緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ アテナの依頼
昨夜脱字を発見したので修正してます。
今までの、
男女見境なくふざけて抱きついてきたデメテルの抱擁とは、明らかに様子が違う。
一体、この女性は何者なのか?
・・・だがすぐにタケルの疑問は解き明かされる。
体を離したデメテルは、その彼女を上座に立たせ、
タケルや宴席の一同に彼女を紹介した。
「紹介しよう、
わらわの旧き友、戦の女神パラス・アテナじゃ・・・。
本来、お前たちスサからこの村を守る為にやって来てくれたのじゃが、
もう警戒は不要と判断してお前たちの前に引き合す。
タケルよ、彼女の前に立つがよい。」
ええっ!?
勿論、神話の世界に疎いタケルとはいえ、
戦の女神アテナの名前くらいは聞いたことがある。
それに確か・・・
今までの話では、このオリオン神群の世界で、100年以上前に、
デメテルと共にゼウスに反抗したとか・・・?
戸惑いながらタケルがアテナの前に立つと、
彼女は無言で右手を伸ばしてきた。
その表情は静かに笑みを浮かべているようでもあり、
じっとタケルを観察しているようでもある。
タケルにその腕を拒む選択肢などありはしない。
一方、アテナに至っても、
初対面のカラダの大きなタケルを前にして、
怯える様子や気遅れなどは全く感じられない。
まさにその風格は女王のものである。
握手に応じたタケルは、その小さな手のひらに力強い意志を感じた。
細く白い指に・・・。
すぐにタケルは一つの衝動に駆られる・・・。
このまま膝をついて、頭を垂れるべきなのかと・・・、
その二つの梟の眼に見下ろされる事が、
自分が取るべき態度なのではないのかと・・・。
辛うじてタケルがその誘惑に耐えると、後ろでサルペドンが説明を加えた。
「タケル、お前が休んでる間、
私が彼女の尋問を受けていた。
一応、我々の出自と、この地底世界にやってきた経緯は説明してある。
デュオニュソスの事もな・・・。
特にタケル、
お前が地上のポセイドンの血を受け継ぐ者と説明してからは、
お前に興味を持たれてな、
ちょうど、お前が起きて来てくれたのでいいタイミングだったようだな。」
さらっと、サルペドンは嘘を言う。
勿論、これまでの経緯をアテナに話したという部分は嘘ではない。
肝心なことを、思いっきり隠して平然とした顔を作る。
自分が数十年も嘘をつき続けていた事に罪悪感は感じつつも、
実際となると、堂々とした態度をとれる。
そこはさすがの老練さか。
サルペドンの本当の正体を知っているマリアだけが、
心配そうに彼の顔を見つめるが、
サルペドンは他人に分からない程度にマリアに首を頷いて見せた。
タケルは手を放した後も、アテナの鋭い視線に晒されたままだ。
いつまでもそれに耐えられる筈もない。
というより、タケルはこの手の視線が苦手だ・・・。
大抵の初対面の女性は、
自分の体格に気後れして、真正面からタケルを見つめる事などできやしない。
・・・ただ、こんな視線に慣れていない為か、
まだタケル自身気づいていないが、
彼はこの視線に見覚えがあるはずなのだ。
自分を真っすぐに見据える高貴な瞳を・・・。
「タケルと言うのですか・・・?」
とても上品な声だ・・・。
武器を手にする者とは思えないほどの物腰の柔らかさだが、
むしろそのアンバランスさが、彼女の絶対的な威厳を醸し出しているのだろう。
その問いや命令に逆らえる者などいる筈もない。
「は、ハイ!」
アテナは自分の指先で、タケルの腕の筋肉や胸板の厚さを探る・・・。
デメテルの時のようなエロチックさはまるでない・・・。
まさに彫刻家が、
その作品に触れるかのように、タケルそのものを観察してゆくようだ。
「・・・素晴らしい肉体ですね・・・。
単に筋肉の衣を纏っただけではない・・・。
柔軟性にも敏捷性にも優れている。
まるで、細胞の一つ一つが光り輝くよう・・・。
ポセイドンの血を受け継ぐと言う話、
確かに信ぴょう性が感じられます・・・。」
鍛えまくった自分のカラダを評価されて、嬉しくないタケルではない。
ここら辺で少し緊張が解け、彼の心は油断をする。
この先、かなり真剣な事態に陥ると言うのに。
ここで、デメテルが興味深い話をタケルに告げる。
「タケルよ、
神話においてアテナとポセイドンの関係を知っておるか?」
すいません、知りません。
正確には、
聞いたことがあるようなないような、そんな程度の話だったけど、
確かギリシアの街の領有権ををめぐって争ったとかなんとか・・・。
いや、ここは話を聞いた方が手っ取り早い。
まさか、またポセイドンが不埒なマネをしたとかじゃ・・・?
デメテルはタケルの様子を見て、笑いながら話を始めた。
「一番有名な話は、
地上のアテナイと言う街をめぐって対立したという話じゃな、
その町にとって、最も有益なる恵みを与えた者がその街を得る。
・・・そんな条件のようじゃが・・・、
(呆れたように)何が対立か・・・?
そんなおままごとの様な敵対関係など世界のどこにある?
神話に於いては、ポセイドンは塩の泉を湧かせ、
アテナはオリーブの木を植えた。
この時、ポセイドンの眷属として生まれたのが天馬ペガサスじゃ・・・。
まぁ、なぜか知らぬが、
この時よりアテナイの街はアテナの物になったと言うが・・・。」
そしてお次はおなじみ、サルペドンの解説。
「アテナはゼウスの娘だと言われるが、
私が調べた話では、ポセイドンの娘だと言う異伝も地上に存在する。」
へぇ?
と、それはデメテルもアテナも意外だったようだ。
続いてサルペドンは言葉を続ける。
「出生にいろんな謎があるのは、
アテナに留まらず通常よく見られるのかもしれないが、
彼女を地上に送りだしたのはヘファイストスともプロメテウスとも言われている。
だが、やはりアテナとポセイドンの関係はよく分からないな、
もう一つ興味深い話では、
化け物とされるメドゥサにまつわる異伝だ。
元々メドゥサと言う名は、
『統治する女』という意味で、ポセイドンの伴侶とされていた。
ところが、それに嫉妬したアテナがメドゥサを醜い化け物の姿に変えてしまってから、
メドゥサの頭髪は無数の蛇の姿になったとまで言われるが、
ギリシア神話に於いてアテナは処女神であり、特定の伴侶を持たない筈でもある。」
ここでタケルが興味を覚えたのは前半の話である。
男女の神々の対立に、武装した女神?
対立の後に生まれるもの・・・そして馬?
これもどこかで聞いたような・・・
確か日本の高天原とか言う場所で・・・。
次回、ついにサルペドンが戦いの場に。