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緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ 甦る記憶!


 「えっ、そんな事言われたって、オレどうしたら?」


すると、アテナは右腕に握りしめていた槍を高々とかざしたと思うと、

その穂先をゆっくり下ろし、

うろたえているタケルに向かって突きつけたのである。

 「・・・難しく考えなくて結構です。

 この戦いの女神と呼ばれるパラス・アテナと矛を交えていただきたい・・・!」

 「なっ!?

 ちょっと待って下さいよ! 

 あなたはオレらに敵意はないんでしょう!?

 そんな人に・・・それにいくらなんだって女性のあなたに・・・」



その瞬間、アテナのカラダが消えた!

いや、誰もがその姿を一瞬、見失ったのだ!

そして、周りを取り囲んでいたスサのメンバーが認識できた次なる光景は・・・、


激しく踏み込んで前傾姿勢になっているアテナの槍が、

のけぞるタケルの顔面に、今にも突き刺さろうとするその姿であった・・・。


アテナはそのまま微動だにしない。

タケルに至っては、その体勢から身動きひとつとれやしない・・・。

彼にあるのはただ、驚愕・・・。

 

その時、突然タケルの脳裏に、

ある一つの記憶が蘇った・・・。


地底世界に降りて来て以来、剣の勝負などしていないが・・・、

今のアテナの動きは、

地上でさんざん戦ってきた騎士団の将兵達をも上回る・・・

そう、この目にも止まらぬ凄まじき神速は・・・、

あのライラックやランスロットと並ぶ・・・

 いや・・・!

 それよりも・・・

 剣と槍の違いはあるが、

 この突きの鋭さに覚えがある・・・!



他の誰でもない!

タケルのカラダに焼き付いてる絶対的な記憶!

・・・ふつふつとタケルのカラダが湧きあがり始めた・・・。

恐怖でも脅威でもなく・・・。

タケルのカラダの末端・・・

足の指先・・・両の腕の指先から血が逆流するかのような・・・

ジワジワと、カラダの全ての毛穴が開いていく・・・心地よい興奮・・・。


タケルがその意味に気づいたのは、それらの身体的信号を自覚してからだ。

そう、この剣筋・・・タケルは知っている。

誰よりも知っている・・・これだけのスピードを・・・

剣撃を止めた時に、刃先が微動だにしない程の精密さ・・・。

 

 美香姉ぇ・・・!





タケルを知るスサの仲間達が何よりも驚いたのは、

アテナの行動よりタケルのその反応だ。


 笑っている・・・!?


いつもの呑気なタケルなら、

そのまま、怯えてしり込みするか、

相手が女性がある事を慮って、消極的な態度を見せる筈なのだが、

タケルの口元が緩むなど、誰が予想できたろう?

・・・彼の口もとの笑みは本人すらも意識できない。

気がついたら、この事態を喜んでいる自分がいるのだ。

そしてタケルはようやく、自分のカラダの反応の原因に気づいた。


顔つきや骨格は勿論違うものの、

その高貴なる態度・・・精神・・・武技にいたるまで、

そのいずれもがタケルの姉・美香を想起させていたのである。

・・・子供の頃からコンプレックスの根源であり、

己が劣等感の原因、

そして憧れの対象・・・。

いつか追い越し、

彼女を守ってやれる男になろうと決心していたにも拘らず、

その願いもむなしく、

自分の腕の中で命を終えた・・・たった一人の姉・・・。

 

騎士団との度重なる戦いにどれだけ勝利しても、

自分がどれだけの実力と自信をつけようとも、

もう美香を越える事を確かめられる方法などないと諦めていた彼に、

今・・・ここでその機会が天から舞い降りた・・・。

そう、

目前で凛と構える女神アテナに、

タケルは最愛の姉・美香の姿を見たのである!


そして当のアテナと、見届け人デメテルは、

タケルの表情にほぼ同じ思いを抱く。

 (ほう? 顔面に槍を突きつけられて、全く怖れを感じないのか?)

