緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス 説得
その後、
タケル、サルペドン、マリア、そして残った有志で再度対応策を協議した。
まず、真っ先に疑わねばならなかったのは、
デュオニュソスが最初からスサを騙す目的で、
自分達を分裂させるか、足止めをさせるために起こした行動なのかどうか・・・、
それがサルペドンの口から述べられた。
サルペドン自身、
その考えにはっきりとした根拠がある訳でもない。
あくまでも可能性の一つを潰していく仮定の中から選ばれた疑問点だ。
タケルにはそれすら考えられない、
いや、考えたくないと言った方がいいかもしれない。
少し考えこんでいると、
先にマリアが興味深い発言をする。
「みんな・・・、
これは私の錯覚かもしれませんけど、
やはりデュオニュソスに、
私たちに対する敵意めいたものは感じません。
良くも悪くも我々は、彼の享楽の対象・・・
そんな雰囲気です。」
すると誰よりも早くサルペドンが反応する。
「やはりそうか・・・。
少なくともその点については安心していいのかな・・・。」
途端にタケルがムキなる。
「やっぱりって・・・、
自分で言いだしておいてそれかよ?」
「そう言うな。
例えばだが、デュオニュソス本人の意思ではなく、
他のオリオン神群が彼の能力を利用している事もありえるだろう?
その場合でも、
我々はまんまと敵の罠に陥ってる事になるんだぞ?
それに、私自身、その可能性は薄いとは思っているんだ。
我々に致命的なダメージを与えるチャンスはいくらでもあった。
それをせずに、ここまで長い時間をかけて弱体化させるなど、
通常のオリオン神群からは考えられない戦術だ。」
「じゃあ、純粋にデュオニュソスは、オレ達に好意を示した結果、
オレ達はこんな目に遭っている、と思っていいんだな?
ある意味、余計始末が悪いぞ・・・。」
その通りだ・・・。
デュオニュソスが敵なら、簡単に倒す事ができそうなのに、
なまじっか敵意がないので攻撃しようもないのだ。
しかも彼は、スサが自分達の意志で出ていくと言っても引き留めようともしない。
となると、やはり自分達でスサ内部をどうにかせねばならないと言うわけだ。
だが、
そこまでの判断をクリアーにすることに対しては、サルペドンの反応が薄い・・・。
「それについては・・・。」
「えっ?」
「気になるんだ・・・。
デュオニュソスの言葉の節々が・・・。
全てが彼の計画どおりに事が運んでいるように思えてならない・・・。
聖人君子のような彼の言葉が、デュオニュソスのイメージからかけ離れている。
仮に・・・
ここまでが彼の予測の範囲内だとしたら・・・、
この先、彼は何を目的としているのか・・・。」
そこで話は詰まってしまう。
その事はサルペドン自身、口に出した瞬間自ら理解したので、
申し訳なさそうに話題を変えた。
「いや、済まない。
それで、タケル・・・、どうだ?
まず、ミィナを説得してみないか?
我らと行動を共にしてまだ日が浅い彼女だが、
既にスサのムードメイカー的な存在となっている。
彼女の意志を変えれば、元の目的を思い出す者も多いと思うのだが・・・。」
「そ、それをオレにやれって?」
「お前が一番、話が合わせやすいだろう。
それに年齢だけでなく、
この戦いに巻き込まれた、という思いは、お前達が一番強いはずだ。」
そうだ・・・、
家族や友人を奪われた怒りが消えるとは思えない・・・。
絶対に・・・。
タケルはその思いを・・・
あの時の自分の感情を思い起こした・・・。
「わかった、
やれるだけやってみるよ・・・。」
だが、サルペドンはさらにタケルに追い込みをかける。
「もう一つ。」
「ん?」
「万が一、ミィナを説得できなかったとき・・・。」
「ああ・・・。」
「我らスサは、このデュオニュソスの村に、
最低でも2週間は足止めを食らうのは間違いない。
そして、
アンテステリア祭が終わった後、
元のスサに戻っている可能性はないと言っていいだろう。
そうなったら、オリオン神群と戦うどころではない。
この地底世界に来る前に、
戦える力を持つのはタケル、お前だけしかいないとは言ったが、
それは、他のメンバーがお前を支えているという状況が成立しての話だ。
いくらオレでもお前一人きりで戦えるとも思っていないし、
お前にそんな負担をかけたいとは決して思わない。」
タケルに熱い思いがこみ上げる。
普段、冷たく高圧的なサルペドンが、
自分の事を真剣に考え抜いてくれているなんて、思いもよらなかったし、
それを口に出すなんて事も考えられなかったからだ。
今の心が脆くなっているタケルには過ぎた言葉だ・・・。
だが、
その先の厳しい現実は、更にタケルを憂鬱にさせるのだ。
「タケルよ、もし、そうなったら
我々の行動を考え直さねばならない。
戦いを続けるのか、
地上に逃げ帰るのか・・・。
そしてもし、戦いを続けるのなら・・・、
もっとつらい選択を選ばなければならないのかどうか・・・。」
タケル自身、
心の底で、一瞬思い浮かべた忌まわしい選択・・・。
みんなの心をまとめるために・・・。
いや、そんな事できる訳がない・・・!
軍紀を糺すために、
誰かを一人、見せしめにしなければならないなどと・・・言う事は。
物語中ではっきり表現してなかったこと。
サルペドンの心中。
「デュオニュソスって・・・こんなキャラだったのか?」
マリア
「ですけど悪意なんか全くないですし。」
タケル
「思慮深いって言うのかな、賢人ってああいう人の事を言うんだろうぜ。」
サルペドン
「デュオニュソスが?? 思慮深い?? 賢人??」
しかし一方で、タケルの意見に同意できる部分もあるだけに、
その為にはっきりした意見が言えなくなっていたのです。
次回は、
タケルとミィナ・・・。
二人が初めてガチでぶつかります。