緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 言い知れぬ不安
決着しました!
「き・・・聞け! 聞くのだ!!
ポセイドンの血・・・血筋のものよ・・・、
血筋のものよ。」
あ・・・!?
何かタケルに伝えるべきものがあるというのか?
「ここ・・・ここから先、は、
オリオン神群・・・首脳・・・
ハデス様と、
全知・・・全能のゼウス様おわすピュロスの都・・・
この程度の雷撃で・・・
敵うとでも・・・思うのか、思っておるのか・・・っ!?」
それは・・・。
言いよどむタケルにヘファイストスは空を見上げる。
「あの太陽もだ・・・、
我らが何千年と発達させてきた能力・・・、
甘く見るな・・・、見てはならぬ・・・。
一朝一夕で打ち破れる筈も・・・!」
どうやら・・・
戦うつもりや殺意はないようだ・・・。
これはヘファイストスの・・・精一杯の忠告。
すると、
ヘファイストスは全ての力を使い果たしたのだろう、
その腕から急速にが失われ、
タケルの足元へとゆっくりと崩れ去る・・・。
その顔面が、地面に激突する寸前に、タケルは彼の体を支えることに成功!
すると、
スサ、そしてパキヤ村の人々双方から歓声が沸きあがった。
彼らの思いは、両者一致するものでないかもしれないが、
共に最悪の事態は免れたと思ってよいのだろう。
タケルにしても早く倒れこみたい。
あああ、
みんな後は頼むぜぃ・・・
疲れた・・・わ。
村人たちに、意識を失ったヘファイストスをゆっくり引き渡すと、
タケルも広場にばったり大の字になって寝そべった。
フカフカのベッドが欲しい・・・、
そんで思いっきり・・・。
ここに・・・
ようやく苦しい戦いが終わった・・・。
そしてまた、
タケルの前にまた一つ、新しい扉が開かれた・・・。
だが、
それは彼のこれからの果てしない成長を意味するのか?
それとも、
その先に、とてつもない落とし穴でも待ち受けているのであろうか?
タケルは運ばれてゆくヘファイストスの方を見つめながら、
改めて、自分の体に流れるという神の力の一端に、戦慄を覚えた・・・。
今は夜。
タケルは、火傷や裂傷の治療を一通り受けたあと、
村の宿泊所に運んでもらって爆睡かましていた。
・・・おっと、もう目が覚めていたか、
毛布の中から左腕を抜いて、
自分の顔にかざしてその手のひらを観察しているようだ。
・・・別にただの左手だよな・・・。
何の変化もない。
当たり前といえばそれまでだが、
タケルは先の戦いで発現した、サイコバリヤーの正体を理解しかねていた。
いったい、どうして・・・。
ここには誰もいない。
今一度、精神を集中して、”壁”を作れるかどうかチェックしようとする。
・・・なにも起きる気配がない。
さっきのは幻だったのだろうか?
いいや、幻だったら今頃自分は黒焦げだ・・・。
精神集中が足りないのか、
オリオン神群の能力等、今まで聞いた話を総合すれば、
恐らく天叢雲剣で電撃を放つときと、やり方は一緒のはずである。
単に今はそこまでのエネルギーが溜まらないだけか。
では・・・。
タケルはあきらめて別の試みを・・・。
首を無造作に動かすと、頭の近くにナイトテーブルがある。
天板の上には水差しが・・・。
何を思ったか、タケルはその水差しを睨み付け始めた・・・。
10秒、
20秒・・・。
呼吸すらしているのかしていないのか・・・。
するとどうだろうか?
陶製の水差しが、
いきなりズズッっという音と共に、数センチほどテーブルの上を移動したのである。
タケルの眼球がビクビク動く。
一度、タケルは深呼吸して意識を散らした・・・。
思ったとおりだ・・・。
目を覚ましてからというもの、
精神力というものに対して、タケルは自分なりに考察を続けていたのだ。
オリオン神群すら時に凌駕する天叢雲剣の雷撃・・・。
その力は神代から伝わるこの剣によるものだが、
剣そのものは精神エネルギーを電撃の「形」に変換しているだけで、
それ以上の力はない。
むしろ精神エネルギーを増幅させるのが、胸に架けられた「紋章」・・・。
最近カラダに架けっぱなしになっているが、
最初、こいつを手にしたときから、
気分の高揚というか、興奮がただ事ならなかったのを覚えている。
もう落ち着いたけども・・・。
今、
その紋章によって高められた「興奮」も、一つのエネルギーに集約できるというなら、
どんな形に変換するかによっては、
雷撃とは別の形で発現させることは可能ではないのか?
その結果、考えたのが先ほどの行動である。
いまだわずかの効果しかないが、
手も触れずに見るだけで、小さな物体なら移動できる。
もっとも・・・
この程度なら何もできないのと一緒だ。
手で動かしたほうが何倍も早いし確実だ。
普通の人生を送っているのなら、それでも小躍りしそうな能力なのだろうが、
今はあまり喜ぶ気にもならない。
ただ、
自分の可能性について、新たな世界を見つけたのは確かである。
この「力」があれば、この先きっとなにか・・・。
いや、待てよ?
これって・・・
意識の力を高める地下世界だからこそ可能だったのだろうか?
地上に戻ったら、全く使えなかったりして・・・。
おっと、誰かやってきやがった・・・。
次回、急展開!