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緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス 対決

言い忘れましたが、ミィナにちょっかい出そうとしていた村の青年、ウェテレウスも、

ミケーネ文書に名前の載っている人です。

職業は忘れました。



しばらくして、タケルの部下たちの中で、

今だ理性を保ちながら、どっちつかずの態度を示していた者から情報が入った。

昼過ぎにアンテステリア祭参加者の会合があるという。

デュオニュソスの進行の元に、

村人たちは勿論、参加を希望しているスサの全員がそこに集まると言うのだ。

タケル達は、決戦にも赴く心情で、そこに闖入することを決断した。


・・・マリアも詳しくは説明しなかったが、彼らを説得するに当たり、

使えるネタがありそうと言っている。

ならば存分に期待しよう。

この件については、マリアさんの方が、起死回生の鍵を握っていると言えそうだ。

・・・第一、タケルには彼らを説得できるだけの自信がなかった。

やれるとしたら、

天叢雲剣を発現するなり、その自らの暴力に頼ることでしか、

彼らをねじ伏せる手段を持っていなかったからだ・・・。

 できるなら・・・そんな真似はしたくない・・・。

 それは・・・最後の手段だ・・・。

 


既に疑似太陽は輝きを最大にして、

その真下で熱狂する人々の額や背中には汗がにじみ出すくらいである。

祭り自体までまだ日はある筈だが、

その準備段階と聞いただけで、人々はそわそわして、心を湧きあがらせているようなのだ。

それは、

ミィナや酒田さん、グログロンガやクリシュナまでも同様だ・・・。

村の広場に組み上げられた壇上に、杖を持ったデュオニュソスが熱弁を振るっている。

彼に向かって腕を振り上げ、

歓声を上げる者たちの目には、一種のトランス状態のような興奮の色が宿っている。

もはや一つの宗教集団だ。


意を決して、

タケル達がその集団の場に足を踏み入れた時、

デュオニュソスの動きが止まり、その黒い視線がタケル達に注がれた。

そして・・・その場に全ての人々が、

まるで、侵入者を拒絶するかのような視線をタケル達に向けたのである・・・。

 

 「タケル・・・。」

サルペドンが小声でタケルにつぶやく・・・。

 「あ? なんだ?」

 「そう言えば、思い出したよ・・・。

 古代神話のエピソードなんだが、

 デュオニュソス崇拝が広まるのを恐れた人間の王が、

 デュオニュソスの捕縛を試みた。

 だが、逆にデュオニュソスに傾倒してしまった自らの母親に捕まって、

 その王はカラダを引き裂かれるという結末なんだが・・・。」

 「・・・なんで今頃思い出すんだよ・・・!」

 「まぁ、まだ彼らに理性は残っている筈だ。

 祭りの前なら大丈夫だと思うぞ?」

 「だと、いいがな・・・。」


タケル達が足を止めた時、

そこでようやく、彼らを見据えていたデュオニュソスは、

真面目なのかふざけているのか、わからない口調で大声をあげた。

 「・・・ほぉぉぉ、これはこれは、お揃いでようこそぉぉぉっ!

 ですが・・・以前も言った筈ですなぁぁぁ?

 あなたがたにはアンテステリア祭の秘儀には参加していただきたくないとぉ?

 もし、私に御用がありますならば、

 この集会が終わるまでお待ちいただきたいのですがねぇぇ?」

 

タケルはその高圧的な言葉に一瞬飲まれるが、ここはサルペドンが立ち向かう。

 「・・・デュオニュソス殿よ!

 あなたの村やその祭りに関与するつもりは全くない!

 スサの指導者として、仲間を引き上げさせに来ただけだ。

 よもや、あなたがその邪魔をする道理はありませんな!?」


やはりこういう交渉事は、年の功とも言えるサルペドンに任せた方が、うまくいくか・・・。

だが、デュオニュソスもさる者・・・、

大人しくサルペドンの言葉に同意するのだろうか?

 「フム!

 確かにサルペドン殿の仰るとおり・・・、

 ですが、肝心のあなた方の部下は、

 タケルさんやサルペドン殿を・・・指導者とみなしているのですかぁ!?」


ここに来て初めてタケルにも、デュオニュソスの態度に大いなる違和感・・・、

まるで敵意にも似た・・・

今までとは手のひらを返したような態度の変化を思い知る事になったのだ。

 

そしてあろう事か、そのスサの仲間たちは、

デュオニュソスの言葉を証明するかの如く、タケル達に叛意の目を向ける。

サルペドンがデュオニュソスを制している間、

今度こそ自分の番とばかりに、タケルは勇気を奮い起した・・・!

 「みんな・・・!

 オレ達の目的を忘れるな・・・!

 さぁ、出発の準備を・・・!」


だが・・・やはり仲間達の反応がない。

それどころか、しばしの静寂の後、湧き上がったのは、

その帳を破るかのような、他のメンバーからの反抗の声・・・。


 「オレ達は行かない・・・!」

 「なぜ先を急ぐ必要がある?」

 「そうだそうだ!

 戦いにはタケル達だけで行け!」


あっという間にタケル達を排除しようと言う声が湧き始めた!

今や、この場にいるスサの兵たちなど、その数はたかが知れているので、

誰が何を言ってるのかは、全てタケルの目に収まっている・・・。

 酒田さん、ミィナ・・・グログロンガ・・・クリシュナまで・・・!

 

壇上ではデュオニュソスが、

興味津々とその光景を見下ろしている。

まるで・・・おもちゃの動きを眺める子供のような表情で・・・。

そして、益々タケル達を排除しようと言う声はヒートアップしていく・・・。

 「「「かーえーれ! かーえーれ!! かーえーれ!!」」」


誰が指揮を執っているわけでもないのに、

群集心理が働くのか、その声は地元の青年達の声も呑み込み、どんどん膨らんでいく!

まるで敵意と大声の津波だ!


普通の神経の者ならとうにくじけてしまうだろう・・・、

だが、タケルに与えられた義務感・責任感・・・そして彼の意地が、

それに打ちのめされる事に必死に抗う・・・。


もっとも・・・

実際に何もできないのであれば、それは無力であるに等しい。

ここまで、幾つもの修羅場をくぐりぬけた筈のタケルが・・・、

あらゆる困難を打破して来た筈のタケルが・・・こんな所で膝をつくことになるなんて・・・。


 こんな所で・・・

 諦めて たまるかぁぁッ・・・!


そしてその時・・・タケルのカラダの奥から・・・

制御しようもない破壊衝動が・・・。

 

いよいよ本性を見せ始めたデュオニュソスというところでしょうか。


ですが・・・デュオニュソス本人はそれを否定するでしょうね。

「本性を露わにすべき人物とは、私の事ではありませんよ・・・!」と。


なお、

今回紹介した古代神話のエピソードは、

「バッカスの信女たち」或いは「バッカイ」という物語に述べられています。

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