第7話
ここはジェット旅客機の中・・・。
マーゴ、レッスル、ライラック、ガラハッドの四人は、
急遽日本へ向かっていた。
ケイはお留守番である。
もっともらしい理由としては、マーゴたちの報告を本部で受け、
その内容によっては本部に何らかの追加対応をさせるために、
現状を把握しなおかつそれなりの権限を持っている者が必要なために残ったのだ。
これ以上訳の分からない事案に関わりたくないからでは決してない、
とケイは言っているそうだ。
「ライラックゥ~ありがとうねぇ、
あなたが本部を説得してくれたおかげで助かったわ~。」
「いや、マーゴに礼を言ってもらう必要はないよ、
義純の頼みもあったしな。」
「そういえばあなた達、
訓練学校時代からチームを組んでたんだっけ?」
「そう、オレと義純・・・クローバーの三人。
あいつに会うのは久しぶりだけどね。」
エリートと言えども人の子だ、
任務とはいえ旧友に会うのは嬉しいようだ。
「あ~、そうだ、
あたしもヒウラにご馳走してもらう約束してたんだけどぉ、
今回は無理よねぇ?」
ライラックは驚いて振り向く。
「そ、そんな約束を!?」
「妬いちゃう?」
「な、何を馬鹿なことを言ってるの!
ほ・・・ホラ! ガラハッド!
だからテメーは笑ってんじゃねー!!」
「今度、ガラハッドも一緒にご飯食べようねー?」
「えっ? お嬢様、
わたしのお相手もしてくれるんですか?」
若いだけあってマーゴの恐ろしさを知らない。
いや、
・・・それは恐いもの見たさなのだろうか?
「マーゴ!
騎士団内では慎んでく・れ・よ!
・・・ガラハッド、お前も彼女をのせないでくれ。」
「ご飯食べるくらいいーじゃない!?
焼きもちやきぃ!!」
「ぅくっ・・・!」
声にならないライラック、
本当に苦労性だ・・・、哀れなぐらい。
「ハッハッハ・・・。」
老人もようやく彼らの関係を把握し、
慣れもでてきたのであろう、
思わず笑い声を上げていた・・・。
そして「ウェールズの魔女」はその隙を見逃さない・・・。
「ねぇ? おじ様?」
「んー、何じゃな?」
「どうしておじ様はその人形にこだわるの?
わたし達のターゲットにはあれほど無関心だったのに・・・。」
老人はしばらく考え込んでいた・・・、
マーゴも、
ライラックもガラハッドも老人の表情を覗き込む。
「・・・お前たちも、
昔の自分の軽挙な振る舞いを・・・
反省したり・・・悔やんだりすことはあるだろう?
わしも同じじゃ・・・、
長く生きてるだけあって、
そんな物は嫌と言うほどあるわい・・・。
ほとんど・・・
多くはわしより先にみんな死んでしまうからの、
何もできずに終わるのがほとんどじゃ。
それでな、
あの人形を作ったのはな・・・
わしなんじゃ・・・。」
「ええっ!?」
レッスルがいきなり爆弾発言を投下する。
マーゴが最も驚愕した。
ライラックもガラハッドも、
人形については、
義純の電話の後、マーゴから概略を聞かされているのだが、
半信半疑と言うか、今ひとつ事態を飲み込めていなかったのだ。
今回、
本部に彼らの日本行きを承諾させたのはライラックの功労だが、
それはひとえに義純への友情からだ。
その意味でも、
今回の人選は、レッスルや伊藤にとっても幸運だったのだ。
マーゴの驚きをよそに老人は話を続ける。
「・・・とおってもふるーい大昔じゃ。
わしは別の名前を名乗っていた・・・。
その時のわしの父は神に仕える男でな。
神父とか神官といった身分じゃあない、
・・・神の使徒・・・
と思ってもらえればそれで十分じゃ・・・。
神の意思を地上に体現するのが父の使命じゃった。
ところが・・・、
父は一人の少女と恋に落ちた・・・、
その少女も神の使徒であったのに・・・。
二人を止めれる者はいなかった。
勿論わしも、我らの神でさえも・・・。
二人は神の使徒である使命を拒否し、
互いへの愛を誓った。
・・・やがて、
二人は他の人間と同じように死んでいった。
だが、我らの神はそれを許さなかった。
我らが神は、
地上のものの生死には干渉しない、
例え自らの使徒であろうとも・・・。
だが、死んでしまえば話は別じゃ。
神は彼らに残酷な刑罰を与えた・・・。
『夜の森』と呼ばれる閉ざされた空間に幽閉し、
時果てるまで出られないようにしてしまったのじゃ。」
老人は話を続ける。
「しかもそれだけではない・・・。
彼女は・・・
お嬢ちゃん、あんたと比べても遜色のない美人じゃった。
誰もが見とれる美しい銀色の髪・・・、
その澄んだ純粋なグレーの瞳・・・、
それなのに彼女には、
永久に老いさらばえていくという刑が与えられた・・・。
それも、
森に迷い込んだ女子供の命を吸った時だけ若返られるという、
むごい刑罰じゃ・・・。
父のほうは、
まだ罪が軽かったのかもしれん・・・、
目玉と思考能力を奪われた。
ある意味・・・二人にとって、
そこだけが救いなのかもしれんな。
彼女も・・・
醜い姿を父に晒さなくて済む・・・。
それが我らが神の、
慈悲の為せる業だったのかは・・・
わしにも分らんがの。」
マーゴもライラック達も、
黙って聞いているしかできなかった・・・。
老人が多くの知識を胸に秘めているという事は、
もちろん承知していたが、
ここまで衝撃的な話が飛び出てくるとは思わなかったから・・・。
「・・・わしにしてみれば、
複雑な気持ちじゃったよ。
父をそんな目に追い込んだ張本人・・・、
彼女の名はフラウ・ガウデン・・・、
じゃが、
わしから見ても彼女は魅力的じゃったし、
いい子じゃった。
わしには彼女を責めることもできない・・・。
そこでわしはせめてもの慰めにと思って、
彼女の似姿の人形を作り上げた。
彼女の遺体の毛髪を使い、
石膏には彼女と父の遺骨を混ぜ合わせて・・・。
・・・薄い望みもそこに注ぎ込んだ。
ある秘術を使えば、
その人形のカラダに魂を移し変えることができるように・・・。
じゃが、
・・・それは失敗した。
既に二人は、
神から呪われた肉体をあてがわれており、
・・・まぁ、それも彼女達の似姿なのじゃが・・・、
どんなに秘術を尽くそうとも、
呪われた彼女のカラダから、
魂を抽出することはできなかったのじゃ・・・。
・・・そして、また、長い年月が過ぎ去り・・・
わしの半端な同情心で起こした行動は、
さらなる悲劇を生んでしまったのじゃ・・・。」
フラウ・ガウデンとエックハルトには更なる秘密があります。
でもまぁ、ストーリー的には大事でもないので、
そのうちレッスルお爺さんがポソっとしゃべってくれます。