緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 ヘファイストス出陣
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「あーっと、お邪魔しますよ・・・?
ネレウス様、そろそろお時間ではございますが・・・。」
タケルたちが振り返ると、先ほどのネストールが戻ってきていた。
時計を見たら、既に洞窟に入ってから一時間が過ぎている・・・。
どうやら・・・
戦いが始まらざるを得ないようだ。
サルペドンは一度ネストールに確かめる。
「ネストール殿、
一度、ヘファイストスに話し合いを行う機会は設けられるだろうか?」
サルペドンには、先代ヘファイストスを巻き込んでしまった負い目がある。
悲劇は繰り返したくはない。
もちろん、タケルにしたって無駄な殺し合いなどまっぴらだ。
だが、ネストールにその回答を行う権利もありはしない。
「サルペドン様の申し出は伝えてみますが・・・、
あの方のおられる立場を考えるのであれば、
却ってそれは酷な願いかもしれませんよ・・・。」
仕方がないのだろうか・・・。
もし戦いになれば、どちらかが命を落としかねない。
勿論、ゼウスの居城に着く前にタケルに倒れられるわけにもいかないし、
ここパキヤ村において、ポセイドンの能力を使うわけにもいかない。
オリオン神群の中でも穏健な性格たるヘファイストスを、
二代に渡って苦しめねばならないなんて・・・。
ネストールはタケル達を案内するかのように背中を向けた。
その腕はみんなを促すかのように差し出されたまま・・・。
タケルも戸惑いながら、ついて行くしかない。
サルペドンは最後尾から、後を追おうとしたとき、
それまで静かにしていたネレウスが、今一度サルペドンを呼び止める。
「あの・・・もし?」
「ん? なんでしょう、ネレウス殿?」
「あの・・・タケル様の首元に架けられた円形の飾り・・・
あれは一体?」
うん?
それは「紋章」のことだろうか?
「・・・ああ、あれは彼の先祖から、代々受け継がれているという一族の証であり、
彼が振るう雷の剣を持つ資格とも言える。
それが・・・何か?」
その説明を聞いて、ネレウスはしばらく考え込んでいたようだ。
だが、やがて一つの結論に達したのか、
ゆっくりその白い髭に覆われた口元を開く。
「左様でございますか・・・。
するとつまり、
あの首飾りは・・・ポセーダーオンの血筋を示す為の物、
と考えてよろしいのでしょうか?」
「何か・・・気になるところでも?」
「いえ、それほどの事は・・・。
強いて言えば、この場であなた様を呼び止める口実のようなものでございますよ・・・。」
サルペドンに緊張が走る。
・・・もう、タケル達は先に行ってしまった・・・。
「まさか、ネレウス・・・。」
そこでヨタヨタと老人は膝をついてしまう。
お付の者がカラダを支えようとしても、
ネレウスはその強靭なる意志で動こうとはしない。
「大変・・・大変、申し訳ございません・・・。
あなた様を長年、欺くような振る舞いをしてしまい・・・。」
やはり、この老人は気づいていたのだ。
サルペドンがかつての主であることに・・・。
「・・・ショックは受けている・・・。
だがネレウスよ、
そなたを恨んだり、責めるような気持ちは毛頭ない。
それより私が逃げ出してから、ゼウス達の嫌がらせなどは有りはしなかったのか?」
「いえ、それはほとんど・・・。
アテナ様やデメテル様が、
お身体を張って、我らに被害を受けぬようになさって頂きましたゆえ・・・。」
サルペドンは唇をかみ締める・・・。
「そうか・・・。
全く私は、仲間に恵まれていたようだ・・・。
ここまできたら、どうあってもゼウスの野望を止めなければ・・・な!」
さて、
いよいよこの村の現在の主、ヘファイストスが出陣する。
頑丈そうな胸当てと、滑らかな動きを保持した手甲を装着し、戦の支度をしているのだが・・・。
頭のてっぺんが光り輝くヘファイストスは、落ち着かなく周りの召使に話しかける。
「あー・・・、手紙は届いていないのか、戻ってきてもいないのか?」
「ヘファイストス様、今日は何も届いておりませぬ。」
まだ諦めない様子のヘファイストス。
「んー、ではアフロディーテ本人もやってくる気配はないのか、ないのだろうか?」
「・・・それは私めには・・・?
ただ、これから血生臭い戦いの場が始まると言うのに、
あの方がやってこられるとも考えづらくありませんか?」
ようやく兜も頭に乗っけたはいいが、うまく結び目を結わえることもできず、
召使のコメントに我慢できないらしい。
「なんてことだ、なんということだ、
将来を約束した仲なのに、この命を賭けた一戦に、
その婚約者の身を案ずる行動も見せぬとは・・・!
あああ、愛しのアフロディーテ、
そなたはいずこにありしや、
そなたの心はいずこを彷徨っているのであろう?」
召使は精一杯、同情しているも、
心の中では自分の主人に突っ込みを入れていた。
(あの美しい女神様が、この中も外もパッとしないヘファイストス様に心を傾ける筈もなぁ、
やっぱり無理があるよなぁ・・・。
いくらゼウス様の褒章とはいえ、アフロディーテ様だって耐えられないだろうに・・・。)
内情をぶちまけると、
この代になってから、ヘファイストスのゼウスに対する忠義振り、
そして、パキヤ村をうまく統治している事への恩賞として、
ゼウスが、オリオン神群一美しいとされるアフロディーテとヘファイストスを婚約させたのだ。
勿論、牧歌的とも言えるヘファイストスの人の良さは、
パキヤ村の住人であろうと、周りのオリオン神群であろうと定評がある。
しかし稀代の美貌を誇る女性の身にしてみたら、
彼はあまり魅力的とも言えない。
ヘファイストスの作る装身具やアクセサリーは女神も満足なのだが・・・、
このオヤジ臭く下半身も見すぼらしいハゲ頭では・・・やっぱり、ねぇ?
ちなみにアテナのアイギスの盾は先代ヘファイストスが・・・、
そして、タケル達が最初の頃に出会ったアルテミスの弓は、
ここにいるヘファイストスの作品である。
次回、サルペドンの葛藤。
なお、最後に名前が出たアフロディーテさん、
このオリオン神群編では出番ありません。