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緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ 心の整理

いよいよデメテル・アテナ編最終回です。


いつの間にか、頭上の太陽も輝きを失い始めていた。

デメテルはとても興奮していたようで、

ハイテンションのまま、宴の準備を部下たちに促す。

今晩はここで一泊することになりそうだ。

・・・デュオニュソスの件があったからと言うわけでもないが、

明朝、この地を発つと言う事をはっきりさせながら、

サルペドンがそのデメテルの申し出を快く受ける。

まぁ、デメテルに限らず、この地底世界では娯楽も少なそうだ。

この日のタケルとアテナの試合は、

村人たちにとっても激しい興奮をもよおすものだったに違いない。

今夜も騒がしくなるだろう。


体力と・・・

そして心の中のわだかまりを全て吐き出したタケルは、

放心状態に近いような形で、村の外れでたそがれていた。

アテナに治療を施した後、みんなにもみくちゃにされそうなのを、

断って、一人になりたかったのだ。

カラダを休めると言う、適当な口実もあったし・・・。


そこへサルペドンとマリアがやってきた。

タケルもぼーっとしているようで、後ろの二人の気配に気づく。

 「・・・ああ、サルペドン、マリアさん・・・。」

サルペドンは誰にも分からぬ程度に口元に笑みを浮かべていた。

 

彼もこの地で一つの決断と、

自らを戒めていた鎖を解いたのだ・・・。

 「タケル、憑きモノが落ちたような顔つきだな・・・。」


タケルに向けた言葉だったが、

まるで自分に言い聞かせてしまったみたいで、サルペドンは自分の表情が崩れそうになるのを堪える。

 「うん? そう見えるかい、サルペドン?」

 「何故、あの場で泣いたのだ?」

そこを突っ込むか!

途端に恥ずかしがるタケル。

 「あ! そ、それは、やめてくれよ・・・!

 なんか、アテナさんが・・・

 姉貴にダブってさ、たぶん・・・。」


それはサルペドンにとってもマリアにとっても意外な答えだった。

いや、無理もない・・・、

美香と直接、剣を交えた身でないとわからないかもしれないからだ。

だがサルペドンも、

タケルに言われて、初めてアテナの透き通る瞳と、

美香の往年の眼差しの共通点に気付いたのである。


 そうか・・・オレがあの小さかった美香に感じていたもの・・・


先代の緒沢家夫婦が事故で亡くなった時、

美香が自分でスサを継ぐと宣言した時の決意の目・・・、

サルペドンの年齢の、10分の1にも満たない娘の目に感じた畏敬の念、

それは、100年も前に見覚えがあったものだったのだ・・・。

 

 「・・・そうか、美香と、か。

 どうだ? アテナは彼女と比べて・・・

 いや、アテナに打ち勝ったお前は・・・

 美香を越えたと言えるのか?」


タケルは自嘲気味に視線をそらす・・・。

 「ははっ、まさか、そんな・・・。

 結局アテナさんは美香姉ぇじゃないし、

 どっちが強いかは、戦ってみないとわかんないでしょ、

 ただ、オレの記憶の中の美香姉ぇの強さと、

 アテナさんの戦いが重なったってだけの話さ・・・。」


だが、それだけで十分だ・・・。

ようやくタケルは、よっこいしょと立ち上がる。

もう宴の準備は終わったかな?

 「そろそろ、戻るぜ、サルペドン、

 またデメテルさんが騒ぎ出すといけないだろ?」

 「ああ、そうだな、

 私もすぐにいくさ、

 主賓はお前なんだ、

 先に行って盛り上げとくんだな?」

 

タケルは軽やかに歩きだす。

見送るサルペドンの表情も穏和なままだ・・・。

それを見上げるマリア。

 「・・・この村に来て良かったですわね、サルペドン、

 あなたも・・・。」


自分はいつも見守るだけだ・・・。

マリアはそれが歯がゆくもあり、嬉しくもある。

自分はこのスサに監視役としてスカウトされた。

何をどう監視すると言うのか、

その意味は今でもよくわからないが、

この厳しい旅路の中で、マリアはいくつもの希望の光を目にしている。

きっと、

この先も困難を伴うだろうが、

タケル・・・サルペドン・・・

新しく仲間になったミィナや仲間と共に、

最後の目的を果たすまで・・・。


 美香さま・・・

 あなたが希望を託したタケルさんはここまで来ましたよ、

 これからも・・・

 私たちを見守ってくださいね・・・。

 



