緒沢タケル編12 死の神タナトスと解き放たれた「魔」 タケル死す
これで相手がサルペドンだと、
タナトスが生命力を抜いてようが、構わず大地を揺らしてすぐにタナトスは精神集中できなくなってしまいます。
タナトスの能力は、エネルギー総量が多すぎる相手には・・・
つまり他のオリオン神群にはほとんど通用しない、
対一般人限定の必殺能力と思って頂ければよろしいかと。
舞台を戦いの場に戻そう。
白い静寂の世界が、ほんの一瞬だけ紫電の光に切り裂かれた・・・。
あれっ!?
いかづちを発した時の手応えや感覚が、まるでいつもと異なる。
しかも目の前のタナトスは、
そのまま自分の真正面で立っているままではないか?
ふっ、不発!?
天叢雲剣に慣れていなかった最初のころと違って、
今やどんな状態からも、発動させることが出来るようになっていた筈なのに?
不発と言うより、
威力が乏しくタナトスまで届かなかったと言うのが正解か、
タケルはもう一度、慎重に振りかぶる・・・。
「・・・今度こそ・・・逝けぇっ!!」
パリリ・・・!
おかしいっ!
今度は静電気程の放電しかしない!!
もはやどれほど精神を高めようとも、天叢雲剣は反応すらしない・・・。
いったい、何故ここまで来て・・・?
その間、死の神タナトスは不敵に笑みを浮かべたまま・・・。
タケルを攻撃する気配すら見せない・・・。
いや、もしや、この天叢雲剣の異常はこの男のせい?
「てっ、てめぇ、今度は何しやがった・・・!?」
そこでタナトスは高らかに笑い始めた。
「ハッハッハッハッ! ようやく気づいたか?
いやいや、誇るべきだよ、
私は先ほどから、貴様の後ろで倒れている者たち同様、
貴様の命を吸い続けているのだぞ?
本来、貴様も、そこで干からびている筈なのだ。
地上の人間とは思えないほどの生命力!
なるほど!
ポセイドンの子孫と言うのも、まんざらデタラメではないのだろうな?
だが、さすがにその・・・電撃、か?
それを振るうエネルギーは、もう残っていまい。
後は・・・貴様も吸い尽されるのみだ・・・!」
いきなりの予想すらできなかった事態に、
タケルはタナトスの言葉をすぐに理解することができない。
ただ、天叢雲剣が封じられてしまったことだけは、なんとか把握した。
では・・・?
いや、迷うことなんかない!
最初に出会った山の神トモロスとて、天叢雲剣に頼らずに倒す事が出来たではないか?
「・・・電撃が使えないラら・・・直接・・・!?」
タケルがダッシュをかけた。
タナトスの位置まで10メートルもない。
ほんの1~2秒でヤツを切り裂ける筈・・・、
なのに・・・
なのに何故、こんなにカラダが重い!?
まるで海の中にでもいるかのようだ!
それどころか膝に力が入らず、
自分でもガクガク体が揺れているのが分かる・・・。
そして・・・、
思いっきり振りかぶったはいいが、あまりの軌道の緩やかさに、
タナトスは難なくカラダを捻り、タケルの攻撃をかわす。
「・・・あ、あっ・・・!」
カラダのバランスを崩したタケルは、不格好に剣を地面につきたて、
倒れないように体を支えるので精一杯・・・。
これじゃ、まるで老人だ・・・!
今なら完全に分かる・・・、
力が吸い取られている・・・。
剣を持つ腕すら重い。
「て、てめ・・・ハァ、 ハァ、こ、
これが・・・てめぇの・・・能力か・・・!」
タナトスはニヤリと勝ち誇っている。
「そう、もう理解できたかな?
貴様が我らオリオン神群並の精神エネルギーを持っていたならば、
私が命を吸い取ろうがどうしようが、その電撃を発揮できたであろうが、
所詮、紛い物のポセイドン・・・。
我らオリオン神群に歯向かえる資格など備わっていないと言う事だ!」
既にタナトスは勝利を確信・・・
いや、もう戦いは終えていたと言えよう。
ここから先は、ただの後始末だ。
「・・・さて、このまま、貴様を嬲っても良いのだが・・・、
君らの後ろに控えるポセイドンには、さすがに私も勝ち目がなくてね、
ただし、ポセイドン以外の主要な戦力は、
全て命を涸らしてあげようと思うんだ。
だからすぐに部下の後を追わせてあげよう・・・。」
もう、タケルには思考能力すらない・・・。
タナトスの発言の中身も、理解するどころか興味さえわかない・・・。
タケルの意志は、何とかコイツを倒さねば・・・!
それしか考えることができなかった・・・。
だが、すでにまともに思考するエネルギーすら失ったタケルは、
愚直にもタナトスまで突進する道を選んだ・・・。
「うっ、 うわぁぁぁ~・・・!」
遅い・・・鈍すぎる・・・。
既に剣の軌道も波打った状態では、
まるで子供をあしらうが如く、タナトスに避けられてしまう。
そして今度はタケルの背後に回ったタナトスは、
タケルの首のアクセサリー・・・、
「紋章」のチェーン部分を無造作に握りしめ、
タケルの頸動脈を締め上げて完全に行動不能に陥らせた・・・。
タケルの身長は2メートルに及ぶ。
タナトスも長身ではあるが、大体180センチくらいだろうか、
如何にタケルの体力がゼロに等しくなっているとはいえ、
そのカラダを支えるのはタナトスも難儀するらしい。
タナトスは紋章のチェーン部分を引き絞り、
まるで猛獣を封じ込めるかのように、 一切のタケルの行動を抑え込んだのだ。
「ぐ・・・が・・・ 」
すぐにタケルの膝が折れた。
右手で天叢雲剣は何とか握りしめているものの、
残された左手で必死に首のチェーンを緩めようともがく・・・。
だが、
ついにタケルの頭は、タナトスに見下される位置にまで崩れてしまった。
もう・・・万策など尽きている・・・。
力も・・・精神力も・・・
思考能力すらも・・・。
そのタケルの顔からは生気がなくなり、
その頬も、まるで蝋人形のように土気色に変化してゆく。
そして死の神タナトスは死刑宣告を・・・。
「フン、ここまで、だな、
トモロスやシルヴァヌスの仇・・・。
この嘆きの荒野で、醜く屍体を晒すがいい!」
荒々しく、タナトスは紋章の鎖を引きちぎる!
カラダの支えを失ったタケルは、
崩れるように乾いた大地の床へ・・・。
そしてそれと同時に、タナトスのカラダから発した白いガスは、
完全にタケルのカラダを包み込んだ!
あっと言う間にそのガスが、タケルの全ての命を吸い尽すと、
やがて・・・
ゆっくりそのガスは、タナトスのカラダに戻り吸収される・・・。
生命力を失ったカラダからは、もう心臓の鼓動すらも聞こえる事はない。
スサの・・・
美香の・・・全ての人間の希望であったタケルの命は、
今、この場で消えてしまったのだ・・・。
ここまで
やっとここまで来れたのに
やっと追いつけたと思ったのに
ごめん 姉ちゃん
ごめんよ ・・・
ご め ん
今までご愛読ありがとうございました。
タケルはここで死亡しました。
次回・・・
え?
勿論まだ続きますよ?
次回「鼓動」
B.G.Mにはピンク・フロイドの原子心母などマッチするかと・・・。