緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ 試されるタケル
スサノヲが「嵐」の神ってのも良くわからないんですよね。
鼻から生まれた→息→風のイメージ?
「スサ」の語感→「吹きすさぶ」から?
まあアマテラス、ツクヨミが両目で太陽と月で、鼻が・・・と来れば、天体の下にある物、
大気→風って意味もわかるのだけど。
ただ天体現象説で説明すると、中国の一部や東南アジアの神話では、
太陽の神、月の神、そして日蝕や月蝕を起こす神というのが三兄弟として存在します。
そこで話が長くなるのを察知して、
マリアが「皆さん、お座りになったら如何でしょう?」と問うと、
デメテルが忘れ物に気づいたかのように笑い声をあげた。
「そうそう、よく考えたらゆっくりしている場合でもないのじゃ、
タケルよ、体調は回復しておるのか?」
「え? あ、ああ、もうバッチリ!」
「ほほほ、そうか、
ではアテナよ、そなたはどうじゃ?」
「ふふふ、デメテル、私はいつでも構わないわよ?」
一体何が始まるのか?
なんとなく話の流れで、
自分に関係がありそうな気もして、再びタケルは緊張を始める。
そしてタケルは見逃さなかった、
デメテルとアテナ・・・そしてサルペドンの間で一瞬視線が交錯した事も。
するとアテナは、もう一度タケルに微笑みかけた。
「タケルよ、お願いがあるのですが?」
その高貴な瞳に誰が拒絶する事など出来ようか。
「あ? は、はい、何でしょう?」
すると、デメテルが例のイケメンお付き軍団を呼び寄せ、彼女を再び輿に乗せる。
「タケル、これより広場に移動する。
アテナの後ろについてゆくがよい。
・・・それと、サルペドンよ、
そなたは少しここに残りゃあ。」
全員、訳も分からずデメテルの言葉に従う。
サルペドンも途中までは状況を把握していたはずだが、
最後のデメテルの言葉に違和感を持ったようだ。
彼はデメテルの近くまで行くと、
もう、近くに誰もいなくなったのを確かめてからデメテルに質問をした。
「何だ?
この後の話はアテナから聞いているが?」
「100年ぶりの逢瀬は愉しめたのか?」
サルペドンは呆れたように首を振る。
「・・・お前がここにいるのに、
このオレがそんな恥知らずなマネ、できると思うのか?」
「なんじゃ、わらわに遠慮することなどないのに、
相変わらず女心の読めない奴め・・・。」
「相変わらずなのはお前だ・・・。
だがお前は本当にいい女だよ、デメテル・・・。
それより、今そんな話をするために私を呼び寄せたのか?
これからタケルに大事な・・・。」
「いや、今がよかろう、
ポセイドンよ、
この村の先には草木も生えない『嘆きの谷』という場所があるのじゃが・・・、
そこにお前たち地上の人間を待ち伏せしようと、
アレスの小僧が大勢の軍隊を率いて待ち構えておる。」
サルペドンの表情に緊張が走る。
「戦神アレスか・・・!」
「当初、この村に入りこみ、
そなたたちに奇襲をかけるとかぬかしておったが、
それは拒絶しておいた。
じゃが、わらわのテメノスの外で、と言うのなら、
もうそれはわらわにはどうする事も出来ない。
ここでそなたたちに味方すれば、今度こそゼウスはわらわを許すまい。
アレスは・・・お前たちでケリをつけるべきじゃ・・・。
とは言え、お前達の一団はもはや30人程しか戦える者はいまい?
ここでアレスと戦ったら・・・。」
サルペドンは黙っていた・・・。
いや、彼も既にアテナとの会話で、いつかはこうなる事の覚悟を決めていた・・・。
それが早いか遅いかだけの話・・・。
「わかった・・・
ありがとう、デメテル、
それで感謝ついでに頼みと言うか、願いと言うか、
その『嘆きの谷』で私がアレスを迎え撃つのなら・・・、
この村にも多大な影響を引き起こすかもしれない。
ある程度、能力をコントロールするつもりだが・・・、
村人たちに注意を呼び掛けてほしい。」
「わかっておる、
じゃが、もし、村人に被害を与えたら貴様を容赦せんぞ?
いかなる償いをしてもらおうかの?」
「タケルを一晩貸すと言うのは?」
「ふっはっはっはっは!
それは名案・・・なんと言ってる場合か?
とっととケリをつけてくるが良い。
あの坊やとアテナの事は、それまでわらわが見届ける故・・・!」
そこでサルペドンはデメテルに手を差し出した。
しばしの間の後、デメテルは彼の手を暖かく握りしめる。
100年以上の昔、
アテナと・・・ポセイドン、そしてこのデメテルが如何なる関係だったのか、
興味あるところだが、
彼らにしてみれば遠い過去の美しい思い出なのだろうか?
サルペドンは柔らかい笑顔を浮かべるデメテルを背にし、
今、再びポセイドンの姿を取り戻し戦場へと向かう!
一方、村の広場では、その中心にアテナとタケルを残し、
デメテルの配下の者たちが、スサや村人たちを彼ら二人から遠ざけるように指示をする。
・・・これはまさか・・・。
見ればアテナは先ほどの槍と楯を持ったままだ。
タケルは手ぶらである。
強いて言えば緒沢家の紋章を首からぶら下げたままだが、
これは単独では何の役にも立たない呪具だ。
・・・少なくともこの時代にあっては。
一体何事かと思い、タケルが警戒していると、
ようやく遅れてデメテルがやってくる。
「ほっほっほ、準備はいいようじゃな、
さて、タケルよ、
わらわとそこなアテナは、地上におけるポセイドンの血・・・
すなわちそなたの力を見てみたい。
これはポセイドンと密なる関係を持つ、我ら二人の女神の権利だと思ってもらいたい。」
えええっ!?
まさかとは思ったがそんな流れなのか!?
「ちょ、ちょっと待って!
オレの力って何を!?
天叢雲剣の雷撃を見せればいいのか?
・・・それなら可能だけど、周りに危険が・・・。」
今現在、天叢雲剣はクリシュナに預かってもらっているので、
タケルは戸惑いつつも、彼に視線を向ける。
クリシュナは、勿論すぐに天叢雲剣を返す用意をするも、
アテナ達の真意は他にある。
「いいえ、タケル、
その剣の事は、先ほどあの片目の男性から伺いました。
凄まじい力を備えているそうですね?
ただ・・・何故、ポセイドンの後継者が『雷』の力を使えるのか、
その点は納得できない部分もあるのですが、そこは今はいいでしょう。
そんな事より私達が知りたいのは、
『あなたにポセイドンの神性』が顕現しているのか、
それ一点なのです。」
アテナの言葉はタケルに色々な疑問を想起させる。
・・・そういや、天叢雲剣を使える資格には、
この胸元の紋章が不可欠なわけだけど、
「大地の神」に列なる者が雷撃を使うのって、確かに似つかわしくないな?
あ、でも日本ではスサノヲは「嵐」の・・・
インドではルドラ・・・
「暴風雨」の神だって言うからそんなに・・・
ああああ、やっぱりわかんねぇ!
ここにサルペドンがいれば、
それなりの解説をするのだろうが、彼は何所に行ったのか?
いや、今は、アテナの最後の言葉・・・。
どうやって、タケルに「ポセイドンの神性」を求めると言うのだろう・・・。
次回、アテナの能力が明らかに。
「甦る記憶」!!