宴の内容は省略する。

デメテルのこれまでの行動パターンで、

大体どんな物になるかは想像つくだろう。


翌朝、予定通りスサは出立の準備を終える。

名残惜しいが、さわやかな気持ちだ。

デメテルはこの後の道順を簡単に教えてくれた。

まずこの先・・・「嘆きの谷」という所を越えると、

一本の草木も生えない「嘆きの荒野」と呼ばれる荒地に出ると言う。

かなりの広範な大地らしく、しばらくは食料の調達も難しいだろうということで、

保存食糧も寄付してくれた。

ただ、そこさえ過ぎるならば再び肥沃な大地になり、

いよいよ王都ピュロスの領域内に入るという。

そしてまたピュロス領内にもいくつか街や村は点在し、

領域内ですぐに辿り着く村が、

かつてポセイドンの直轄地だったというパキヤ村・・・。

今は代替わりしたヘファイストスが管理していると言う。


二人の女神が言うには、

「必ずこの地を通り、ポセイドンを今でも祀る老神官に会え」との事だ。

そしてその先、神々の直轄地ではないが、多くの人々が住む地域を通り過ぎ、

冥界の王ハデス、光の女神アグレイア・・・それぞれのテメノスを越えたところ、

それがいよいよ真の意味の王都ピュロスとなる。

 

そこに、この旅の最終目的地、神々の王ゼウスが待ち受けているのだ。

他にもいくつか重要な情報を教えてもらい、ようやくスサは出発する。


見送りのデメテルは、

やはりというか、別れ際のタケルに抱きつき頬をこすりつける。

 「いってしまうのだな、タケルよ、

 今度はわらわのカラダの中に、熱いモノを放出しに来るがよい・・・!」


 また朝っぱらからなんちゅう事、抜かすんだぁ!


どう反応していいかホントにわからないが、

ひきつり笑いを浮かべて、タケルは二つの胸にうずもれそうになる。

 「ぶゎ! は、は、はい、

 デメテルさん、お元気・・・で! ブハァっ!」


ようやく解放されると、

次は腕に包帯を巻いたアテナが自分を見つめていた。

 「あ、アテナさん、腕の痛みはどう?」


にっこり笑う彼女の表情は美しい・・・。

 「だいぶ、治まりましたよ、

 もし帰りに寄れるなら、今度は私のテメノス、クノッソにいらっしゃい?

 大きな地底湖のそばなので、お魚料理も有名ですよ。」

 「へえ! それは是非、ご馳走になりたいですね!」

右腕が塞がっているアテナは左手で握手を求める。

 


すぐにタケルが応じると、

自然な動作で彼女はタケルを引き寄せた・・・。

 「えっ・・・!?」

一瞬ドキッとしたが、タケルはすぐに理解した。

それは男女の抱擁ではない・・・。

まるで母か年の離れた姉が、子や弟に向かってするそれのような・・・。

 「いつでもいいのですよ、ポセイドンの子よ、

 私もデメテルも・・・。

 私たちはかの神に列なる者同士なのだから・・・。」


それが、昨夜タケルの身の上話を聞いてしまったせいなのかどうかはわからないが・・・、

タケルにも、彼女たちの温かさは十分、感じ取れていた・・・。

今は、このかりそめの温もりを、

体いっぱい受け取ってもいいのかもしれない。


そしてスサはデメテルのテメノスを出発する。

サルペドンも、サングラスの奥からデメテルやアテナに視線を送る。

古き友・・・、

懐かしき女性たち・・・。

 


彼もまた、ポセイドンに列なる者として、

彼女たちに深い郷愁を覚える。

今や、彼女たちの視線がタケルに向けられていたとしても何の不満もない。

自分自身、長く生き過ぎたと感じているし、

新しい世代の成長が見られるなら、

彼もデメテル達と思う所は一緒なのだ・・・。

もう、

安心して全てを任せても良いのだろう・・・。




そして向かうは、オリオン神群本拠地・・・


だが、この後、

すぐに彼らの浮かれた気持はどん底に叩きつけられることとなる。

「死の神」の魔の手はもうすぐに・・・。

そして・・・

物語の核心も・・・。




古の大神、ポセイドンの・・・本当の正体とは・・・。

 



次回、新章!

最恐の刺客来襲!!


そしていよいよ次の章では、

物語最大の謎の一端が明らかに!!

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