緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ サルペドン対「戦の神」アレス
ついに本気のサルペドン出陣です。
さて・・・
タケルが女神たちの洗礼を受けようかとする間、
サルペドンは一人、デメテルのテメノスを抜け出していた・・・。
デメテルの村は、
農産物の生育にふさわしいふくよかな大地・・・。
だが、
それもどこまでも続いている訳でもなく、
固い岩盤と、ささくれ立った不毛の砂岩からなるその土地は、
デメテルの村からは深い谷によって遮られていた・・・。
その辺り一帯を、
地元住人は「嘆きの谷」と呼んでいるわけだが、
その遥か先には、ピュロス王国の王都ピュロスへの街道が開けており、
彼らスサが進軍するためには避けて通れぬ道でもある。
谷そのものに流れる水量は、
大して多くはないのか、低い位置に申し訳程度の橋がかかっているだけだ。
落ちたとしても、捻挫ぐらいで済みそうだし、溺れる心配もなさそうである。
だが、
橋を越えると、辺りの様相は一変する。
そこから始まる不毛の荒野には、いくつもの隆起した岩礁がそそり立ち、
まるで岩の林のような奇妙な景観が始まるのである。
そこから先へ進むと、
気温の寒暖差から来る白い霧の世界がまた再び始まるのだ。
・・・ちょうどサルペドンが橋を渡ってしばらくすると、
薄いコントラストの景色の中に、
ポツポツと黒い塊が混じっている事に気づく・・・。
わかっている・・・。
人影だ・・・、
それもだんだんと近づくにつれ、その人影の多さが明らかになる。
成程、デメテルの言ったとおり、その軍団の総数は1000に近いのだろう。
戦いになればスサに勝ち目はなさそうだ。
無論、機関銃やグレネードランチャーなどの強力な火器を持って対戦すれば、スサが圧倒するのだろうが、
天然の地形に阻まれた土地でゲリラ戦となったら・・・
さらに敵味方入り乱れての乱戦となれば、必然的に数の問題でスサは全滅する。
ならば・・・
今ここで奴らを止めねばならない・・・!
そして、この軍隊を指揮するのは・・・
戦争を司るアレス。
軍隊の先頭には、ごつい鎧を纏った将兵が立っている。
明らかに他の兵たちとは身分が異なる。
サルペドンはその男に視線を定め、ゆっくりと近づいていくと、
余裕を持って彼の接近を注視していた先頭の男が大声をあげた。
「止まれ!!」
とりあえず、サルペドンはその言葉に従い、足を止める。
「・・・お前はデメテルの村のものではないな?
まさか地上からやってきた人間・・・?、
ふん、デメテルめ!
やはり我らの情報を流したか!
・・・まぁいい、一人でこんな所にまでやって来るとなると、貴様は伝令か!?」
鎧の上からでもわかる、ごつい骨格の持ち主・・・
口周りや露出した手足の部分には深い体毛が見え隠れする・・・。
これが戦の神・・・アレスなのだろう・・・。
サルペドンは、
これだけの大群を一人で前にしても、いかなる動揺も見せない。
これまでにも行ってきたように、
慣れた仕草で交渉を始める。
「私は地上から来た・・・スサの副官、カール・サルペドン。
戦の神、アレス殿とお見受けするが、相違ないか?」
一際豪勢な装飾物を飾り付けた鎧の男、アレスはゆっくりと前に出る。
「フッ、その通りだ。
副官だと?
結構大そうな立場のようだが、何しに来たのだ?
命乞いなら聞いてやらんでもないが、
既に何人もの同胞が貴様らにやられている。
あまり期待しない事だ。」
「・・・残念ながら命乞いではない。
無駄かと思うが一応、確認しておきたくてな。
このままお前達が兵を退くなら、見逃してやろう。
我々はゼウス以外に目的はない。
わかるな・・・?
無駄な殺生はしたくないのだ・・・。」
あまりにも堂々としたサルペドンの言葉に、
アレスはしばらくぽかんと口を開いたままだ。
・・・こいつはこの状況が分からないのか!?
アレスはようやく我に返り、吹き出しながらサルペドンを脅す。
「フッ・・・フッハッハッハ!
こいつは驚いた!
地上の人間は冗談が好きなようだ!
だが、我らがそんなふざけた言葉につきあってやる必要はない!
それでどうするつもりだ?
まさかたった一人で我らに挑むつもりではないだろうな?」
だが、サルペドンはそれには答えず、
再び歩き始め、アレスの軍勢に近づく・・・。
アレス側も、たった一人の接近に余裕を見せ続けているが、
あまりにも大胆なサルペドンの行動に、そろそろ警戒心を見せ始めた。
「・・・者ども、辺りを警戒せよ・・・!
こいつは囮で、何か計略があるのかもしれん!」
そこでサルペドンは微笑を浮かべた・・・。
「成程、さすがは戦の神だな・・・。
だが、警戒はいらない。
正真正銘私一人だよ・・・。
それより、まだ『戦う』つもりかな?
ならば・・・そろそろタイムリミットだ・・・。
私は殺意を持つお前たちに、
慈悲の心を見せる必要はないと考えている・・・。」
ついに毛深いアレスは怒声をあげた。
「舐めるのもいい加減にしろぉ!
よかろう!
しかし、貴様一人にこれだけの軍勢をあてる必要もない!
おい! 4~5人で余裕だろう!
ヤツを血祭りに上げろ!!」
すぐにアレスの背後からその人数の小隊が飛び出す!
それぞれ凶悪そうな剣や槍を構えている。
だが、
ここにあってもサルペドンは余裕のままだ・・・。
「確か・・・アレス、
貴様の能力は、兵士たちの全てのステータスを上げ、
いかなる戦場に於いても通常では考えられない戦闘能力を発揮させる筈だな?
確かに恐ろしい能力だが・・・
私には一切通用しない・・・。」
「フン、デメテルから聞き出したとみえるな、
あの好き者女に奉仕でもして取り入ったのか?
まぁ、よかろう!
お前の首を切り取って、残りの地上の者どもの足元に転がしてやるとしようか!
者ども! ヤツの首を落とせ!」
アレスは両手を高々とかざす!
すると彼のカラダが薄い光に包まれたかと思うと、
さらにアレスの前を行く5人の兵隊たちも同じ光に包まれた!
「「「ぅおおおおおっ!」」」
鎧をまとっているにも関わらず、彼ら兵士の動きが俊敏となる!
この場にいる誰もが、この先の未来を疑う事もしなかった。
すぐにサルペドンの命が地上に散るであろうことを・・・。
だが。
サルペドンは左手でサングラスを外すと、
次に右手を・・・
ゆっくりと頭上に広げたのである・・・。
あの・・・アヴァロン城で騎士団との決戦で見せた時のように・・・。
アレスの配下、先ほどデメテルに折衝に来たアクタイオスは違和感に気づく。
「アレス様!?
あの男の挙動は!?
・・・それにあの隻眼・・・!?」
アレスが配下アクタイオスの言葉の意味に気づいたとき、
「それ」はやってきた・・・!
ド ン ッ !!
次回!
オリオン神群最強クラスの能力が!!