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緒沢タケル編11 黒衣のデメテルと純潔のアテナ ぎこちないスサ

新章です。

サブタイトルでお分りと思いますが、

デメテルだけではありませんよ!


薄い霧が立ち込める広大なる空間・・・、

起伏の激しい岩場や砂地を乗り越えながら、

数十人の男たちが旅をしている。

女性も2名ほど紛れているようだ。

途中、

彼らは高低差の激しい滝や地下水流を見つける。


しばらくすると、

彼らは湖にたどり着き休息を取り始めた。

何人かは、休みもせずに湖で食料の調達を行う。

指先が凍りそうなこの冷たい湖の中に、食料となる魚がどれだけいるか、

易々と判断はつかないが、意外と掘り出し物がでてくるかもしれない。

まぁ、見た事もないような生き物には違いあるまいが・・・。


1時間もすると、

インディアン・グログロンガが目玉のない魚を釣り上げた。

鱗らしいものは存在せず、巨大な顎には無数の牙が並んでいる。

 「・・・食えると思うか?」


食料集めの作業に協力していたクリシュナは、頭を抱え込んでしまった。 

 「こ、これは・・・、

 しかし、デュオニュソスの村にいた時は、

 毒のある魚はあまり聞きませんでしたよね?

 単純にうまいか、まずいかで・・・。

 とりあえず、一匹調理に回しますか?」

 「一応、冷やしたまま運んで次の村で聞いてみる。

 もう少し、チャレンジしてみよう。」

 「釣りあげた時、指先、食いちぎられないようにしてくださいね?

 一噛みで五本の指がなくなりそうだ・・・。」


そう、彼らスサの一団は、デュオニュソスの村を離れ、

次なる実りの村、デメテルのテメノスへと足を運んでいた。

先の居留地では、

スサのメンバーの中に、新たなる犠牲者は誰もいなかった。

次のデメテルの村も、「基本的」には争いを好まない女神の土地だと言うので、

それほど、不安を抱えての再出発と言うわけではない筈である。


・・・しかし、

彼ら一団の空気は、これまでになく重い物が垂れこめている・・・。

 

はっきりっ言ってしまえば、

誰もが、デュオニュソスの村での出来事を忘れようとやっきになっていた。

あの後、

デュオニュソスが物言わぬ死体となった後、

そこにいる全ての人間が、

まるで夢から醒めたかのように、元の自分を取り戻したのである。

元に戻ったと言っても、それまでの自分の言動を忘れているわけではない。


「なぜ、あんなにうかれまくっていたのか?」

「どうして、あれほど、自分を見失っていたのだろう?」


お酒のせい?

周りの勢いのせい?

それとも、やはりデュオニュソスが能力を使用していたのか?

それら全ての原因がはっきりしない。

タケルやマリアに酷い事を言ってしまった。

勿論、正気を取り戻した今となっては、

タケルに逆らったり、非難したりするつもりなど毛頭ない。

やはり、多大なる後ろめたさと罪悪感だけが、

心の隅から離れないでいたのである。

 

今も、自分達の口数や笑いが、

全くと言っていいほど少なくなっているのに、彼ら自身気づいていた。

何か仕事を見つけては、

白々しいほどに、無駄な会話を始める者もいる。

無口な筈のグログロンガでさえこうだ。


スサの中でも指導的立場にあるサルペドンすら、

先のデュオニュソスの態度に、最後まで釈然としないものを覚えつつ、

行程中、ほとんどその事について心を捉われていたのである。

 (いったい、あの者は何を企んでいたのだ・・・?

 最後はまるで、

 タケルに殺される事を望んでいたかのような誘導だった・・・。

 何のために!?)


