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第11話

ブックマークありがとうございます!!


今回でメリーの謎は全て明らかになります。

・・・ただし更なる謎も生まれますが・・・。



伊藤・レッスル・騎士団の一行は、

一旦、相模原の義純の自宅に寄っていた。

目的は騎士団からの情報の取得と、

これからの打ち合わせを行うためだ。

さすがにこれだけの人数が一遍に入ると手狭に感じるが、

義純は精一杯の気遣いで来訪者をもてなした。

一同に熱いマンデリンコーヒーを振舞う・・・、

下っ端のガラハッドがこき使われていたが・・・。

 「麻衣ちゃんだっけ? ハーイ。」 

麻衣にはホットミルクだ。

麻衣もためらいながら一度、父親の顔を見上げ、

その後、恐る恐る義純を見る。

 「・・・いただきます。」

 「熱いから気をつけてね。」

騎士団というだけあって、

もちろん全員紳士だ。

皆で、にっこり笑って麻衣を見つめると、さすがに恥ずかしそうだ。

床までギリギリ届かない足をバタつかせてカップを口に近づける。


 「・・・具体的にこれからどうするんですか・・・?」

伊藤は麻衣の隣で周りの人間の顔を見回した。

といっても、

この場で全ての事情を知っているのはレッスルだけしかいない。

最終的に、しわを刻まれた老人の顔に皆の視線は固定される・・・。

 

伊藤は続けて質問をぶつける。

 「大体、

 メリーが無事かどうかも分らないんですよね・・・?」

 「・・・いや・・・。」 

レッスルは重い口を開く。

 「あの『赤い魔法使い』の目的は、

 メリーを思いのままに従わせる事・・・、

 彼女にとって、

 命に関わるような事態には陥らんはずじゃ・・・。」

 「何者なんです?

 ・・・その『赤い魔法使い』とは?

 カルト教会ダイナスティの教祖だったと言うのは先程聞きましたが・・・。」


マーゴも口を挟む。

 「あー、その話、途中よねぇ?

 あたし達も聞きたいわ。」


 「・・・『エミリーの赤い手袋』というお話を知っておるかね・・・?」

レッスルの言葉で伊藤の顔に緊張が走る。

 

イギリスからの一行も、

その話は知らないようだ。

レッスルの問いには伊藤が答える。

 「詳しくは・・・知りませんが、

 もしかして・・・、

 母親にもらった手袋をなくしてしまう少女のお話・・・、

 ですか・・・?」

 「大まかには知っておるという事かな?

 ま、簡単にメリーの過去を話すとしようか、

 かつて『赤い魔法使い』は、

 ヨーロッパの山奥の湖から『マリー』という少女が入っていた人形を手に入れた。

 じゃが、

 その人形を動かすエネルギーは彼らの周りにはなく、

 奴めが何をどうしようと、

 ただ、人形は瞳をギョロギョロ動かすだけじゃった。

 それはそうじゃ、

 人形は感情も苦痛も感じないのじゃからな。

 ところが最後に、

 奴はとんでもない事を考えよったのじゃ・・・。

 イギリスの小さな町で、

 奴は自分好みの小さな女の子を見つけた。

 あんな可愛い子が自分のそばにいつもいたら、

 どんなに幸せな事かと思ったんじゃろうな・・・。

 そして自分のそばで無反応の人形に、

 その子を『入れてしまえる』事はできるだろうかと、

 考えよったんじゃ・・・。」

 


 え・・・?

 かつて東北の神父から聞いた話と微妙に物語が違う・・・?


 「待って下さい・・・!

 私の聞いた話では、

 少女は『手袋をなくした』と聞きましたが・・・、

 まさか・・・!?」

 「・・・あやつがわざと隠したのじゃ・・・!

 そして、その手袋を返す代わりに、

 その子エミリーに実行する事のできない約束をさせ、

 あやつはその企みどおり、エミリーの命を奪い取ったんじゃ・・・。」

マーゴも黙っていられない。

 「なんでわざわざ、そんな事をするのぉ?」

 「『契約』じゃよ。

 もし、奴がエミリーをすぐに殺してしまえば、

 人形のカラダに入れる前にマリーが復活する。

 ・・・当然そこで奴はマリーに襲われるじゃろう。

 じゃが、

 殺される本人がある程度納得する理由・・・

 取引や法的に認められたものによって死んだ者では、

 人形の報復衝動は発動しないのじゃ。

 兵隊同士の戦争や犯罪者の死刑で、いちいちマリーは動かない。」

 「すると、マリー?

 彼女はどういう基準で動くの?

 ・・・感情はないんでしょ?」

 

 「基本的に人形は、

 自分の周りにある強い感情を吸い取って動いておる。

 人間のカラダが、

 全ての空気の中から酸素を選ぶように、

 彼女も全ての感情の中から、

 自分の行動に変換できるものだけを自動的に選んでいる。

 ・・・自動的といっても、

 ベースは人間として生きてきた時の倫理観が強く影響する。

 別の者が人形に入れば、

 それぞれによって人形の行動パターンは変わるかも知れんな。」


 「・・・それより・・・!」 

伊藤の声が震えている。

 「じゃあ、その『魔法使い』は!

 自分の思い通りの人形を作るために!

 まだ幼い女の子を騙して・・・、

 怯えさせて・・・! 

 そして幼いその子に拷問を加えて・・・

 そんなことの為に残酷な殺害をしたって言うんですか!?」

 


あからさまに伊藤は怒っていた・・・。

かつての県議会議員や、

その孫によって起こされた、

自らの欲望の為に他人の人格や命を平気で踏みつける非道な者達・・・。

結局はあいつらと同類なんだ、

メリーでなくても許せはしない! 

