緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ タケル対アテナ
さて話をデメテルの村に戻そう。
こちらも揺れが治まったとはいえ、
誰もが驚愕や恐怖の表情を浮かべ、地べたに這いつくばっている。
アテナとデメテルは相変わらずだが・・・。
タケルですら、しゃがみっぱなしで辺りを警戒していたのだが、
もう揺れが起きないのを判断して、ようやくふらふらと立ちあがった・・・。
「あ・・・え、と、みんな大丈夫!?
デメテルさん、村に被害は?
もし、どこか被害が出てたら手助けに行くよ!?」
それを聞いてデメテルは優しい頬笑みを・・・。
「ホホホ、嬉しい事を言うてくれるのじゃな、タケルよ。
じゃが心配は要らぬ、
・・・あらかじめ聞いておったのでな。
まぁ、見周りはさせておく。
何か手助けしてほしい事があったらそなたに頼むとしようぞ。」
あらかじめ聞いていた・・・?
何の事だかわからずに、聞き直そうかと思ったが、
どうも後ろのアテナがタケルを待っているようだ。
そうだ・・・、
えーと、手を抜いたりしたら、
容赦なく斬りつけるとかっていう話の途中だったよな・・・!
「あ、アテナさん、すいません・・・。
さっきの話、了承しました。」
覚悟はできている。
姉・美香にどこまで追いつけたのか・・・。
元より一瞬の油断さえ見逃す姉ではない。
真剣勝負・・・
それでないと意味はないのだ。
・・・ここで、デメテルに少し気になるところがあったようだ。
「これ、アテナよ、
時に思ったのじゃが、お互いそなたの能力で『楯』を張るなら、
勝敗はどうやってつけるのじゃ?」
「それは攻撃する方が手応えで感じるわ。
そしてその時の反応は、表情やカラダの瞬間的なブレで相手にもわかるものよ。
それに・・・、
私が攻撃をHITさせているにも関わらず、
負けを認めないような狭量な人なら・・・」
そこでアテナはタケルに向かってにっこり微笑んだ。
「次の一撃では、
『楯』を解除してこの槍を突き刺してあげる・・・、
それだけの事よ?」
優しそうな顔して、平気で恐ろしい事を言う。
まぁ、相手を美香姉ぇに見立てるなら、
今更そんな事で気後れしたりはしない。
タケルは覚悟と緊張感を高め、戦いの支度を行った・・・。
戦いに使う武器は・・・
やはり慣れ親しんだ天叢雲剣を・・・。
だが・・・。
剣を預かっていたクリシュナがタケルに向かうも、彼も一つの心配をする。
「タケル殿、
もし、戦いの最中に誤って天叢雲剣を発現させたら・・・
あのアテナ様の能力は物理攻撃は完全に遮断するとの話ですが・・・、
この剣の電撃は・・・?」
確かにそれは危険かもしれない。
しかしタケルには不思議な確信があった。
「ああ、オレもそれは考えたよ。
ただ・・・オレはこの勝負、『祓いの剣』で勝負する・・・。
静かな興奮はあるけど、今のオレは闘争心が不思議にも湧いてこない。
この状態なら天叢雲剣は発現しないはずだ。
心の邪念を取っ払わないと『祓いの剣』は真価を発揮しないしな・・・。」
それを聞いてクリシュナは安心してタケルに剣を返す。
・・・確かにタケル殿は成長しているな・・・。
その思いは、スサの誰もがいつの間にか再認識していた・・・。
タケル自身、
「オレ、ちっとは成長してるだろう?」とは思ってはいるが、
自己評価よりもはるかに高く、周りは既にタケルをスサの総代として認めるようになっていた・・・。
そこへいつの間にか、サルペドンがこの場に到着していた。
周りに気取られないように、
静かにみんなの後ろに控えている。
先程から彼の事を気にかけていたマリアが彼に気づき、
そっと群集をかき分け彼の元へ・・・。
「サルペドン・・・!
いったい何を!?」
「心配いらない、マリア・・・、
少々遅すぎた私の宣戦布告さ・・・。
オリオン神群の一人、アレスを討ちとってきた。
みんなには勿論、黙っていてくれ・・・。」
「もう一人来ていたのね・・・。
この先も、きっと・・・。」
「タケルにばかり、辛い目に合わせる訳にもいかんだろう?
それに本来、私がケリをつけなければならない戦いでもある。
さぁ、それより、今はタケルの成長を確かめよう・・・。」
そのまま、サルペドンは自分がいなかった間の経緯をマリアに確かめる。
「・・・フン? タケルの事だから、
思いっきり拒絶すると思っていたが、そうでもないのか?
気のせいか嬉しそうにも見えるな?」
「サルペドンもそう思う?
タケルさんにあるのは期待と興奮・・・そんな感じみたい・・・。」
いま、
アテナとタケルは、互いの顔を見ながら足場や足元を確認する・・・。
周りでハラハラしながら見つめる者も多いが、
当の本人たちはそんな心配などどこ吹く風だ。
そこでタケルが勝負の前にもう一つだけ確認する。
「あ、えっと、アテナさん、その白銀の楯は?
お互いにあなたの能力でバリヤー?
・・・を張るなら元々その楯を持つ事は、
却って邪魔にならないんですか?」
問われたアテナは、左手に持つその楯に目を遣ると、
少しはにかみながらタケルに答えた。
「ああ、このアイギスの楯は、
私が幼少の頃から手にしていたものなのです・・・。
それだけに、これを使っている間は私の能力も増大します。
それに勿論、あなたの攻撃を弾く際にもこの楯は十分利用できますから、
これが私の不利になるとか言う心配は一切無用です。」
ならば、もう何も聞くことはない。
準備は全て完了だ・・・。
あとは・・・始まりの合図を待つだけ・・・。
二人のカラダは正対したまま待機している。
その図を両の眼で見つめるデメテルは、
ゆっくりと・・・
その白く柔らかく・・・肉付きのいい腕を天にかざした・・・。
「では・・・両名・・・
これより戦の女神アテナと・・・、
ポセイドンの末裔タケルとの試合を執り行う!
見届け人はこの黒衣の女神デメテル!
二人ともその祖の名に恥じぬ武を見せるがよい・・・!
・・・それでは・・・
はじめ!!」
その合図とともにアテナのカラダが消える!
いや!
タケルには視えていた!
彼女のカラダが自分の眼前に飛び込んでくるのを!
その神速のスピードを交わす事など不可能、
タケル自らも前方に突きを繰り出し、天叢雲剣の刃を以てアテナの槍を逸らす!
ただそれだけが、この攻撃を防ぐ唯一の手段!
そして・・・
息を継ぐこともなく二人の舞台が今始まる!