緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 連れ去られるヘファイストス
言わんこっちゃない!
まだ無理をできる体ではないのだ。
激しめにタケルを諫めるサルペドン。
「いい、お前は寝ていろ、
私が行く!」
すると、廊下から聞こえてきた急ぎ足の音が部屋の前で止まる。
ノックの嵐!
「どうした!? 鍵は開いている!」
『その声はサルペドン様ですね?
この村のバシレウス、ネストールです!』
何事だ?
すぐに扉が開かれ、
入ってきたネストールは、まるでタケルかサルペドンの臣下であるかのように、
ひざまずいて頭を垂れたのである。
「い、いったいどうしたのさ、ネストールさん!?」
「お休みのところ、大変失礼を・・・!
そ、そしてこのような事をお頼みできる筋ではないのを百も承知で・・・!」
サルペドンが冷静に問い詰める。
「だからどうしたと言うのだ?
何か緊急の事態でも?」
「はい・・・!
あろうことか、王都ピュロスから、
二人のオリオン神群・・・クラトス様とビア様が突然いらっしゃり、
ヘファイストス様が敗れたと聞くと、
半死半生のヘファイストス様を拘束し、
ハデス様のテメノス・メタパへと連れ去ってしまったのです!!」
サルペドンに怒りの炎が燃え上がる!
「何だと!?
クラトス(権力)とビア(暴力)!?
絶対安静のはずのヘファイストスをか!?」
「はい、それどころか・・・
いえ、これはあの方が勝手について行っただけなのですが、
神官ネレウスまでもが、ヘファイストス様の世話をするといって一緒に・・・。」
はぁぁぁぁ!?
「奴らはまだいるのか!?」
「いえ、もう、あっという間に荷車に拘束してしまい、
われらには最早、どうすることも・・・。
そ、それでもし!
もしあなた様方に頼ることができましたならば、
お二人を・・・
お二人の命を救っていただけないかと・・・!」
サルペドンの怒りは凄まじい!
「・・・奴らは!
敵である我らスサではなく・・・、
これまで忠誠を尽くしてきたヘファイストスを罰しようというのか!?
直接の相手である筈のポセイドンでもなく!
先代と二代に渡って巻き込まれただけの、
ヘファイストスを痛めつけようというのかっ!!」
あまりの激昂ぶりにタケルでさえびびるほどだ。
ネストールは完全に畏まって願い続ける。
「お恥ずかしいことなれど、
我らが頼れるのはあなた方しかございません!
何とぞ・・・、
何とぞ、ヘファイストス様とネレウスを・・・!」
サルペドンの意思は一つしかない!
問題はタケルだ、
振り返ってタケルを見ると、
戦う覚悟はバッチリできてはいるが・・・。
「タケル・・・。」
「おう!
て・・・なんだ、サルペドン、意外と元気ねーな?」
「いや、お前は朝まで休んでいろ・・・。」
「はぁぁぁぁ!?」
すぐにサルペドンは首をネストールに戻した。
「ネストール殿、
これだけは約束する・・・!
ヘファイストスとネレウスを守るために全力を尽くす!
だが、今は万全の状態ではないのだ。
タケルにも回復する時間が要る。
・・・彼らはメタパに向かったのだな!?
ならば、次の目的地だ!
そこで冥府の王ハデスともども討ち取ってくれる!!」
ネストールには最早、否応もない。
彼もまた、崇拝とまでいかないが、この地のポセイドン伝説を知るものである。
今やスサに、タケルに、
ポセイドンの血脈とされる彼らに、
パキヤ村の全ての命運を投げかけていたのである・・・。
そしてこちらは、ヘファイストスとネレウスを連れた荷車の一団。
先頭は5~6頭の馬に率いられ、
比較的なだらかな道を次の町まで走り続けている。
夜道であるが故に、それほど飛ばしてもいないようなのだが・・・。
なお、夜と言っても、
ご承知のように光量を極端に落とした擬似太陽は健在である。
話を戻そう。
一際大きい荷車の中には鉄でできた檻があり、
手足を鎖で封じられたヘファイストスがぐったりとしている。
見張りが二人ほど控えているが、
ネレウスは、ヘファイストスの世話をする事を許され、一緒に檻の中に入っていた。
「・・・惨うございますな・・・。
この鎖は、先代ヘファイストス様を戒めていた鎖と同じものではございませんか?
例えヘファイストス様の炎でも、
これを外すのは容易ではないでしょう・・・。」
ヘファイストスの体力は確かに桁違いなのか、
ぐったりとしながらも、体は小康状態を保っている。
「ネレウスよ・・・、
何故ついてきた、ついてきたのだ・・・、
そなたは、私の神官ではないはずだ、ないであろう・・・?」
ネレウスはヘファイストスの包帯を替えながら、
申し訳なさそうに頭を垂れる・・・。
「せめてものお詫び・・・でしょうか?」
「詫び?
何を言っている? 何を言っているのだ・・・?」
「あなた様を巻き込んでしまいました・・・。
私はポセイダーオンの真の姿を見てみたい。
その為にあなたを利用してしまった・・・。」
「ネレウスよ、分からぬ、
お前の言っていることが分からない、
ああ、もう考えるのも億劫だ、億劫なんだ。」
「せめて、何も考えずに傷を癒すことに専念なさいませ、
メタパを通り越し、王都ピュロスまでいけば、
医の神アスクレーピオス様もいらっしゃいます。
この程度の火傷は治癒できるでしょう。」
珍しくヘファイストスが自虐的な笑みを浮かべたのか、口元がひきつる。
「ふ・・・ゼウス様が許すはずもない、許すわけもあるまい・・・。」
「いえ、既に運命の歯車は回り始めています、
それが吉となるか、凶となるかはわかりませんが、
この先、我々の予想など、簡単に裏切る未来が待っているかもしれません。」
「・・・もういい、もうよい、私は疲れた、
いずれこの身に受ける責め苦の時まで休ませてくれ、もう休むとしよう・・・。」
目を瞑ったヘファイストスを、しばしネレウスは見つめていたが、
視線を上げ、かすかに開いている荷車の窓から、
外の景色を覗き、ネレウスは一人つぶやいた・・・。
「かつて地上で出会った賢人、クネヒト・ルプレヒトよ、
時が・・・、
あなたの仰ったその時は、もう私の目の前に近づいてきているようです。
今、この地下世界の外も、
・・・変わり始めているのでしょうかな?
『かの神』の目覚めに呼応するかのように・・・。」
次回、新章いよいよオリオン神群ナンバー2、ハデス編です!!
タケル最大の試練が待ち受けてます!!
クネヒト・ルプレヒト・・・
覚えてますかね?
レディ メリー最終章で「赤い魔法使い」が叫んだお名前です。
当然ですよね、
この世界に神と呼べるものは一人だけ。
・・・ならば、
ポセーダーオンと「かの神」は同一人物ということに・・・?