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緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 地下神殿

 

声にこそ出さなかったが、

あまりにびっくりし過ぎてタケルの心臓の鼓動が早まる・・・。


 落ち着け・・・、

 別にびびる様なもんじゃ・・・。


そして一度、タケルはスサの他の4人の顔を窺いながら、

自分が今のメンバーの代表であることを確認すると、

腰を曲げてネレウスに手を差し出した。

 「はじめまして・・・、

 スサという団体の、総代を務めている緒沢タケルと申します。」


すると、口髭の上に露出している頬が、少し動いたようだ。

笑みを浮かべたのだろう、

ネレウスは、一度ためらう様な仕草も見せたが、すぐに快く握手に応じた。

白い眼球も再び重い瞼によって隠されたようだ。

 「・・・これは畏れ多い・・・。

 私のようなちっぽけなものにご丁寧な・・・。」


この村の者はみんな謙虚なのだろうか?

いや、それとも・・・

ポセイドンに纏わる者・・・という要因に畏まっているだけなのかもしれない。

タケルにあんまり自覚はないのだけど・・・。

 

その後、タケルが手を離すと、

老人は後ろの4人にも目を配りながら、嬉しそうに体をゆする。

 「・・・申し訳ありませんなぁ、

 この年になると目も霞み始めておりまして・・・、

 全く見えないわけではないのですが・・・。」


ちなみにサルペドンはやや後ろに隠れている・・・。

アテナやデメテル同様、この老神官ネレウスも自分のことを知っているのだ。

目が悪くなっていると言うなら、

そうそう気づかれはしないかもしれないが・・・。


 「あの、失礼ですが御いくつになられたんですか?

 まだ、お元気そうに見えますが?」

タケルは好青年っぽく年齢を尋ねると、ネレウスも嬉しそうな態度を見せる。

 「ほっほっほ、三百・・・五十を越えた辺りから数えるのも面倒になってきましたよ、

 それでも400には届いていないはずですぞ?」


人間て、そんな長生きできるものなの?

これもこの地下世界の環境による変化なのだろうか?

ある意味、この老人もオリオン神群の一人と数えてもいいのではないだろうか?

 


大体の挨拶が終わると、

族長のネストールがこの場を離れるようで、タケル達に別れを告げた。

後のことはネレウスに任せ、自分は仕事に戻るのだろう。

それでもまた、ヘファイストスと対決するときには同席するそうだ。


さて、タケル、そして特にサルペドンなのだが、

一体ここでどんな話を聞かされるのか気が気でなく、

早速ネレウスに今回の詳細を聞いてみることにした。

 「それで、ネレウス殿、

 わざわざ、異邦人である我々をここに迎え入れた理由は何なのでしょうか?」


これでもサルペドンは、

自分のことを気づかれないように遠慮がちに聞いている。

ネレウスは、質問をしたサルペドンをじっと見上げながら、

すぐには答えない・・・。

だがやがて・・・。

 「・・・あの・・・あなたは?」


一度サルペドンは頭を下げる。

 「これは失礼しました、

 私はカール・サルペドン。

 先ほど紹介したタケルの後見人のような立場です。

 私たち・・・スサと名乗っておりますが、

 この団体については私が最も多くのことを知っています。」

 


またここで時間が流れる。

何か思い出しているんじゃないだろうな?

ネレウスは何事か考え込んでいたようにも見えるが、

やがて、ため息をつくと、静かに先ほどの質問に答えるようだ。

 「・・・そうですか、スサと仰るのですか・・・、

 それで、あなたが後見人・・・、

 そちらのタケル様が、そのスサの若き後継者、というわけですね?

 では・・・その話は、とても長くなるかもしれませんし、

 私どももあなた方に聞きたいことが御座いますゆえ、

 ここから先を案内しながら参りましょうか・・・?

 わかりにくい道でもありませんが、

 元来、オリオンの神々に気づかれないように作られた場所ですのでな・・・。

 ヘファイストス様は、あまりそういう事を気にされませんがの。

 ・・・おっと、足元に気をつけてください?

