緒沢タケル編12 死の神タナトスと解き放たれた「魔」 「死の神」タナトス対タケル
白い霞の中から一人の人影が・・・
だんだんとその姿が露になる・・・。
まだぼんやりとしているが、
カラダをすっぽりと覆うマントをはおっているのはわかった。
これまでの地下世界の住人で、マントをはおっているのは神々の名を冠したオリオン神群のみ。
ならば・・・
タケルの眼前にやってきた男が、敵の首魁の一人である事は疑いえない!
タケルは真正面を見据えながら、二人の部下に指示を出す。
「・・・銃を構えろ!
合図をするか、敵が攻撃の意志を見せたら躊躇なく撃て!」
先程の雑兵に対してもそうだったが、
今まで通りすぎていた二つの友好的な村と村人のもてなしを受けたため、
タケルには、いきなり相手の命を奪う事にはためらいがある。
それにこれまでの勝利からくる自信で、
相手の出方を見てからでも遅くはないと考えていたのだろう。
・・・既に攻撃を受けている事など気付きもせずに・・・。
そしてその男が姿を現した!
頭は奇麗に剃りあげられている、剃刀のような鋭い目をした男・・・。
その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
こちらが飛び道具を持っている事には気づかないのだろうか?
もはや日常会話に不自由しないタケルは、ゆっくりと声をかける・・・。
「オリオン神群だな?
オレはスサの総代、緒沢タケル・・・。
見てのとおり、後ろの二人を含め、
今、オレ達は弓を射るより早くお前を討ちとることができる。
降伏した方が身のためだ。
オレの言う事が理解できるか?」
だが、その男はまるで意に介することもなく、
既に勝利を確信しているかのようにタケルを嘲笑った。
「フッ・・・、
では貴様がポセイドンの地上の子孫とか言う男か?
我が同胞、シルヴァヌスやトモロスを倒したのも貴様というわけだな?
この地底世界の奥深くまでやって来れた事は大したものだが・・・、
残念ながらここまでだ・・・。
その『命』・・・いただくとしよう。」
タケルは残念そうに首を振る。
「仕方ない・・・撃て!」
だがタケルの背後の部下たちは銃を撃たない・・・。
タケルが部下のあまりに遅い反応に後ろを振り向くと、
・・・何が起きたのか、
二人の部下は、カラダをガクガク震わせながら、今にも地面に崩れ落ちようとしている?
辛うじて銃を握り締めた腕を敵に向けようとしているが、
もう、心臓の位置より上に腕をあげる事も叶わず・・・
いや!
それどころか、その二人の顔からは生気が全く感じられない!
「あ・・・あっあ、あ~ぁぁ・・・ 」
みるみる内に二人の部下はカラダを崩し、地面にバタバタと沈み込んだ。
「おっ、おい!?
お前ら、どうしたっ!?」
見れば、自分達の周りを白いガスが覆っている・・・。
これが突然の病気などでなく、
眼前の敵の能力だという考えはタケルにもすぐに感じ取った。
思わずタケルは敵に向かって叫び声をあげる。
「・・・これはてめぇの仕業か!?
一体こいつらに何をしたぁっ!?」
問い詰めると同時に、タケルは剣を右手に攻撃態勢を取る!
バチィッ
天叢雲剣の青白い電光は、この霧の世界をも切り裂くだろう。
タケルの意思次第で、
勝負は決するはずだ・・・。
この距離なら・・・。
一方、頭髪のない男は、少し予定外の事でも起きたのか、
顔を傾けながら不思議そうな表情を浮かべている。
それでも余裕は失わず、いきり立つタケルを一笑に付した。
「これは驚いたな?
貴様は『まだ』立っていられるのか?
まぁ、よいとしよう、
どうせ時間の問題だ・・・。
その間、貴様の質問に答えてやろう。
そう、貴様らが今味わっている現象・・・それはこの私の能力だ。
この・・・『死を司る神』タナトスのな・・・!」
タナトス・・・?
死を司る神?
あまり聞きなれない名前に、
タケルはこの男の能力がどんなものか、判断すらできない。
だが先発の斥候が、突然音信不通になったのは、紛れもなくこのタナトスの仕業と認識できた。
もはや遠慮することはない。
後ろの部下の安否も気になる。
速攻でケリをつけてやる!
タケルは精神エネルギーを全開にした・・・!
走れ、稲妻・・・っ!
叫べ いかづちっ!!
「うぉぉおおおおおおッ!!」
バチィッ・・・!
一方、本隊のサルペドン達は、
別の者の報告から、最初に放った斥候が死体となっている現場を発見していた。
程なく、そう遠くない位置に転がっていた他の3名の死体も回収できたようだ。
だが、
メンバーの誰もが、その死体に起きている異常に背筋を凍らせている者ばかり・・・。
誰がこの現象を説明できるだろう?
死体となっている4人全員が、ミイラのように干からびていたのだ・・・!
「・・・い、いったい、
どんなものに出くわせば、こんな有様になるっていうんだっ!?」
酒田のおっさんが吠えるも、この場の全員が同じ思いを浮かべただろう。
いや、たった一人サルペドンだけは、この現象の原因を特定できていた。
だが、だからといって、他のメンバーに説明できるのは、
今の状況がスサにとって、致命的に危険であると言うことのみ。
すぐさま、サルペドンは一つの指示を出した。
「酒田!
散り散りになった全ての隊員を呼び戻せ!
ここは逃げるしかない!
だがもし敵の姿を見つけたら、ためらわず『遠距離から』銃を放て!
近づけてはならん、
それを全員に徹底させろ!」
酒田のおっさんは、すぐに言われたとおりの指示を実行するが、中には無線も何も持たず敵を追いかけてしまった者もいる。
果たして、これ以上の被害を出さずにいられるだろうか?
特に・・・。
「おい! そういや、ミィナは!?」
「先ほど、一人でタケル様達の向かった方角に・・・!」
「あんのバカ!
無線持ってねーだろっ!
どーすんだよっ!?」
酒田の騒ぎを他所に、
サルペドンとマリアは死体の分析を続ける。
・・・たった二人で・・・。
つまりそれは、本当の事をマリアが聞き出せると言うこと・・・。
「サルペドン、敵は何者なんですか!?」
「・・・まず間違いなく、『死を司る神』タナトスだ。」
「死を司る神?
それは一体どんな能力なのです?」
サルペドンは眉をしかめて声を絞り出す・・・。
「見てのとおり命を・・・『生命力』を抜かれる・・・。
特に霧の深いこの荒野は奴にとっておあつらえ向きだ!
タナトスは白いガスのようなものを媒介に生命力を吸い取る。
距離が近ければ近いほど、その効力は増すと言う。
常人なら3~5秒ほどで、生命活動を停止してしまうだろう・・・!」
「ええっ!?
それじゃあその男に会ったなら!?」
「すぐに反撃する気力も奪われる・・・
勝機があるというなら、遠距離からライフルで狙撃するしかない。
だが、この視界ではそれも不可能だ!」
「タケルさんの天叢雲剣では!?」
「無理だ!
天叢雲剣の電撃を放つには、多大なる精神集中がいる!
知っているだろうが、生命力と精神力の繋がりには、切っても切れない密接な関係がある。
天叢雲剣を放つエネルギーなど、
あっという間にタナトスに奪われてしまうだろう!」
次回。
・・・タケル・・・死す。