アテナはゆっくりと槍を下した・・・。

タケルの顔つきを見て、余計なデモンストレーションは不要と感じたのだろう。

先程の自分の言葉の補足だけすれば良さそうだ。

 「・・・タケルよ、

 私はあなたと殺し合いをするつもりはありません。

 これは試合です、

 純粋に剣技だけのね・・・。

 あなたの強さを見たいのではありません。

 私は戦いの中からあなたの本質を見抜きたいのです・・・。」

 

タケルにとって、

アテナの目的などは勿論どうでも良い。

もともと、彼女の都合に付きあわされる義務などない筈だが、

図らずも彼には一つの大きな目的が生まれていた・・・。

 子供の頃からの大きな目標・・・

 姉・美香を越える・・・。


勿論、アテナは美香ではないし、

これがただの代償行為に過ぎない事は、十分すぎるほどわかってもいる。

ただ、彼自身、一つのきっかけが必要だったのだろう。

そして、

先のデュオニュソスの村での一件を

完全に心から払拭させるには・・・、

自分の心に絡んだ重い鎖を解き放つには、またとない契機なのだ。


残る問題と言えば・・・。

 「アテナさん、試合となれば受けてもいいんですが・・・、

 まさか、その槍とオレの剣でやりあうってんじゃないでしょうね?

 それでしたら危険すぎます。

 デュオニュソスの時のような事件は真っ平です。

 剣の代替えとなるような安全なものと、

 防具を用意していただかないと・・・。」

 

後ろでデメテルが笑い始めた。

 「ほーっほっほほ、我らオリオン神群を・・・

 そして戦いの女神アテナを見くびるでないぞ、タケルよ?

 どれ?

 そなたの危惧が杞憂にすぎぬ事を教えてやろう、

 タケルよ、今その場でアテナに触れてみるがよい。

 ・・・なんなら胸を揉みしだいても良いぞ?」


 また、そんな下ネタで・・・。

 当のアテナも呆れているじゃないか?

もっともアテナ本人も、

デメテルの言葉に何ら否定すべき部分はないと思っているようだ。

 「・・・全く、緊張感を台無しにするわね、デメテル。

 ですが構いませんよ、タケル・・・。

 こんな年上の胸など興味ないかもしれませんが、

 触れるものなら、腰のくびれだろうが、太ももだろうが・・・。」


 いやいやいやいやいやっ!

彼女達が何を言わんとしているのかわからないが、

それほど身のこなしに自信があると言うのだろうか?

タケルはアテナの肩ならいいかと、ゆっくり手を伸ばす。

・・・どうするつもりだ?

ゆっくりよりも、バッとスピーディに触った方がいいのだろうか?

だが、アテナの白い肌に触れる寸前・・・

タケルの手が動かなくなる・・・!

 


 なんだ!?

 アテナのカラダはすぐそこだというのに・・・、

 手が・・・指が彼女に届かない!

 指先はちゃんと動くのに・・・。


タケルのカラダに異常はない。

だが、アテナの体表から5センチ程以内にどうしても近づけない。

試しに肩以外も試そうとするが、どこも同じだ。

腕も頬も腰に至るまで、タケルには触れる事も出来ないのだ!


・・・傍から見ると本当にいやらしそうに見えたのか、ミィナが大声を浴びせる。

 「タケル!

 おめぇちょっとは遠慮しろよ!

 その手の動き、やらしすぎるぞ!!」


確かに外野からは、

タケルがアテナに触れてないのが分からないのかもしれないが、

いくら何でもこれはあんまりだ。

 「うるせぇぞ! ミィナ!!

 触れてねーんだよ!!

 ・・・まるで・・・空気の厚い壁があるみたいに・・・!」

 


その言葉を聞いて、

真っ先にマリアが全てを理解した。

 「タケルさん!

 それが・・・きっと女神アテナの能力・・・!

 鉄壁の絶対防御・・・

 地上の言葉で言う『サイコバリヤー』です!

 恐らく、彼女の精神エネルギーで物理的な攻撃全てを弾くのでしょう・・・!

 それも・・・あなたの剣撃でさえも!!」


 こ、これがアテナの能力だって!?

驚くタケル達を前にアテナはにっこり微笑む。

 「ご理解できました?

 安心してください、タケルさん、

 この距離なら、あなたのカラダにも鉄壁の幕を張ることが可能です。

 試合と言っても、先ほど言ったようにあなたの戦い方を見るのが目的ですから、

 互いのカラダにダメージを与える必要もないのです。

 どうですか?

 それなら女の身である私と戦っても、あなたの矜持に傷はつかないでしょう?

 ただ・・・緊張感はなくされては困ります。

 これは真剣勝負・・・。

 もしあなたが手を抜いたり油断するようなら・・・

 私は能力を解除して、あなたの命を奪います・・・。

 宜しいですね・・・!?」

 


次回、タケルは置いといて・・・


サルペドン対アレスの戦いを!

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