 目的地の地下神殿は、

 これから入る洞窟の中なのです・・・。」

 

洞窟の入り口とやらは、そんなに広くもなく、

周りの岩と景色も同化しているので、

よく目を凝らさなければ、確かに分かりにくい入り口ではある。

神殿と言うならば、ある程度目立つような入り口を作るのだろうが、

これだけ気づきにくい場所にあるというならば、

やはり秘密裏に作られたものなのだろう。

・・・では何の為に?

オリオン神群の目から隠す為に?


小柄な老人の歩みは遅い。

もっとも、すぐにスサの人間たちにはその速度でちょうど良い速さに思われた・・・。

洞窟の入り口から中に入ると、

すぐに両脇の壁際にかけられた燭台の明かりが視界に入ってきた・・・。

そして彼らはその火に映し出されたものに目が釘付けとなるのである。


壁画だ・・・。

燭台の上のほうの、そこかしこを夥しい壁画が埋め尽くしている。

ネレウスの歩みが遅いおかげで、

彼らはその絵を丹念に観察することができたのだ・・・。

 


 「この絵は、いったい、何の・・・?」

独り言のようなクリシュナのつぶやきに、

ネレウスはゆっくり丁寧に解説を行う。

 「ほっほ、それぞれ意味はあるのですが、

 一つ一つ話すととても長くなりますから、

 最後の礼拝所でまとめてお話いたしますよ・・・。

 ただ、このまま引っ張るのも不親切でしょうから、少しずつお話しましょうか?

 その前に皆様、

 先ほどおっしゃっていた『スサ』・・・という名称は、

 地上の・・・日本と言う国の神話に現れる、

 名前が・・・あーっ・・・と、スサノヲ?

 そうそう、スサノヲノミコトから来ているのですかな?」


ぶっ続けに驚かされるスサの面々、

何故地下世界の住人がそんなことまで?

特にサルペドンが・・・。

 「ネレウス殿?

 あなたはどうしてそんな地上のことまで!?」

 「ほっほ、伊達に年をとっておりませんでなぁ、

 若いころにこっそり、地上を旅したこともありまして・・・。」

 



この話もサルペドンには初耳だ。

確かにこの老人は、かつての自分に仕える神官だった男に間違いない。

だが、そんな話は今まで聞いたこともなかったのだ。

そんなサルペドンの驚きを他所に、一度ネレウスは振り返る。

 「それで・・・あの・・・先日、

 あの巨大な地震を起こした方は・・・?」


やはりネレウスも、あの地震を人為的なものだと考えているようだ。

しかし、その質問に答えれる者はいない・・・。

やむなくサルペドンが説明を行う。

 「ネレウス殿、残念ながら我々にもわからないのです。

 確実に言えることは、ここにいるタケルと死の神タナトスが争った。

 結果、タケルは生命力を吸われる過程で意識を失い、

 後にタナトスが、ミイラのように干からびた死体で発見された・・・。

 目撃者は誰もいない・・・。

 あの巨大な地震はその時に起きたもの・・・。

 わかっているのはそれだけなのです。」

 


すると、ネレウスは足を止め、

今の話を聞いて考え込んだと思ったら、

タケルとサルペドンの間を交互に行ったり来たりしながら、

二人の体を観察し始めたのだ。

タケルは思わず後ずさる。

ネレウスは瞼を開き、

あの、気味の悪い真っ白な眼球を動かし始めたからだ。

 「・・・ご無礼は承知で・・・申し訳ありませんな?

 ふぅむ?

 お二人から、強い精神波動は感じますが・・・、

 さすがにあの巨大なエネルギーとまではいかないようですな?

 ふぅむ、これはどうしたものか?

 しかし、やはりあなた方には全てを教えるべきか・・・。」


ネレウスはタケル達に話しかけると言うよりも、まるで独り言のようにブツブツ言っている。

まぁ、老人なら仕方ないかもしれない。

そう言っているうちに、どうやら最終目的地は近づいたようだ。

洞窟の最深部は巨大な舞台のように大きな空間の広がりを見せ、

一番奥の上座には、幾つもの燭台が並べられ、

その中央に何かが鎮座しているのが、タケル達の目に映った・・・。

 

次回、明らかになるのはオリオン神群発祥のお話です。

そして、徐々に大地の支配者ポセーダーオンの姿もまた・・・。


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