緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ 再会
新たなオリオン神群登場です。
タケル・・・タケル タケルッ!!
明るい・・・
いや、まわりに星が飛んでいる・・・。
あ、オレ・・・
「う、う~ん・・・。」
「眼ぇ、覚ましやがった!」
「おい、しっかりしろ、タケル!」
「大丈夫か!? いったいどうしたっ!?」
え、えーと、
そんなにいっぱい耳元でがなりたてなくなって・・・。
タケルはゆっくりと目を開けた・・・。
サルペドンや、ミィナ、マリアさんや大勢の仲間が、
心配そうに彼の顔を覗き込んでいる。
別に、タケルは意識こそまだはっきりとはしてないものの、
痛みや苦しみがある訳ではないので、
なんかこの状況が、なんとなく嬉しい。
まるでみんなにちやほやされてるみたいだ。
そういえば、なんで意識を失っていたんだっけ?
「えーっと、みんな・・・
あ、オレ意識失ってたのか?
ど、どれぐらい、気絶してた?
2、30分!?」
すると、
ほっと胸をなで下ろしたミィナが、自分の中指でタケルの額をデコピンする。
「あいてっ!」
「ばーか、ほんの1、2分だよ、
でもな、あんま心配させんじゃねーぞっ!
ちょっと、そのまま休んでろっ!」
まぁこいつが口が悪いのは今に始まったことじゃないが、
根が悪い奴じゃないのは知っている。
それにこの居心地の良さが、気分をそんなに悪く・・・
ん?
この柔らかさと温かさは・・・!?
タケルは我に返って、今自分がいる状況を正確に認識し始めた。
オレ・・・
今、誰かに抱きしめられている・・・?
ま さ か ?
そおっ首を振り向くと、
そこには微笑を浮かべたデメテル・・・。
「わぁっ!?」
「何をそんなにびくついておる?」
「えっ、いや、だって目を覚ましたてで、いきなりそんな・・・あれ?」
「なんじゃ? どうした?」
タケルは彼女の抱擁を拒絶することをも忘れて、ある一つの疑問を生じさせた・・・。
「あの・・・デメテルさん、
いま、オレの・・・あ、そんなわけないか、
夢を・・・夢に誰か出てきたような気がして・・・。」
どうも、タケルが変な夢を見たのは、
この「地母神・・・母なるダー」とも呼ばれたデメテルに、
抱き続けられていた影響が大きかったのかもしれない。
実際、
タケルが心に受けた傷は、とても大きいものだけれども、
滅多なことで精神に失調を及ぼす物でもない筈だ。
むしろ今、夢を見た事により、メンタル面へのダメージを発散できたのだろう。
気を失う前に何があったのか、忘れたわけではないが、
多少、心はすっきりしている・・・。
「なんじゃ? わらわに夢の中で出会ってしまったのか?
困ったものじゃな?
夢の中でわらわに、
口に出せないような恥ずかしいマネをさせたりしたのではないか?」
ええっ!?
「違います、違います、何もしてません!」
急いでカラダを起こすタケル。
うん、大丈夫だ・・・ちゃんと立てる。
デメテルは優しくタケルのカラダに手を触れながら、
彼に気遣いの言葉も向ける。
「無理をするでないぞ?
向こうに休息できるスペースを作っておいた。
しばし、カラダを休めておくがよい。
その後で、そなたに少し用もあるしな・・・。」
用?
最後の言葉が気になったが、
タケルは村の人間に付き添われて、広い天幕の中に案内された。
もう大丈夫だと思うが、せっかくだから休んでいよう。
あっちはサルペドンがいれば大丈夫だろうし・・・。
タケルを見送ると、黒衣のデメテルは再びテーブルについて、
宴席を続けるかと思いきや、
ここで彼女は視線をサルペドンに向けた。
「・・・さて、サルペドンよ。」
「はい・・・?」
「少し、わらわも今の騒ぎには驚いたが、
実はそなたにもやってもらいたい事があってな?」
「私に・・・ですか?」
「うむ、・・・まぁ、用があるのはわらわではない・・・。
あちらにわらわの寝所がある。
そこでそなたを待っている者がおる。」
「わ、私に? いったい誰が?