 「そういうことになるの・・・。

 しかも、エミリーの感情を最大限に昂ぶらせるために、

 考えられるありとあらゆる恐怖と苦痛を与えたようじゃ・・・。

 自分にけして逆らわず、

 永遠に美しいままでいられる人形との生活・・・。

 あの変態は、

 そんなことを夢見ておるんじゃろ・・・。」

騎士団の精鋭たちも、

「赤い魔法使い」の非道さをリアルに感じ始めていた。

特に正義感の強い義純やガラハッドは、

伊藤の怒りに共感を覚え始める。

さすがに騎士団でもエリート中のエリートと呼ばれるライラックは冷静らしい。

紅い髪を垂らしたライラックがその先を尋ねる。

 「それで、マリー、エミリー・・・、

 そしてメリーと名前が変遷していくのは?

 他にも人形に閉じ込められた子が・・・?」

 

 「いや、基本的には二人だけじゃな、

 メリーと呼ぶのは別の理由じゃ。

 ・・・あれは、

 わしの『二代前』になるのかのう? 

 わしがマリーの人形に、

 大きな異変が起きているのに気づいたときは、

 既にエミリーが人形に入れられて地獄の日々を送っておった・・・。

 ・・・へこんだよ。

 さらなる悲劇が起きておるとは思わなかったしの。

 なんとか奴を欺いて、

 人形を奪ったは良いが多くの機能障害を起こしていた。

 マリーを成仏させる事すら叶わんというのに・・・。

 人間で言うなら、

 本来彼女達は、二重人格と呼ぶべき状態の筈じゃった。

 しかし、エミリーの精神状態があまりにも破綻しておるために、

 まともに動く事すらできなかったのじゃ。

 わしにできたのは・・・

 彼女達の業を重くする事だけ・・・。

 ある方法で、

 彼女達の自我を統一させようとしたのじゃ・・・。」

 

 「ある方法~?」

こんな聞き方でもマーゴは真剣である。

叔父のケイがこの場にいたら、また頭を押さえていたところだろう。


 「おまえさん達の言葉では・・・

 悪魔とか死神とか呼ぶべきものかの・・・?

 強い魔力を帯びた武器を彼女に与えた・・・。

 それは、

 あらゆる感情を集めるアンテナの役割もすれば、

 冥府の王の力の一部が流れ込み、

 使用する者の力を何倍にも膨らませる事ができる・・・、

 勿論、ただの人間がそれを使おうとすれば、

 精神を崩壊させる恐るべき武具じゃ。

 そしてそれと共に、

 彼女達に目的と名前を与える事にしたのじゃ・・・。


  お前はマリーでもエミリーでもない・・・。

  お前の使命は、

  死んでいく子供達の魂を救う事・・・、

  お前の使命は、

  この世の邪悪を打ち滅ぼす事・・・、

  これ以上、膝を崩して泣き叫ぶことはない・・・、

  これ以上、非道な魔獣達に蹂躙される事もない・・・、

  この鎌を手にするがいい、

  いまここに冥府の王は、

  お前に執行者の権限を与える・・・、

  いまここに、

  その執行者として、

  新たなるメリーの名前を与える・・・

 とな。」

 

 

一度レッスルは天井の方を見上げて一息つく。

遠い過去に思いを馳せているのだろう・・・。

そして思い出したかのようにレッスルは再び口を開いた。


 「洗礼・・・

 と言ったほうが分りやすいかもしれんな?

 その後、

 わしはメリーを日本に送り、

 あの魔法使いに容易に見つけられんようにした。

 そして彼女は今に至るまで、

 見事に冥府の王の使徒としての働きをこなしてきたよ・・・。

 実際に不幸な死を遂げた者達は、

 怨恨や憎悪といった魂の重荷をメリーに吸い取られて、

 悪霊と化すこともなく冥界に送られる・・・。」


伊藤は老人の話を真剣に聞いていたが、

・・・彼の知りたいことは他にあった。

 「レッスルさん・・・!」 

老人は黙って顔を上げる。

 「メリーにとって・・・、

 『助かる』とはどういうことなんですか?

 『赤い魔法使い』から解放される事だけなんですか?

 それとも、

 『人形』から解放される事なんですか!?」

長い沈黙の時間が過ぎる。

 「・・・今は、

 『赤い魔法使い』から解放するだけじゃな。

 もう一つの方法は、

 考え出す事ができん・・・。」

 

 「レッスルおじ様?

 そのー、

 あなたの言う冥府の王でもどうにかできないの?」

 「無理じゃな・・・、

 こっちからはコンタクトできぬ。

 わしの考えでは・・・

 暗い森の魔女、フラウ・ガウデン達の呪いが解ければ、

 それに繋がる人形の霊性も失われると思っておるのじゃが、

 それ自体不可能じゃ。 」

伊藤はフラウ・ガウデンの話は殆ど聞いていない。

当然、レッスルに聞きなおす。

 「何者なんですか、

 その魔女とやらは?」


 「アダムとイブを継ぐべきだった者・・・、

 時代の節目節目に現われて、

 神の意思を地上に体現すべし者、

 愚かにもその役目を放棄した者・・・。

 わしに言えるのはそれだけじゃ・・・。」


 「ア、アダムとイヴ・・・?」

義純もあまりの話のスケールに聞きなおしてしまう。

 「別の場所では・・・、

 エピメテウスとパンドラ・・・、

 そんな名前で伝えられもしとったな・・・。」

 



フラウ・ガウデン達は、イブの「生まれ変わり」などではありません。

全くの別人です。


「冥府の王」・・・いえ、「神」の意志を地上に体現する役割を持つ者、

それらは時代の節目節目に現れることになっている、

という設定です。


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VRoid版メリーさん幻夢バージョン
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