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第10話


義純はみんなを促す。

 「じゃあ、まずは伊藤さん宅に寄りましょう、

 それから私の端末に、

 『依頼元』からの情報が送られてきていると思いますので、

 そちらの資料も拾っていきます。」


車が伊藤宅に到着すると、

既に準備を整えさせていたのか、

学校から帰った麻衣がリュックサックとジーンズ姿で父親達の到着を待っていた。

 「麻衣・・・。

 これから何しにいくのか分っているかい・・・?」

 「うん・・・。

 でも、どうしていいか、わかんない。」

後ろで百合子が黙って立っている。

伊藤も何て声をかければいいか分らない・・・。

だが、全てを了解している百合子は、

妻として相応しい言葉を夫に投げかける・・・。

 「あなた。」

 「あ、 ああ、何だい、百合子?」

 「いっつもおんなじことしか言えないけど・・・、」

 「・・・。」

 「危ないマネはしないでね。

 自分と麻衣の安全を最優先に・・・。」

 「分ってる!

 一人にして悪いけど、留守番頼むな・・・。」

そうして百合子は屈んで麻衣にも優しい言葉をかける。

 「麻衣、パパのそばを離れちゃ駄目よ・・・。」

 「うん・・・、ママ?」

 「なぁに?」

 「・・・ごめんなさい、ママの言うこと・・・。」

 「怒ってないわよ、麻衣・・・。

 でもね、自分の言ったことには責任が必要なのよ・・・。

 覚えておきなさい。」

 「うん、わかった・・・。」

 


車から、

足を引きずりながら、杖をついたレッスルが出てくる。

百合子に向かって深々と頭を下げると、

百合子も丁寧にお辞儀を返した。

騎士団の者達もレッスルに倣おうとしたが、

あまり百合子は快い反応を示さない。

特に麻衣なんかは、

反射的に父親の後ろに引っ込んでしまう。

 (無理もないよな・・・。)

と、あくまで一般的な理由で義純は考えたが、

本来それは別の理由の為である。

・・・彼女達の習性なのだ、

特にマーゴのような女性がいると・・・。

手まで振って愛想を振りまいたマーゴは悲しそうな顔をする。

 「・・・嫌われちゃってる・・・?」

 「気にしてはいかんぞ、マーゴ。

 日本人の女性は人見知りが激しいんじゃ、

 特に欧米人の顔つきには慣れとらんからの。

 (そーゆーことにしておくわい)」

 「そうなんだぁ、でもあの奥さん若いわねぇ?

 日本人て若く見えるのかしらぁ?」

 「そ、そうじゃの、

 それより、先を急いだ方がいいのじゃないかな?」

一同はレッスルの言葉に従い、

次々に車を乗り込み、伊藤宅を後にする。

ひとまず、義純のマンションへ・・・。


百合子は、

彼らの車が見えなくなるまで、

玄関先から彼らを見送った・・・。

車が見えなくなると、

彼女は何か思うところがあったのか、

玄関先から、家全体を・・・、

そして家の中に戻ると、

台所、ダイニング、自分達の寝室、麻衣の部屋、

それぞれを思い思いに見続けていた・・・。

人形のような無表情の顔で、

いったい何を考えているのであろうか・・・?

 


 

一面の白い世界・・・

ここはメリーのいる空間。

何人かの、かつてのメリーの家族達が、

彼女を今も呼びかけ続けている。

メリーは迷いながら、

何度も彼らの立っている場所にまで近づいた。

ヒールの音が不規則に響く。

メリーは、かつての弟のいるところまで歩いていく・・・。

 「ねぇエルマー、

 どうしてあなたは血を流しているの?

 痛くないの?」

 「・・・姉ぇちゃぁぁぁん、

 こっちだよぉぉぉ、こっちに来てよぉぉぉぉ・・・!」

エルマーは、

メリーに向かって訴えているだけで会話は成立しない、

一方的に同じ言葉を繰り返すだけだ・・・。

 ・・・変なの。

メリーは不思議そうに首をかしげ、

最後にあきらめて後ろを振り返る。

今度はかつての母親のところへ歩いていく。

 「ママ?

 もう、手袋はなくさないわ、ご飯を食べさせて。」

 「エミリーぃぃ!

 晩御飯冷めちまうだろぉぉ?

 早く家に帰っておいでェェ!」

 

 

・・・こちらも同様だ。

顔はメリーに向いてるが他の言葉は喋らない。

顔も潰れては元に戻り、

潰れては元に戻る。

メリーはやっぱり首をかしげる。

 ・・・まただ。

そしてその次はマリーの両親だ。

ヒールをコツコツ歩かせて、父親と母親に近寄っていく。

 「お父さん、お母さん、

 ただいま・・・、

 どうして二人とも年をとってるの?」

 「・・・マァリィ~?

 いつまで外で遊んでいるんだぁいぃ?

  暗くなる前にぃ戻ぉってきなさぁい・・・!」

メリーはまたまた首をかしげる。

 あれぇ?

みんな自分の家族には違いないのだが、

何かが違う・・・。

彼らのところにある扉は、

いずれも自分が帰るべき家の扉ではないような気がする。

 


 

メリーが再び途方に暮れだした時、

どこからか小さな音で、

ピアノの旋律が聞こえてきた。

・・・静かで優しい曲。

フランツ・リストのLiebestraume 「愛の夢」

・・・もちろんメリーに曲名など分らない。

メリーは、

瞳をギョロギョロ動かしピアノの音源を探る。

 あそこだ、

さっきまではなかったはずの大きな扉がある。

そこには、赤いローブを纏った男が立っている・・・。

遠くてピアノの音しか聞こえないが、

やっぱり何かをこちらに向かって喋っている。

行ってみるしかない・・・。

メリーはピアノの音に誘われるかのように、

ゆっくり大きな扉に向かって歩き出す。

だんだん男の姿が見えてきた。

精悍な顔つきをしているが、

その異様に色素が薄い灰緑色の瞳が特徴的だ。

 「・・・エミリィィィィ・・・。」

男の声も聞こえてきた。

メリーに向かって哀願しているようにも見える。

 


 

 「エミリィィィ・・・、

 今まで寂しい思いをさせてきたねぇぇ?

 ごめんよぉぉぉぉ、

 わぁたしぃを許しぃてぇおぉくぅれぇぇぇぇ・・・。」

この男も見覚えがある。

エミリーにひどい事をした男だ。

メリーは男の近くには寄らず、

少し距離を置いて彼を見つめてみた。


 「わかっているよぉぉ、

 わたしを恨んでいるんだろぉぉぉ・・・

 だけど・・・これだけは信じておくれぇぇぇ・・・

 お前を愛しているのは、

 このわたししかいないんだぁぁ・・・!

 そしてこのわたしにはァ・・・

 エミリーィィ、お前しかいないのだよぉぉぉ!

 この世で愛に勝るものは存在しないぃぃ・・・。

 その扉を開けてごらん・・・。

 そこはお前とわたしだけの世界・・・、

 祝福された永遠の楽園への入り口だぁぁぁ!!」


メリーはこの男の言う事を黙って聞いていた。

この男と長い間、

暮らしたことは記憶にある。

だが・・・、

果たしてこの男の言う事を受け入れて、

本当に良いものなのだろうか・・・?

 



ちょっと句読点の位置を修正しました。


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VRoid版メリーさん幻夢バージョン
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