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緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 作り変えられる神々


ネレウスの話は続く。

 「そんな時、比較的安定していた我々の祖先の間に、恐ろしい災厄がやってきたのです・・・。

 それは火山噴火と海洋民の侵略・・・。

 多くの町は瓦礫の下に埋もれ、残った物資も海賊たちに奪われて・・・。

 もはや、作物も採れないと判断した祖先は、決死の思いで祖国を捨て、

 西の海へと旅立ったのです・・・。

 その旅も困難を極め、多くの犠牲者が生まれましたが、

 数々の英雄たちの活躍もあり、

 この地下世界へと通じる入り口を発見できたそうです。

 そして、

 自分たちが永住できる場所を見つけると、

 彼らはもう一度、自分たちが生き抜くために、整った国家を作り上げる必要があると考えました。

 その為には権力組織だけではなく、

 神々の世界にも、はっきりとしたヒエラルキーを権現すべきと考えたようですな・・・。

 その集団内で最も高い権勢を誇っていた者たち・・・、

 ゼウスを崇める一派が、

 その他の生き残りや、その神々を集め、

 一つのパンテオンを作り上げた・・・。

 それがオリオン神群の母集団となります・・・。

 

 これはパキヤ村に限った話ではありませんが、

 その中央でポセイドンを信奉していた神官の一人が、

 このパキヤ村に最高権力者ダマルテスとして派遣されてきます。

 勿論、当時のピュロス王も、

 村人たちの反感を買わないようにとの配慮から、

 我々が崇めるポセーダーオンに通ずるものとして、

 ポセイドンの神官を派遣したのでしょう。

 やがて、元々はその神官も、高い精神性と信仰を持っていた為なのか、

 特殊能力に目覚めるものが出てまいりました。

 それは、代を重ねるごとに強力となり、また同時に、

 特殊な選民意識と権力意識を肥大させてゆくことになります。

 元は、ただの神官であったはずの家系は、

 その崇める神そのものの血を受け継いでいるとまで錯覚し・・・、

 ある意味、その自己暗示も影響しているのでしょうな、

 天変地異をも起こす、凄まじい能力を得る者まで現れたのです・・・。」

 

ここまでの話はサルペドンにとっては驚くほどのものでもない。

彼自身、ポセーダーオンはポセイドンの別名或いは古い時代の呼称と認識していた。

故に、ここから先の話が話の中核と言えるだろう。


 「さて、

 ここで先ほどの質問になるわけですが、

 ではポセイドンとポセーダーオンに違いがあるのか・・・、

 それは『ある』とも言えるし、『ない』とも言える。」

一度、タケル達は肩透かしを食う。

 「なんだよ、そりゃ!?」


まぁ、気を抜くにはちょうど良いかもしれない。

 「ほっほっほ、気を持たせて申し訳ありませんな?

 しかし、多少なりとも文化が異なれば、その神話は変容し、

 まるで、別の存在に変わってしまうこともあるでしょう。

 例えば・・・、

 先ほどの日本神話の例で言えば・・・、

 食物の神を殺したのが、

 スサノヲがその役を務める場合もあれば、

 別の物語では、夜を治める筈のツキヨミがその役を行う場合もある。

 

 ヨーロッパでは嵐の精霊ヴォーダンが、

 北方へ行くと神々の王オーディンになってしまう。

 しかもその性格はデモーニッシュなそれから、

 むしろギリシア文化のゼウスと近似したイメージに変容しているようです。

 

 ただ、この地にあっては、

 ポセイドンがゼウスの次席に甘んじている・・・、というだけで、

 我々の祖先はその教義を受け入れることができなかった。

 そこで敢えて我々は名前を区別し、

 その本質がわかりやすく示せるように、古い時代の呼び名、

 ポセーダーオンと呼ぶのです。」


スサ一同、ネレウスのあまりの博識ぶりに舌を巻く。

実は、今ネレウスはかなり重要な例えをあげたのだが、

いまだ、それに気づく者はいない・・・、

マリアやサルペドンでさえも・・・。

そして話はさらに衝撃的なものへと変化する・・・。

 


今度はネレウスからの質問だ。

 「さて、皆さん、

 私たちは、あなた方が『ポセイドンの地上における子孫』達だと聞きました。

 日本神話のスサノヲの名前が出るところを見ると、

 そのような単純なお話でもないようですが、如何なのでございましょうか?」


ここはサルペドンの出番だ。

これまでタケルが聞いたような、スサ結成までの聞き覚えのある話を説明する。

 

 世界各地に共通して存在する、大昔の災厄・・・。

 人間を助ける為に、その身を犠牲にしたという当時の神・・・。

 そして、復活信仰まであるということを。


ただ、

この話を続けるサルペドンも、

自分の口からエピソードを話すたびに、背筋に冷たい物を感じてゆくのだ・・・。

何故なら、スサ発祥の縁起は、

サルペドンが、パキヤ村の主ポセイドンとして過ごしていた時に得た知識ではない。

ゼウスとの戦いに敗れ、

半死半生で地上に逃れ、

やがて当時の緒沢家総代と出会ってより、収集し始めた知識だからだ。

それが、自分が暮らしていた世界にも元々存在していたとしたら?

あのネレウスの背後にある石像・・・

ルドラの鎧といかなる関係があるのか・・・。

 


今までサルペドンは、この戦いの中心人物の筈でありながら、

敢えて身を引いた位置に立ち、傍観的な立場に落ち着いていたはずだ。

それは正しい判断だったかもしれないが、

第三者に見られれば、「卑怯者」と言われる覚悟すら持っていた。

だが今、自分が直面している事実は、

まるで、自分が知らず知らずのうちに誰かの書いた筋書きを演じているのか? という、

奇妙な錯覚・・・。

まるで、最初からこうなることが決まっていたかのように・・・。


そしてもう一人、不安を増大させているマリア。

・・・覚えているだろうか?

タケルが初めてルドラの鎧を見たとき、

マリアはその場にいることができなかった・・・。

彼女の感知能力は、その呪具の禍々しいオーラを感じ取っていたからだ。

では、このルドラ・・・

いや、獣の姿をした古き神とは・・・一体?



久しぶりにあのお方の名前が出ましたね。


さて次回からいよいよ、

月の天使編、フラア・ネフティス編に繋がるお話が。

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