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緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 絶体絶命

 

 「タケル殿は分が悪いようですなぁ?」

他人事のように呑気なネレウスの言葉にサルペドンは臍を噛む。

 「・・・むぅ・・・!」

 「サルペドン様、一つ伺ってよろしいでしょうか?」

 「なんだ、こんな時に!?」

 「いえいえ、あの・・・先ほどもお聞きしましたが、

 タケル殿の胸の首飾り・・・、

 その目的は、本当に血筋を明らかにする、・・・だけのものなのですか?」


ネレウスは何を言いたいのか?

他にも天叢雲剣を所持するための・・・という理由もあるのだが、

サルペドンがイラつきながらも黙っていると、

そんなことはお構い無しに、ネレウスは独り言のようにつぶやいた。

 「紋章・・・

 それ自体にとてつもない霊力が込められておりますな?

 その性質、如何なるものなのか、私には判別できませぬが・・・、

 持ち主の精神集中にどれだけの影響を与えているのか・・・。」

 

この緊急時だ、

サルペドンはネレウスの言葉を無視するつもりでいた。

だが、その時、ハッと気づく・・・。

さっき、洞窟で初めてネレウスに会ったとき、

ネレウスは自分とタケルから大きな精神エネルギーを感じたと・・・。

その精神エネルギーとは、

サルペドンにとっては、大地を揺するポセイドンの能力、

タケルにあっては天叢雲剣の助力を得てだが、全てを焼き焦がす雷電の力・・・。

現在はそれが封じられているわけだが・・・。

ネレウスの言葉は続く。


 「タケル殿はご自分の力を使えないようですが・・・、

 状況的に『使えない』だけなのですかな?

 それとも力の使い方を『気づかない』のですかな?」


ネレウスの言葉の意味がわからない。

サルペドンがそれに気を取られた瞬間、

戦いの場ではついにタケルの体力が限界に近づこうとしていた・・・!

 



タケルのカラダが戦車に跳ね飛ばされる!!

備え付けの槍に脇腹も切り裂かれたのか、

あっという間に、タケルのユニフォームが赤く染まっていく・・・。

手も・・・足も出ない・・・。

未だ天叢雲剣を使う精神力は残っているが、

それを振るえるチャンスが作れないのだ。

膝の関節も折れてはいないようだが、

力を入れるたびに激痛が走る。

ゆっくりと慎重に近づいてくるヘファイストスから逃れる術もない・・・。

ヘファイストスは、左手の火柱を最大限に噴き上げた。

 「悪いことは言わん、降参せよ、降参せよ、

 わしだって、誰も殺したくないのだ、殺されたくもないのだ、

 ゼウス様は寛大な方だ、

 お前たちとて、ポセイドンの口車に乗せられた、騙されたと話せば、

 その命、助かるかもしれん、いや、きっと助かるだろう。」

 


必死に呼吸を整えるタケル・・・。


確かに、このヘファイストス、

・・・根は悪い奴じゃなさそうだ、

戦いが終わるのなら、気さくに付き合えるのかもしれない。

だが、これまでに出会った他のオリオン神群、

あまりにも惨い殺され方をしたミィナの故郷の人々・・・、

会ったこともないポセイドンなんて知ったこっちゃないが、

ここまで自分たちの意思で、あの冷酷な神々と戦ってきた。

自分が剣を置いて、これ以上、他の人たちの命が助かると言う保証は何もない。

自らがそれを諦めるなんてできるわけもない。

しかし・・・一体どうすれば?

こんな時、美香姉ぇならどうする?

その圧倒的な意志の力で以って、ヘファイストスを説得するだろうか?

その力強い眼光で相手を屈することができるだろうか?




・・・その時、

美香のことを一瞬思い出したとき、

不思議にも、別の女性の姿も同時にタケルの脳裏に浮かんでいた・・・。

あの時、思わず美香姉ぇと姿を重ねた「戦いの女神」・・・アテナ。

全ての攻撃を遮る絶対防御の盾・・・。

 

パラス・アテナ・・・。

かつて、ポセイドンやデメテル、ヘファイストスと志を共にしていたと言う女神ならば、

この状況を脱することができたのではないか?

いや、それが叶わなくても、

女神アテナの「アイギスの盾」があれば・・・。


現実のこの場では、

タケルはもう、ヘファイストスの言葉に反応すらできなかった・・・。

ヘファイストスは残念そうに、一度首をふると、

タケルの苦痛を慮ってか、

一瞬でタケルを焼き尽くすことを決断したようだ・・・。

 「さらば、さらばだ、若者よ・・・!」


 「いかん!」

サルペドンが身を乗り出した!

だがその動きは突然阻まれる。

 「御方よ!

 ・・・なりませぬ!!」

彼が、ヘファイストスより一瞬早くそのポセイドンの力を使おうとした時、

在ろう事か、

傍らのネレウスが、折れそうなほどに細い両腕でガッチリと掴みかかってまで、

かつての主の行動を制止したのだ・・・!

 「ネレウスっ!?

 何故邪魔をっ・・・!」


もう間に合わない!

ヘファイストスの左手は、一気にタケルの胸から頭部にかけて、

その舞い踊る炎の柱を噴き上げた。

タケルは最後の抵抗を・・・


いや、抵抗になるはずもない。

何も握っていない左手を、

せめてもの盾代わりにその火柱にあわせて突き出しただけだ。

そんな事をしても、タケルの上半身より一瞬早く、腕が焼き尽くされるだけのこと・・・。

だが、

・・・せめて・・・。




 「ぅゎぁああああああっ!!」


誰もがタケルの最期を覚悟した。

タケル自身、終わりと考えていたのだ。

・・・だが・・・。

 





次回、タケルに新たなる扉が開かれる。


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