緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ 4人目のオリオン神群
さて、デメテルの寝所にて、
ポセイドンとアテナ、二人のオリオン神群が会話している間、
タケルは村人たちが用意してくれた簡易ベッドで身を休ませていた。
長い戦いの連続で、
どこでもすぐに寝られる習慣と、
すぐに目覚められるようにする行動パターンの繰り返しで、
今も軽くいびきをかいて一眠りしていたのである。
丁度一時間と言うのはキリが良い間隔なのだろうか?
・・・ゆっくりと柔らかいシーツの中で彼は眼を覚ました。
表を覗くと、
小屋の入口に座りこんでミィナと酒田さんが飯を食っていた。
「・・・ふぁ? あれ?
二人とも・・・宴席で騒いでたんじゃ?」
ミィナはお芋の煮っ転がしを頬張りながら、
タケルの目覚めに安心したようだ。
「ふぉふぉ(おお!)ふぉお、
かふぉいふぉはひょくなっひゃな(もう、顔色はよくなったな)!」
「・・・ミィナ、せめて飲みこんでから喋れよ。」
何とか言ってる事はわかるけど。
そんで、酒田さんが質問に答えてくれた。
「まさか、ずーっと騒いでらんねーさ、
あのデメテルのおばさん、楽しけりゃ相手が誰でも大騒ぎできるようだしな?
ミィナもお前の事、心配してたんだぜ?」
へぇ? それは意外!
タケルはきょとんとして、ミィナを見つめるが、
勘の鋭いタケルは空気を読んだ・・・。
これ以上ミィナの顔をしげしげ見ると、また攻撃を加えられる・・・。
案の定、ミィナは眉をしかめてタケルの足を踏もうとする。
・・・あぶねっ!
何度も踏まれてたまるか!
攻撃をかわされたミィナは、悔し紛れに罵声を浴びせる。
「勘違いすんなよ、アホタレ!
デュオニュソスの村でお前に悪いこと言っちゃったから、
あたしはせめてもだな・・・。」
「はは、わかってるよミィナ、
それに前の村の事はもう気にしてないさ。
それより、そろそろデメテルに挨拶しないと・・・。
あれ? サルペドンは!?」
「ああ、何か誰かが用があるって、あいつを呼びつけたみたい?
まだ帰ってこねーのか?」
「じゃあ、余計にオレ戻った方がいいじゃん!」
すぐさまタケルは、顔をこすってデメテルの所に戻ろうとした。
そのデメテルは、遠目にタケルが目覚めたのに気づくと、
またも大仰に歓喜のポーズをとって、両手をいっぱいに広げたが、
・・・その時、同時に彼女の視界には、
全く別の人物の陰が入りこんでいた・・・。
デメテルは遠くでタケルが怯えるのを、
笑いながら見ていたが、
すぐに思い直したように、カラダをテーブルの正面に戻す。
すると、そのタイミングを待っていたのだろうか、
彼女の背後から、黒い簡素な長衣をまとった男が控えめに歩み寄ってきた・・・。
デメテルは前を向いたまま、自分の背後に現れた男に質問をする。
「何じゃ、お前は?
この村の者ではないな?
アテナの配下の者でもあるまい?」
男はデメテルにしか聞こえないような小声で要件を告げる。
「・・・恐れながら、黒衣の女神デメテル様、
私は戦神アレスの配下アクタイオス!
野蛮なる地上の人間どもを殲滅させる為に、
我らが主が『嘆きの谷』にて、1,000の兵を揃えて待機しております。
・・・貴女様の承認さえ頂けましたら、
この村に一切の被害を与えずに奴らを皆殺しにしてみせましょう・・・!」
デメテルはすぐに答えず、
ゆっくりとテーブルのグラスワインを口に含む・・・。
男も静かに彼女の返答を待っている。
やがて、彼女はゆっくりと態勢を変え、その男の顔を見下ろした。
「・・・見て分からぬか?
わらわは『客人』を歓待中なのじゃぞ?」
「ご安心を、デメテル様に手間は取らせません、
全て我らの手でケリを付けます故・・・。」
「いい加減にせよ。
わらわはこの村の大地を血で染めるつもりはない。
地上の人間たちを討ち取りたいのなら、
そのまま『嘆きの谷』で待っていればよいであろう?」
「この村で身を隠していた方が、簡単に勝負を決することができるのです。
・・・それに何よりデメテル様、
ここで主に協力されれば、後々ゼウス様の貴女に対する覚えもめでたく・・・」
その時、男の声は遮られた・・・。
何かに邪魔されたわけではない、
話をしていた筈のデメテルの形相が、
みるみる内に、氷のように冷たい表情に変わって行ったからだ・・・。
「・・・二度も同じことを言わせるつもりか、アレスの下僕よ・・・?」
「ハ・・・ヒッ、ヒェッ・・・!」
「わらわの能力を知らぬなら教えてやろうぞ・・・?
そなたの体内に紛れ込んでいる微生物や細菌を繁殖させ、
体中の穴と言う穴から、腐った体液を噴出させてみようか?
それとも出血性の病原菌を増殖させ、
眼球を内側から破裂させてみたいのか!?」
タケル達が宴席に戻ろうとする間に、
このアクタイオスとかぬかす長衣の男は、
本性の一端を露わにしたデメテルに怯え、
哀れにも腰をぬかしそうになりながら逃げ出して行った。
「ん?」
当然、タケル達には状況は分からない。
何かあったのかと、
タケルはデメテルの近くまで戻ると、単純なる好奇心で彼女に尋ねる。
「・・・どうかしたんですか? デメテルさん?」
その途端、デメテルはニッッッッコーリと、100万ドルの笑顔でタケルの腕を掴んだ。
うわっぁ!
「ホッホッホ、大したことではない、タケルよ、
それより具合はもういいのか?
まぁ、ここに座りゃあ♪」
「え、え、えっ、は、はい・・・。」
ミィナと酒田さんは、意味ありげな笑い顔をこらえながら自分の席に戻る。
・・・てめーら、覚えてろよ・・・。
するとどうだろう?
またもや、タケルがデメテルの慰み者になるかと思われた一瞬、
再びデメテルは真面目な顔を取り戻し、逆の方向を振り返る。
あ、サルペドン・・・ん?
だ、誰だ、あの女性・・・?
デメテルは名残惜しそうに、タケルに色っぽい視線で流し目を送ると、
一度タケルの腕に指を絡めながら彼の腕を外した・・・。
いちいち、この人は・・・。
今まで、
自分の席を殆ど離れなかったデメテルが、ゆっくりと立ち上がる。
彼女が迎えるは長身のひと組の男女、
サルペドンとアテナ!
「サルペドン、その人は・・・!?」
と口を開こうとしてタケルは思いとどまる・・・。
どう見ても、その女性の佇まいは、この村の一般女性のものに見えない。
ショートレイヤーの野性的な髪に、つぶらで大きな青い瞳・・・。
いくつもの胸飾りを垂らしながら、
その二つの腕にはそれぞれ装飾性豊かな槍と楯・・・!
武装してるとは言え、殺気立ってもいない。
むしろ物静かながらも高貴な顔立ちは、
女王か、お妃様のような雰囲気を醸し出している。
その女性は、デメテルの所までやってくると、
槍と楯を後ろに控えているお付きの者に預け、
そして二人の女神はゆっくりと抱き合った・・・。
戦闘向けの女神ではありませんが、
その能力はあまりにも凶悪になるというデメテルの能力。
けして彼女に逆らってはなりません・・・。