勿論、タケルの凶行の後も、

マリアやタケル本人・・・ひいては村人たちまで呼んで、

デュオニュソスの目的について、解き明かそうと試みてはいたのだが、

肝心の村人ですらデュオニュソスの本当の目的は誰も知らない様子であった。


結局、簡単にデュオニュソスの亡骸を埋葬し、

村人たちに深い謝罪、哀悼、

そして長い間お世話になったことへのお礼を告げて、スサの一団は村を離れる事になったのである。

 

そして、

スサ内に置いて、最も重い精神的ダメージを受けたのはタケルである。

ここに来るまで、彼は自分から口を開くことは決してない。

正気に戻った酒田やミィナの謝罪を拒むほど、タケルは狭量ではないものの、

彼が一番ショックを受けたのは、

デュオニュソスの最後の言葉であろう。


 『お前の負けだ・・・』


そう、まるでデュオニュソスはその事を伝えるが為に、

わざわざ、あんな手の込んだ芝居を打っていたとしか考えられない。

理由や原因なんか勿論知る由もないが。


これまで、自分はどんな苦境に陥ろうとも、あらゆる敵に勝ってきた・・・。

騎士団最強の男、湖の騎士ランスロットには、

一度、苦杯をなめさせられたが、

その後の最終決戦で、見事雪辱は晴らす事も出来た。

 

・・・だが、

デュオニュソスはもうこの世にいない・・・。

肉体を使った戦いではない・・・、

デュオニュソスはタケルを指導者として戦いを挑んだ?

そして、タケル本人が最後に取った行動は、

自らの負けを認めてしまうような、

指導者としては最低の振る舞いだ・・・。

これが試合か何かだったら、やり直しやリベンジの機会もあるかもしれない。

だが、もう二度目はない・・・。

タケルは敗北者のままである・・・永久に・・・?


そして彼が最も落ち込んでいる理由は、

やはり自らの中の幼稚な精神性を克服できなかったという、

彼の幼少期からのトラウマとでも言うべきコンプレックスに起因する。

デュオニュソスは全て見抜いていた・・・。

全てを知っていた・・・。

だからこそ、ここまでタケルを完膚無き状態にまで落ち込ませていたのである。

 


もっとも、タケルを弁護する材料がないわけでもない。

最後、タケルがキレた瞬間・・・、

誰にも認識できないことではあるが、

あの時、デュオニュソスの本能解放能力をタケルに使ったのではないかと思われる節がある。

何故、そんな事をと言われれば、

これも想像の域を超える物は、何一つ出てこないのだが、

少なくとも前後の辻褄は合う。


単純に、

デュオニュソスはハナから自分が狙われる事など考えなかったのか、

という図式も成り立たないではないのだが、

そこに至るまで、あれ程の知謀を誇っていた彼にそんな単純なミスも考えられない。


確かにこの先、

自分達を歓待したデュオニュソスを殺してしまったことで、

スサの評判が著しく低下することは十分考えられ、

憂慮すべき事態とはなっているのだが、

やはり、だからと言ってデュオニュソス本人にメリットがまるでない。

果たして、そこまでして彼が描いた未来は如何なるものだったのか、

タケルをはじめ、スサの誰もがこれ以上、考える事など不可能だったのだ。



さて、

となると、次に考えねばならないのは、

どうやって次の村を越えねばならないか・・・。

大地の恵みの女神・・・黒衣のデメテル治める村が、

次に待ち構えているという情報は、既にデュオニュソスの村で聞いている。

デメテルは穀物の女神であり、樹木の神たるデュオニュソスとは、

いろんな意味で似た属性を備えている女神だ。

恐らく、この地底世界にあって、

地質や気候の面でも農産物が成長しやすい一帯になっているのかもしれない。

そしてその上で、サルペドンの憂慮はここにあった。


 女神デメテルは、

 デュオニュソスが我らに殺されたと知ったら、

 はたしてどんな態度を見せるのだろう・・・?


サルペドン

「まさか次のデメテルと我らを対立させるつもりで?」


デュオニュソス(故)

「いえいえ、まさかまさか、どうかもうお気にならさらずに〜。」


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