緒沢タケル編12 死の神タナトスと解き放たれた「魔」 襲撃
ちなみに、
「月の天使シリス」編では、
優一くんが成人した段階でも、
ミィナのご両親は健在です。
メガネ女子のダイアナさんも生きてます。
物語に登場するかどうかは別ですが。
ああ、その件か・・・。
他のスサのみんなは全員、知ってるけど、
ミィナが仲間に加わったのはつい最近だしな・・・。
「ああ、そうだよ、
両親はオレが8つの時に交通事故で・・・、
その後、爺ちゃんも病気で、
そんで一つ違いの姉貴が・・・こないだ、な。」
空気は重くなったが、別に不快なわけじゃない。
ここにいるミィナだって、
家族を殺されたのはごく最近なのだ。
彼女は神妙そうに口を開く。
「話はみんなからそれとなく聞いてたけど、お前の口から聞いた事なかったな?」
「そう、だったっけか・・・、
まぁ、あんまりひけらかす様な話でもないだろう?」
ミィナも「そりゃそーだ」とは一度思うのだが・・・。
「タケル、あたしが家族を殺されたとき、
一番あたしの事、気にかけてくれたよな?
・・・あれは自分の境遇もあっての事?」
ああ・・・。
「そう、かもな・・・。
ま、大事な人が死んだ時、その心理状態がどうかは人それぞれかもしれないし、
オレだって、その時々によって取り留めもなく・・・
精神状態だって滅茶苦茶だったから、
『お前の気持ちもわかる』なんて、
口が裂けても言えねーよ・・・。」
少し間を置いて、タケルは言葉を続ける。
「だから、悪いけど、
あん時ミィナをじっと見てるしかできなかった・・・。」
ミィナは一度タケルの背中をバチンと叩いた。
「あぅてっ!」(アウチ+痛てっ?)
変な叫び声だが、口から出ちゃったものはしょうがない。
「ひでぶ」とか「ヤッダッバーッ!」とかよりはマシだろう。
「タケル何言ってんだよ、
別に悪くないよ、
たださ、お前があたしのあんな事、知ってて、
あたしがあんたの事、何にも知らないのって、
ちょっとズリぃてか、やだったからさ、
それだけ!
つらいこと思い出させて悪かったな!」
「・・・そっちはいいけど、オレの背中をぶっ叩いた事、謝りやがれ!
このクソアマぁ!!」
ニヘーっと笑い顔を浮かべて、ミィナは自分の定位置に走って行った。
まぁ悪い女じゃない・・・。
可愛いとも思う・・・。
多少は異性として意識してるのは、自分でも否定しない。
今がこんな戦争状態でもなかったら・・・
あああ、背中痛ェ・・・。
そんな時、酒田の無線に緊急連絡が飛び込んできた。
次発の部隊からだ。
『只今、先発隊の無線機から音声を確認しました!
こちらの声が流れているようです!
今もどこかから私の声がダブって聞こえてきます!』
「おっ!?
・・・てことは近くに奴らが、
いや、最低でも奴らの無線が近くにあるって事だな?
しかし先発隊の反応はない、そう言う事か!?
そのまま捜索にあたってくれ、
こっちも救助隊を編成する用意を行う!」
霧さえなければ、
無線機のスピーカーから流れる自分達の声の方向を特定しやすいかもしれない。
だが、霧が音を反射させてしまうためか、
その方角の見極めは困難だ。
しかも迂闊にルートを外れると、自分達まで迷ってしまうかもしれないからだ。
「・・・おい、どうだ?」
「こっちの方角じゃないか?
音が大きくなってないか?」
「ほんとだ、こっちだ、
おい・・・それより霧が深くなってないか?
無線機が足元の方角から聞こえるって事は、地面に落ちているとして、
その角度からしたらもう・・・。」
「あ! 薄ぼんやり影が見えるぞ!
一人・・・か? 倒れているのでは!?
・・・アイテっ!」
「おい、慌てるな、何転んでんだよ?」
「イテテ、足がもつれた、
なんか、足に力が入らない、ような・・・。」
「早くしろ、
何か事故か、獣に襲わえたのか・・・(ん?)!」
そして二人は仲間を発見する、
既に・・・
口を閉じる事さえ不可能になった、かつての仲間だった男のカラダを・・・。
「本隊! 応答願います!
先発隊のエドワードが倒れているろを発見しました!
ミリアムの姿はまだ発見できません、
エドの救命措置を試リますが、もう手遅れかも・・・!」
酒田の応答が返る直前、
もう一人、エドワードの手当てに入ろうとしていた者が大声をあげる。
「お、おい、見ろ! エドの顔を!?
なんだぁ、こりゃあ!?」
その時・・・この場に到着した二人の隊員のカラダを・・・、
白い・・・周りの霧よりも濃い、ガスのようなものが彼らを包み込んだ・・・。
無線機からは、酒田のおっさんの声が鳴っている・・・。
『わかった!
そちらまでの大体の距離と方角を言ってくれ!
それとエドはどんな状態なんだ!?
外傷でもあるのか!?』
だが、その後・・・酒田の声に応答する者は、誰一人としていなかったのである・・・。
スサ本隊はにわかに騒然となった。
デュオニュソス及びデメテルの村では犠牲者は誰ひとり出していないものの、
森の神シルヴァヌスの所でデンを始め、数人の命を失っているのだ。
それが、
こんな戦闘も起きないと考えられていた場所で、
まだ確定ではないものの、4人もの安否が不明になるなんて・・・。
サルペドンは、新たに捜索隊を編成する。
今度は3人ひと組とし、
タケル、グログロンガ、クリシュナをそれぞれリーダーとして、
合計9人の捜索隊を、先ほどの無線が途切れた場所へと向かわせた。
もちろん、やみくもに進ませる筈もない。
タケルのグループとその他二隊は、それぞれ互いの距離を保持しながら連絡を取り合うこととさせる。
残る本隊も四方を警戒させたまま、タケル達の後を追う。
全員に徹底させたのは、無線が途切れる位置に行かない事!
怪しくなったら、すぐ距離を詰めるようにとサルペドンは指示をしたのだ。
さて、もう平時ではない。
先頭を行くタケル達は、緊張しながら視界の不自由な白い荒野を歩く・・・。
今は日中のようだが、それでも10メートル先さえ視認するのが困難だ。
肌もひんやりとする・・・。
「これだけ前が見えないと、敵とは限らないな・・・。」
タケルは独り言のように前を見ながらつぶやくも、
部下の一人が相槌をうつ。
「まさか、断崖絶壁とか・・・?」
「ないとは言えないよな、
主要道路は安全そうだけど、少しそれてしまったら・・・。」
・・・その時・・・タケルの野生の勘が危険を意識した。
この音は!?
何かを発射したような・・・弓か!?
「伏せろ!!」
強引に部下のカラダを引きずり倒し、
縮こまるタケル達の上を、何本かの矢じりが飛び去ってゆく!
やはり攻撃を受けたのだ!
すぐにタケルは部下に持たせていた無線を奪い、早口で緊急連絡を他の部隊に送る!
「敵がいる!
この白い霧に乗じて弓矢を射ってきた!
全員戦闘態勢を取れ!
・・・それと、
この霧では敵もオレ達を狙いにくいはずだ!
無線の使用はこれより極力避けるんだ!
スピーカーからの音で狙われかねない!!」
そしてタケルの危惧は現実となる。
それまで息を潜めていたオリオン神群の兵たちが、
慌てるスサ達の気配を狙って、何本もの弓矢の攻撃をかけてきたのだ!
次回、いよいよタケルの前に、
この章の主敵タナトスが!!