マリアがサルペドンを助けるために彼女も隠してきた事実を公表します。