緒沢タケル編13 ヘファイストスの葛藤 パキヤ村へ
新章です。
いよいよ地底世界中心部、ピュロス王国王都ピュロスの入り口ともいえるパキヤ村。
かつてはポセイドンのテメノスでしたが、
現在は鍛冶の神ヘファイストスが治めています。
しかし、ここでスサを待ち構えていたのは、
かつてポセイドンを信仰していたという謎の老人ネレウス・・・。
彼の口から語られる衝撃の事実とは・・・。
遠い未来に起きるとされる不気味な予言・・・。
大地を引き裂き、巨大な槍を構え這いずり出でるポセイドンとは何者なのか、
そして、天空の神々・・・月の天使への言及が初めて明かされます・・・。
ッギャーーッ!!
「うわっ!」
「狙えっ! こっちにもう一度来るぞっ!!」
「嘆きの荒野」を通り越し、再び岩場の端々に緑が散在している・・・。
が、つまりそれは、
数多の生命が再び活動活発になる場所に戻って来たということだ。
そして今、スサのメンバーたちは、ピュロス王国王都ピュロス目前において、
一匹の翼手竜に襲われていた。
プテラノドンだか、それに類する古生物の一種だろう。
いまだこの地底世界には、
彼らが出会ったこともない生物に遭遇する危険もあるのだ。
ダァン! ダァン!!
ライフル攻撃がもっとも効果的に思えたが、
意外とその姿は小さく、狙いが定まらない。
ショットガンならば撃退も楽だったろうが、
部隊の戦闘に適さないショットガンは装備していないのだ。
上空から滑空する翼手竜が叫び声をあげるたびに、攻撃手段を持ってない隊員たちは逃げ惑う。
「オレの天叢雲剣なら・・・!」
タケルが怪鳥を叩き落そうと立ち向かうが、
そうは向こうも都合を合わせてなどくれやしない。
激しいスピードで通り過ぎる翼手竜に、電撃の射程距離が届かないのだ。
・・・むやみやたらに振るえば仲間にも危険が及ぶ。
「ひぃぃ! た、助けっ!」
足元に躓いた隊員の頭上で、激しく怪鳥が羽ばたいた!
・・・その場所を動くな!
タケルが接近!
勿論、翼手竜はタケルの接近に気づくも、
彼がどれほどの攻撃力を持っているか、考えることも出来ない。
激しく鳴き声をあげてタケルを威嚇する。
だが、今やそんなものにひるむタケルではない!
バチィッ!
タケルの戦闘習熟度は目覚しい・・・!
最大出力にして雷撃を放つと倒れている部下に被害が及ぶと判断したタケルは、
剣に雷電をまとわりつかせたまま、その腕を振りかぶる。
来いっ!
・・・てめぇの武器は何だっ!?
嘴か! その鈎爪かっ!!
タケルの死角・・・、
彼の脇腹の辺りから繰り出される翼手竜の鈎爪は、
今にもタケルの内臓を引き裂こうとするっ!
だが、相手が人間だろうが獣だろうが、タケルの戦闘本能はあらゆる敵に対応する。
直感的に翼手竜の頭上高く飛び上がったタケルの右腕は、翼手竜の左肩の腱を寸断した!
電撃のおまけつきで・・・。
耳を覆いたくなるような叫び声が響き渡ったかと思うと、翼手竜は地面に崩れ、バタバタともがき始める。
もう、飛べやしないだろう。
ところが、止めを刺しに行こうとするタケルに予想外の反撃・・・!
翼手竜は翼をはげしく羽ばたかせると、その突風でタケルは吹き飛ばされる。
「うおっ!?」
だが、翼手竜の飛翔さえ止められればこっちのものだ。
タケルの体が離れると見るや、酒田を中心とする狙撃部隊が・・・!
見る見るうちに翼手竜の体に無数の銃弾が槍のように貫いた!
ェケェェーッ!!
その隙に倒れていた隊員が助け出される。
最後の一撃・・・!
「撃ち方止めっ!
・・・止め刺してやるっ!」
天叢雲剣が放電を強めた!
その出力は回を重ねるごとに増大してゆく・・・!
「叫べ、いかづちっ!!」
その攻撃を避ける術など翼手竜にはない!
激しい轟音とともに、無数の紫電が翼手竜の体を蹂躙する!
いつぞやのオオトカゲより体積も少ない為か、今度は一撃だ・・・!
いや、黒コゲ・・・といった方がわかり易いかもしれない・・・。
「・・・ふぅ、何とか片付いたな・・・、
怪我人は・・・?」
すぐに隊員たちの安否を確認するも、ほとんど被害は無いようだ。
「よっしゃ、これ、どうする?
食えるんだったら、次の村への土産にならない?」
これより先、最初に訪れる村は、かつてのポセイドンのテメノスだと言う。
ならば、比較的スサにも好意的でないのか?
それはタケルのみならず、サルペドンやマリアも多少の期待があった。
しかも現在の領主は、
かつてポセイドンとともに行動したヘファイストスの後継者だというなら尚のこと・・・。
そこで、彼らは地形の安全な部分を確認し、
適当かと思われる場所に野営の準備をした。
そしてこの後、斥候を放つわけだが・・・
いや、もう斥候と呼ぶほどこれより先の地形は危険そうも無い。
既に街道は石で舗装され始め、人間の手がそこかしに刻まれている様相も見える。
ここから先の役目は伝令と言えるだろう。
そこでマリアを責任者として、グログロンガを護衛、
さらに部下を一名つけて、交渉に向うべく彼女たちは本隊を離れた。
果たして、交渉の結果はいかに・・・。
さて、交渉の結果を述べる前に、
彼女たちを待ち受ける現在のパキヤ村の主・・・ヘファイストスに目を向けよう。
元々はこの村、ポセイドンの領地であり、
やはり「大地の神」の異名を持つが如く、
豊かな水資源と、それを背景とした広大な領地からは多大な食料を産出する。
農地の収穫量はデメテルの村には劣るものの、
牧畜にも適したこの村は、
主に、肉やチーズなどの動物性タンパクの供給でも、ピュロス全体に多大なる貢献を行なっている。
その施設や宮殿も、ポセイドン時代のものとそう変化はないが、
ここ、オリオン神群の居室だけは違う。
それまで開放的だった空間は、
窓を閉められ、隙間は閉ざされ、
申し訳程度の空気取り入れ口を残した工房となっている。
もう、100年近く前の話になるが、
新しいヘファイストスが、この場所を自分専用の部屋に改造してしまったのだ。
大きな窯と、鋳造に使う数々の巨大な工具・・・。
そう、このヘファイストスの特殊技能は武器作り・・・。
彼は鍛冶の神であり、
オリオン神群の神々が持つ多くの武具が、
ここパキヤ村のヘファイストス神殿内の工房から生まれたのである・・・。
「・・・ヘファイストス様!」
この村の神官であろう一人が、その主を呼びに部屋をノックした。
だが、中の部屋では作業中のためか、なかなかその声に気づかない。
「ヘファイストス様!?」
ようやく、部屋の中の槌を振るう音が止む。
「うむ?
誰か呼んだかね、呼んだかな?」
そこでようやく神官は扉を開け、ヘファイストスに用件を告げる。
「失礼します!
・・・ついにポセイドン様、いえ、ポセイドンの軍勢がやってきたようです!」
そこで体の動きを止めたヘファイストスは、
しばらく考え込んだ後、
その手につかんでいた工具を床に置いた・・・。
次回、マリアさんの交渉。