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緒沢タケル編12 死の神タナトスと解き放たれた「魔」 降霊術


 「過去を知る」モイラは目を瞑ったままうなずく。

ハデスは半分飲みかけのワイングラスを置き、

後ろに控えている「神の女奴隷」に、もう一度グラスに注ぎなおすように要求した。

 「ゼウス様もご存知でしょうが、

 私の能力では『そこに存在しない者』、

 『私が認識できない者』は呼べませんが・・・、

 その為にモイラがここにいると、解釈して良いのですか・・・?」

 「そうだ、彼女がいれば可能だろう?」


そのゼウスの言葉を待っていたかのように漆黒の髪のモイラは立ち上がる。

 「・・・ハデス様さえよろしければ・・・。」

どうやら、これから行われる「術」にはモイラの協力が必要らしい。

もっとも、別にハデスは気にも留めていないようだ。

 「私のほうはいつでも構わない、

 このグラスがいっぱいになったら始めるとしよう。

 ・・・おっと、先に言っておくか?

 ヘルメス、私がこれから行う儀式はデリケートなものだ、

 大人しくしているのだぞ?」

どうも、ヘルメスはその言葉に不満らしい。

 「え~、まるでオレが落ち着きない奴みたいじゃないすかぁ~!?」

 

 

本人も少しは自覚しているのだろうか?

その間、モイラはテーブルを伝って、ハデスの背後に回りこんだ。

そして、緊張しつつ、

「失礼・・・します」とだけつぶやいて、ハデスの頭部に両手を這わせる・・・。

 「それでは・・・

 この私めが覗いた世界を、時間を・・・ハデス様の精神に流し込みます・・・!」

 「やれ・・・。」


モイラの白目が開き、精神集中が始まる。

彼女の専門能力は過去に起きた出来事を透視すること!

モイライだけに留まらず、精神感応能力を持つ者は、

本来、精神をカラダから遊離させるタイプか、

思考状態を無にし、自分の心を開放して流れ込んでくる情報を蓄えるタイプと二通りある。

前者がシャーマンタイプ、

後者がトランスタイプと呼ばれている。

しかし、今モイラが行っているのは、

既に自分が取り込んだ情報を、

余計な情報をシャットアウトしつつ必要なデータのみをハデスの精神に送り込む作業、

それは本来の彼女の能力ではないため、かなりの集中と努力を要求されるのだ。

 


その間ハデスは目を伏せ、

自らの意識に、強制的に流し込まれる膨大な光景を観続けていた。

通常の人間では、

モイラから送られてくるデータをまともに読み取ることもできなければ、

受け取ったとして、圧倒的なスピードで送られてくるその莫大な情報量で、

精神構造に損傷が発生する危険もある。

オリオン神群ハデスだからこそ、この儀式は成立するのだ。


・・・そして、

モイラは役目を果たし終えた・・・。

ハデスの頭から両手を離すと、

立ちくらみでも覚えたのか、ヨロヨロ倒れそうになる・・・。


すぐにその背中と腕を、「神の女奴隷」が支えにまわる。

しかし、モイラはあくまでも自分の役目に忠実だ・・・。

 「ハ、ハデス様・・・、

 うまく伝わりましたでしょうか?」


ヘルメスは固唾を呑んで見守っている・・・。

刺激の少ないこの地底世界で、

未だ自分が見たこともない儀式を目の当たりにして興奮しているようだ。

 

そして、

満を持して・・・ハデスが両目を見開いた!

 「うむ、・・・視えた、ぞ・・・。

 緒沢タケルという男の過去を・・・、

 そして彼を常に見守っていた”目”を!」


ハデスはゆっくり立ち上がり、テーブルにあるワイングラスの位置を調整した・・・。

そして、

彼はそのワイングラスの両側から、3センチほどの距離を離しつつも、

両手で支えるかのような仕草を取ったのである・・・。

ゼウスがその光景を見ながらボソリ呟く・・・。

 「・・・滅多には見られないぞ、ヘルメス・・・。」


呼ばれたヘルメスは、

視線をワイングラスに注いだままゼウスに答える。

 「えっ、これって、ワインかグラスが必要な能力なのかい?」

それには未だ余裕なのか、術を開始しているハデスが笑みを浮かべて回答した。

 「・・・いいや、私の能力そのものに小道具は要らない。

 ただ、これから呼びだす者に、

 『どこまでが境界』なのか認識させるため必要なのだ。

 さっきもいったろう?

 『それ』は弱々しくか細いモノなのだ、

 息を吹きかけただけで飛び散ってしまうかもしれないのだよ・・・。」

 

いったいこれから何が始まるのか?

ここから先、

周りに控えるものは、身動きはおろか咳払い一つ許されない・・・、

そんな空気となっている。

いまだ、情景に変化が起きている風はない・・・。

ヘルメスが辛抱強く見守っているが、何も変わる様子はない・・・。

ついに、彼の忍耐も痺れをきらし、

首でも左右に運動させようかと考えたその瞬間、

彼の目がワイングラスの変化を捉えた!


 波紋?

 真紅の液体の表面に動きが生じている!

勿論、テーブルは揺れてもいない。

それどころか波紋は段々と大きくなり、

それはまるで、グラスの底から炎でも当てられたかのように、

泡まで立ち上り始めた・・・!

そしてその泡は段々と大きくなり、

まるで沸騰でも始まるかのように・・・。

 「こ、これって・・・。」

 

ゼウスが軽くその少年神を制す・・・。

 「ヘルメスよ、

 驚くのはこの後だ・・・!」

そして波打つワインの表面からは、白い気体が発生し始める・・・!

しかし、通常の水の沸騰とはまるで様子が異なり、

その気体はグラスの上方、10センチほどの上空で固まろうとしているかのようだ・・・。

正確に言えば「それ」は気体ではない・・・、

何故なら、湧き上がった白い塊は「物質」ですらないからだ!

そしてヘルメスが最も驚愕したのは、

その白い塊が、

やがて・・・人間の頭部のようなものに凝縮されてゆく様だ!


ゼウスは言う。

 「これが・・・ワイングラスの上に浮かんだ顔・・・、

 この若い女性が・・・。」


そう、いまや、その白い塊は完全に人間の顔の形となっていた・・・。

既に術を完成させたハデスは、

自分の術の成果を見下ろしながら、ゆっくりと口を開く・・・。

 「はい、これが、緒沢タケル最愛の肉親・・・、

 美香という姉の魂です・・・。」

 




美香姉ぇ再登場です!


ただし、そこに彼女の人格は・・・。

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