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緒沢タケル編12 死の神タナトスと解き放たれた「魔」 美香の真実

またもや、ぶっくまありがとうございます!


美香の独白の途中で、

ゼウスも独り言でも漏らすかのように自らの口を開く。

 「・・・この話・・・似た話を聞いたことがあるな。

 我々の正史ではなく・・・確かポセイドンのかつてのテメノス・・・、

 パキヤ村の最長老、ネレウスの伝える過去の災厄・・・。」


それを聞いてより、ハデスは質問の内容を自分たちの知りたい方向に誘導する。

 「美香よ、それではその・・・

 自らを犠牲にしたという神の子孫が、お前たちということなのか?」


 (・・・そう、なのかもしれない・・・。)


 「あまり自信はなさそうなのだな?

 現にそなたの弟は、数々の奇跡を起こし、自分の敵を討ち払っているぞ?

 それは古代の神とやらの血筋の証明ではないのか?」


 (・・・私の弟、タケル・・・

 ああ、タケルが立派に成長している・・・?)


 「質問に答えてもらおう、

 そなた達、姉弟の血に、そのスサノヲとやらの血が受け継がれているのか?」


 (私たちの血の中に・・・?)

 「そうだ、知りたいのはそれなのだ。」


 (可能性としてなら・・・ある。)

 

ハデスは更に、美香に答えやすいよう、質問を具体化させる。

 「時には敵を焼き焦がす雷撃を放ち、

 周囲一帯の大地を揺り動かすほどのものか?」


 (・・・雷撃・・・

 それはきっと神剣天叢雲剣の能力・・・、

 でも、大地を揺り動かすなど、

 そんな巨大な力、今まで先祖の中でも聞いたことはない・・・。)

 「では、その祖神・・・スサノヲならば?」


 (わからない・・・

 でも、もしその神が復活してしまえば・・・。)

 「復活?

 その神は死んだのではないのか?」


 (死んだといえるのかどうか、

 わからない・・・。

 この大地の奥底のどこかに、封じ込められ続けているとも言われている。

 私たちは・・・

 彼の復活を、ずうっと待ち続けなければならない・・・。

 時が来て、

 ・・・四方世界に響き渡る叫び声を上げながら、

 大地を引き裂き、地上へ這いずり出てくるその時まで・・・。)


その時、ゼウスが違和感を抱いた。

 「待て、ハデスよ、

 おかしくはないか?

 この者達はポセイドンを信仰しているのだろう?

 この娘の語りはまるで・・・

 その復活を待ち望んでいるというより、

 むしろ怖れているように聞こえないか?」

 

それはハデスについても同様の感想を得たようだ、

改めて、術者である自分の口から美香に同じ事を聞いてみる。

 「そなた達は、

 自らの祖神を恐れているのか」、と。


またもや美香の魂に沈黙が生まれた・・・。

聞かれたことには抵抗なく答える、

だが、言葉にできるモノかどうかという意味では事情が変わるのだろう。

それでも美香は、自分にも認識できるものから・・・、

いや、というより自分の心の中の直感を、そのまま一言ずつ口から放つことによって、

ハデスの命令を忠実に果たしたのだ・・・。

もっともそれは、生前の美香にとっても、

心の中に密かに隠し持っていた小さな疑問だったのかもしれない。

 

 (スサノヲとは・・・

 あれは・・・私たちにとって歓迎すべきものなのだろうか?

 私たち人間を創り上げた存在だというには、

 そのイメージはあまりにも禍々し過ぎる・・・。

 何故、私たちに代々伝えられ続けているのだろう?

 紋章と・・・

 祓いの舞いを・・・。

 スサノヲを守るため?

 スサノヲの血族であることを証明するため?

 それとも・・・

 スサノヲを封じ込め続ける為に必要なのだろうか・・・?)



質問をしたハデス自身も、

美香の言葉にそれ以上、質問を重ねることができなかった。

だが、その間にも美香は、自分の言葉を続けることによって、

もう一つの別の結論に達したのである・・・。


 (一つだけ言える事・・・

 それはスサノヲが復活する時・・・、

 それはこの大地に、重大な何かが起きる事を意味している・・・。

 それはスサノヲ自身のせいではないのかもしれないけれど・・・、

 彼が目覚めるからには・・・、

 かつて天空の神々との間に交わされた契約に、

 何か・・・重大な変化が・・・。)

 

もし、美香本人が生きて彼らの質問に答えるならば、もっとはっきりとした意見があったのかもしれない。

彼女なりに解釈し終えた縁起や、教義の説明も可能だったろう。

だがこの場にあるのは、

彼女の本心に残されていた、自らの家系に残されていた数々の疑問。

弟のタケルや、スサの多くの部下に慕われ、

大勢の指導者として振舞っていた彼女にも、

その心の中に矛盾や疑問、怖れや不安がなかったとなど言えるはずもない。

自分に課せられた余りにも重い宿命を受け入れていた為に、そういった自らの弱さを、誰にも見せようとしなかっただけなのだ。


それが、

両親を失ったあの時、

彼女が自ら決意した生き方なのである。

お父さんたちが受け継いできたスサを守るため・・・、

そして幼いタケルを守るために・・・。

 



しばらくそこには沈黙の空間があった。

やがて、気を取り直したハデスは、

最も知りたかった質問を美香にぶつける。

この地底世界に起きつつある異常の原因を確かめるために・・・。

 「迷える魂、美香よ、

 それでは最後に聞こう・・・。

 そなたの弟がやってきているこの地底世界に、

 先日、その神が蘇えったかのような巨大な精神エネルギーが吹き荒れた・・・。

 それは・・・そなたの弟と関係があるのか?

 そなたの弟は、

 『それ』を呼び起こすことができるとでもいうのか?」


だが、いくら美香でもその質問に答えることなどできはしない。

既に、生前の彼女ですら予測できない事態にまで現実は発展しているのだ。

この時、最後に彼女の口から出たのは、

ハデスの質問に対する回答だったとは言えないかも知れない。

だがそれは紛れもなく、

生前も・・・

いや、死の瞬間まで信じて決して疑わない、彼女にとってただ一つの真実なのである。


 ( 私は・・・タケルを 信じている・・・、

 例え彼に何があったとしても・・・。)

 




タナトス編、終了です。


前章で、これでもかとばかりにポセイドンの関わりを挙げてきましたが、

この章では、

逆にそれに対して、本当にそうなのか?

という話にしてみました。

その疑問に対する答えは、

次の章、かつてのポセイドンのテメノス、

パキヤ村にて小出しにさせていただきます。


そこでは、天使シリス編、フラア・ネフティス編に繋がるお話も語られるかもしれません。


なお、物語に登場した謎の人物ですが、

皆様は、

「彼」の復活は不完全なものだったと解釈するも良し、


最初からこの結末を

「彼」は予定していたと解釈するも良し・・・。

皆様のお好きな方に・・・。

 

何しろ、「天空の神々」が恐れた彼の本当の力とは、

念動力や大地を揺する力などではなく・・・いえ、なんでもありません。


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