緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 天叢雲剣破れる!
すでにヘファイストスは優柔不断な顔を消し、
覚悟を決めたか、一人の戦士の顔つきになっている・・・。
この距離ではまだ、天叢雲剣は届かないが、
接近しつつ精神力を爆発させ雷電を放つ!
タケルは右腕を構えてエネルギーを溜め始めた・・・!
一気に勝負をつけてやる!
ところがいきなりタケルは意表をつかれた。
いまだヘファイストスまでの距離は大きく開いているのに、
早速ヘファイストスは攻撃の構えを見せたのだ。
ま さ か・・・。
そのまさかだ、
ヘファイストスは大きく振りかぶって、手元の槍を思いっきりタケルに投げつけたっ!
それも2本立て続けに!!
「うわっ!?」
勿論、これだけ離れていれば避けるのに造作はない。
ただ、数秒、足を止められてしまったのは確かだ。
その隙にさらにヘファイストスは・・・。
「なんだぁ!?」
タケルはさらに驚愕する。
今度はヘファイストスの槍は、遥か上空に向かって放たれた!
これは前にアルテミスが使った戦法か?
二番煎じなど通用するわけもない!
しかも落下地点はタケルの遥か前方・・・、
ヘファイストスは、タケルが突っ込んでくるとでも予想したのだろうか?
アルテミスのように、飛んでいるものを操作できるのならともかく、
ただの腕力で投げつける槍など怖くも何ともない!
ザクッ! ザクッ!!
「それでしまいかぁ!?」
地面に突き刺さった槍が邪魔で、これ以上の接近は一時阻まれる。
だが既に、この位置は天叢雲剣の射程距離内っ!
投擲をこれ以上、企てようとしても電撃のほうが早いっ!
「叫べ、いかづちっ!!」
大気を切り裂く衝撃音!
この場にいる全ての者の目が眩む!
それでもスサの殆どは、
黒焦げになったヘファイストスの姿を予想したはずだ!
・・・だが。
一瞬、タケルの目は信じられないものを見たかのように、
剣を持つ腕を振り下ろしたまま固まっていた・・・。
眼前のヘファイストスが、
何事もなかったかのように次の攻撃の準備をしていたからだ。
唯一サングラスをしているサルペドンが全てを認識する。
「し、しまったぁ!
タケル、避雷針だ!
ヘファイストスはお前との間に槍を突き立てることによって、
天叢雲剣の攻撃を無効化させる作戦だっ!」
「はぁっ!?」
そんな知識を持っていたのか!?
そういえば、
地面に突き刺さってる槍の穂先の辺りから煙が立ち昇っている・・・て、
「うわぁっ!」
ヘファイストスは攻撃の手を休めるつもりはない。
すぐに連続攻撃でタケルを・・・。
いや、攻撃ばかりか、
またもや上空に槍を放り投げ、避雷針の数を増やしてゆく。
あらためてヘファイストスの姿を見ると、
戦車のタイヤはゴムのようなもので絶縁し、
右の手甲の下にも厚い生地の何かを巻いているようだ・・・。
完全に天叢雲剣の対処はできているということかっ?
「それしきのことで・・・!」
獣のようなダッシュ力を誇るタケルは、
ヘファイストスとの間に林立する槍を次々とかわし、距離を詰める。
だが、それすらも嘲笑うかのように、ヘファイストスは器用に戦車の方向を変え、
必ず自分とタケルとの間に、槍が収まるようにジグザグに進んでいく。
なんて腕力だ!
だが、どれほどの力を誇ろうとも、
タケルの脚力を上回ることなど有り得ない!
次の次・・・!
電撃が届かないなら・・・直接この刃で・・・!
ちょうどその時、この決闘場に老人ネレウスが到着していた。
お付の者と共に近づいた場所は、他でもない、サルペドンの傍だ・・・。
「・・・始まっておるようですな?」
「ネレウス・・・!
そなたの本心は・・・何を望む!?
ヘファイストスが勝とうとも、タケルが勝とうとも、
パキヤ村の神官として、そなたに得るものはないはずだ!」
中央の広場での激しい戦いなど、どこ吹く風、
ネレウスは瞼の隙間から、白い瞳を覗かせながらつぶやく。
「私は・・・
見届けたいだけなのですよ、
大地の支配者、ポセーダーオンの真実を・・・。」
スサ側にとっては、ネレウスの到着はタイミングが良いとは言えなかった。
サルペドンは、ネレウスに気を取られるべきではなかったのだ。
・・・何故ならば・・・。
タケルが接近戦を試みるべく、激しく弾丸のような突進を行う。
サルペドンが「それ」に気づいたとき、
すなわちヘファイストスが、
自らの能力を発現させようとする瞬間であった・・・。
ヘファイストスの左手には手甲がない。
その左の手のひらを開いたヘファイストスは、
下方から撫で上げるような動きで、向かってくるタケルにその左手を突き出したのである。
絶叫するサルペドン・・・。
「いかん! 近づくなぁーっ!
それがヘファイストスの・・・」
サルペドンの忠告が耳に入ったときには既にもう手遅れだ。
タケルの目にも、その兆候が飛び込んできた。
ヘファイストスの左手が赤く・・・
いやオレンジの光に包まれたかと思った瞬間、
その左腕から真っ赤な火柱が、タケルのカラダを包み込んだのだ!
「うわぁああぁっ!?」
すぐにタケルは逃げるように転がり、体勢を整えるも・・・、
自分の衣服と前髪の一部が焼け焦げて・・・
違う、腕の皮膚も一部焼け爛れている。
すぐに次の行動に移れるような体勢を保持しているが・・・、
タケルは今、放心状態だ・・・。
天叢雲剣を封じられ、
中距離・・・そして近距離、両方の攻撃を、
事実上、ヘファイストスにイニシアチブを取られてしまったのだから・・・。
あ、意外と緊迫していた・・・?
彼の能力は炎です。
次回、追い込まれるタケル。