そ、それに、この宴席は・・・?」
「なに?
そこな美しい姫君は多少、言葉がわかるのであろう?
ならば、彼女にこの場をまかせ、
そなたはそなたの務めを果たすがよかろう。」
言語の問題は、他のスサメンバーも簡単な日常会話くらいは可能になっている。
マリアだけに通訳を負担させなくても何とかなるだろう。
マリアとサルペドンは、
少し離れた位置のまま、互いに視線を交錯させる。
断る理由は・・・
それ以上、見当たらない。
サルペドンがそれでも戸惑ったままでいると、
デメテルは彼を指で呼び寄せ、その耳元に小さな声で囁いた。
「・・・けじめぐらいつけよ。」
もちろん、それは他の人間には聞こえない・・・。
だがサルペドンは、その言葉に思うところがあったのか、
静かに・・・、
そして何か納得したかのように、
デメテルの案内の者に付き添われてその場を離れる・・・。
デメテルは、サルペドンからそれ以上、興味を無くし、
再び宴席を盛り上げようと、
ノリの良さそうなミィナや酒田に声をかけ、
楽しそうに場を支配し始めた。
だが、彼女の胸中でも、
本当は何か別の事を考えていたのかもしれない・・・。
遠い過去の思い出・・・。
サルペドンは、一度だけデメテルを振り返った。
それも、すぐに視線を前方に戻し、自分を案内する男性の姿を不審に思う。
・・・どことなく他の村の人間の格好と趣を異にする。
「キミ、
・・・少し尋ねるが、君はこの村のものか?」
男は歩いたまま、
軽く後ろを振り返ってサルペドンの問いに答える。
「いえ・・・私はここより、少し西に離れたクノッソの者です。」
その単語を聞いた瞬間、サルペドンの足が止まった。
「・・・クノッソ・・・だと?」
だが、目的地はすぐそこのようだ、
男はそのまま10メートルほど進むと、
目の前にある大きな天幕の前で一礼した。
「こちらでございます、
本来は、あなた方が黒衣のデメテル様に害為す存在であった場合、
この村を守るために参ったのですが・・・
どうやら平和裏に事は収まるご様子ですので・・・。
デメテル様は、我が主にお気遣いをいただいたのでございます。
私めはこちらに控えておりますので・・・では。」
しばらくサルペドンは動けなかった。
自分を案内した男の背後・・・
天幕の入口の脇には、美しい装飾をなされた白銀の楯と手槍・・・。
サルペドンは近づくと、
天幕の前でそれらの武具に目を奪われる・・・。
「アイギスの楯・・・。」
サルペドンはその楯に見覚えがあるというのだろうか。
彼は意を決して天幕の中に入る。
もうサルペドンは全てを理解していた。
そこに誰がいるのか、
誰が自分を待っているのか、
自分が決着をつけねばならない事は何なのか・・・。
彼を待っていたのは一人の女性・・・。
170センチを超えるだろうか、
それも顔が小さく瞳が大きいため、余計に背は高く感じる。
デメテルやアルテミスとは対照的に、
ほっそりとした筋肉質なカラダ・・・。
そして見るもの全てを平伏させるような、高貴なるオーラと美しき威厳。
サルペドンは、
自分の喉から零れる言葉を抑える事は出来なかった・・・。
「パラス アテナ・・・。」
名前を呼ばれた女性は、
瞳を潤ませて、彼の・・・
サルペドンの
本当の名前を告げる。
「とても・・・
とても長すぎる時間が過ぎ去ったわ・・・、
大地の主・・・ポセイドン・・・。」
タケルたちがサルペドンの正体を知るのはまだ先です。