緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ タケル危機一髪
デメテルは最初から、
スサの一団を歓迎することも視野に入れていたとでも言うのだろうか?
段取り良くテーブルはセッティングされ、
料理の皿が並べられてゆく。
これはこれで嬉しいが、
デュオニュソスの時の事があり、素直に喜んでもいられない。
・・・また、何らかの罠が?
サルペドンは無警戒のようだが・・・。
当然タケルはそこを聞いてみる。
「なぁ、サルペドン、
この状況、前回に似てなくねーか?
警戒しといた方が・・・。」
だがサルペドンには何らかの確信があるのか、全く気にしていないようだ。
「デメテルは地母神・・・大地の実りを約束する女神だ。
デュオニュソスとは性質が違うぞ?」
「ああ、・・・そうなの・・・?」
勿論、タケルはその言葉だけで納得はしないが、
これより・・・
そんな不安を吹き飛ばすような騒ぎが始まる・・・。
騒ぎ・・・と言っても血生臭い喧噪でない事は確かなのだが。
宴席が整うまでの間、
村の広場の片隅で、タケルを始めスサのメンバー達は、
宴席用に調理されている料理のかぐわしい匂いを嗅いでいた。
なるほど、
酒の神のデュオニュソスの村で、あれだけの美酒を味わえたのだから、
大地の女神の村では、様々な野菜や穀類がとれるのだろう。
デメテルは輿を乗り換え、自分専用の巨大で頑丈な安楽椅子にどっかと腰を落ち着けると、
タケルやサルペドン達を手招きした。
「宴席までの間、時間を潰させてもらうとするかの?
これ、そこの坊や、名前は・・・タケルだったか?」
坊や、と来たか・・・、
まぁこの際どうでもいいか。
サルペドンも「危険はない」と断言するので、タケルは剣を仲間に預け、黒衣の女神の元へ向かう。
それにしても本当にデb・・・
いや、大きい。
一体、何を喰ってりゃこんなに太るんだよ、
・・・ていうか動けよ。
タケルの内心を他所にデメテルは質問を行う。
タケルに興味を持ったようだ。
「そなたが、・・・ふむ、スサだったか?
その総代・・・
ポセイドンの地上の末裔ということになるのか?」
これは「はい」と言うしかない。
自信なさげにタケルが頷くと、
後ろでサルペドンがフォローを入れる。
「間違いない、
既に我々は多くの奇跡を見ている・・・。
彼や彼の先代・・・一族には多大なる力を持った者たちを輩出している。
現にこのタケルも、常人には振るえない力でトモロスやシルヴァヌスを撃破している。」
おいおい、そんな事まで言ったら却って反発招くんじゃ・・・?
だが、当のデメテルはそんな事は気にしていないらしい。
「これ、タケル、そなた年はいくつじゃ?」
「あ、はい、二十歳です・・・。」
「はぁたぁちぃ!?
若い・・・若いのう!!
しかし地上の人間は寿命が短いと言うが、
体はできあがっておるのじゃな?
顔つきはまだあどけない・・・少年のようじゃ・・・。」
一瞬、タケルはやな予感がした。
これは・・・本能だろうか・・・?
「これ、タケル、近う寄れぃ・・・。」
そしてその不安は増大する・・・。
言われたとおり、デメテルのすぐそばまで行くと、
デメテルは興味深げに、
その白魚のような腕を伸ばし、タケルの頬を・・・。
タケルは反射的に身を引こうとするが、黒衣の女神はそれを許さない。
「動くでない・・・!」
「え、・・・はい。」
ついにタケルの顎先が、
デメテルの白く美しく、
・・・太い指に捕まる。
精一杯好意的に見れば、赤ちゃんの指に似てなくもない。
・・・大きいけど。
「もっと近くじゃ・・・。」
え・・・、こ、これ以上?
タケルの足が小さく歩を進めると、
デメテルの肘は曲がり、
どんどん彼女の顔がタケルの近くに・・・!
思いっきり、顔を覗きこまれるタケル。
互いの顔はまさしく目と鼻の先だ。
ちょっとその気になるか、どちらかがつんのめりさえしたら、もう互いの唇さえ触れあうのではないか?
「あ・・・あの!?」
しかも当のデメテルの眼差しは、
トロンと潤いを帯びているようにも見える。
タケルは美人は勿論好きだが、デブ専でもないし熟女好みでもない。
ど、ど、ど、どうしよう・・・!
もう、彼女の吐息を感じられる距離まで近づくと、いきなりデメテルはクックック、と笑い始めたのだ。
「ういのう?
そなた、女には慣れておらぬのか?」
えっ?
いえ、そんなわけじゃ、た、ただ・・・。
ようやく顎を放してもらい、辺りを見回すと・・・。
そういえば、
デメテルのお付きの男性陣て、みなイケ面か筋肉質の精悍な顔立ち・・・。
さては、このデメテル・・・
逆ハーレム作ってやがる!?
顔は解放されたとはいえ、まだタケルの腕は掴まれたまま・・・。
確かにタケルが思いっきり拒絶の意志を見せれば、男性の力で振り払う事は容易なのだが、
何分にもデュオニュソスの件の引け目が、タケルにその決断を許さない。
そのうちにタケルもヤバくなってきた・・・。
デメテルから放たれている「女」の匂いが、
タケルの「男」を刺激し始めてきたのである。
それもデメテルは見越したかのように更なる誘惑を・・・。
「ほっほっほ、遠慮することはない、
他の女どもと比べてみるがよい?
このデメテル、肌の白さと弾力は他では味わえぬぞ?」
そう言われてみると、
さっきっからこすれあってる腕の皮膚のきめ細かさはどうだ?
事前情報では結構、いい歳になってる筈だが、
外見上は30代真ん中ぐらいにしか見えない。
思わずタケルはその腕の柔らかさに負けて、自分から指を動かしてしまった。
ニヤリ。
デメテルが笑う。
「どうじゃ? 想像してしまったか?
わらわの胸や下腹部の弾力はこのようなものではないぞ?
自分の生殖器をこすりつけたくなったのではあるまいか?」
ぶっ!
そ・・・それは、な、なんちゅう・・・
サルペドン助けてぇっ!!
タケルが危機を感じたのは、誘惑に負けそうな自分がいる事に気づいたからだ。
普段ならこんな誘惑に負けるはずないのだが、
一度この女神の世界に足を引きずりこまれたら、二度と健全な世界に帰ってこれなさそうな気がする!
果たしてタケルの貞操は守られるのか!?
次回、人身御供?





