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緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス タケルの本性


聞くまでもない、

これ以上、グズグズしてはいられない。

勿論タケルは「その日までには・・・」と言おうとすると、

ここでまたスサのメンバーから抗議の声が上がる。

グログロンガが立ちあがった。

 「タケル、

 実は村人からこの祭りに参加するよう、誘われている、

 あとたった2週間、

 それまで何の問題もないだろう?

 考えても見てくれ、

 それだけ大きい規模の祭りなら、他の神々だってくるかもしれない、

 話し合ういい機会にもなる。」


その意見に一瞬、心を捉われるタケルだが、サルペドンが現実に引き戻す。

 「そんな話はあくまでも可能性だ、

 そして同じ可能性で、何人もの神々に同時に襲われる心配もある。」


 よかった、サルペドンがいて・・・。

 危うく丸めこまれるところだ。

 

勿論、そこからの話はデュオニュソスには関係ないので、

すぐに彼は立ち去る支度をする。

 「それではできるだけ、早いうちに回答を頂ければ・・・、

 ああ、そうそう、一つ言い忘れました、

 申し訳ありませんが・・・、

 タケルさん、それにサルペドン殿、

 あなた方はお祭りへの参加は問題ないですが、

 夜通し行われる秘儀の方への参加はご遠慮いただきたく思います・・・。」


 なんだって・・・?

 勿論、こちらは参加しないつもりではいたが、何故?

 「ど、どういうことですかっ? デュオニュソスさん!?」


彼は本当に残念そうな表情は見せてはいるが・・・。

 「本当に心苦しく思います・・・。

 私個人としては、

 タケルさん達には参加してほしかったのですが、

 この祭儀を取り仕切る身としては、あなた方の存在は危険すぎまして・・・。」

 

 「いったい何故っ!? 意味が分かりません!

 せめて理由を・・・!」


しばらくデュオニュソスは無言でタケルを見返していたが、

やがて、その黒い瞳を瞬かせると、静かにその訳を告げた・・・。

 「理由はいくつかあります・・・。

 まず、最大の理由は、

 その秘儀の性質に、あなた方の精神エネルギーは強大すぎる、

 と言えば分りますか?」

 「えっ!?

 それってこないだゼウスの能力の話で言っていたことですかっ!?」

 「そうです、

 タケルさん、あなたのパワーはゼウスほどに及ばないにしても、

 そのエネルギーはこの村にとって・・・、

 いえ、大勢の人間が集まる当日の祭儀には危険すぎるのです。

 それに・・・もう一つ。」

 「もう一つ?」

 「ここ数日、あなた方の酔い方は観察してきました。

 タケルさん、サルペドン殿、それにマリアさんもですが、

 あなた方は、アルコールに飲まれぬよう自らセーブしてきましたな?」

 

 「そ、それが何か問題でも?」

 「タケルさん、アンテステリア祭と言うのはですね、

 その逆の事をするのですよ・・・。

 別に酒の力を借りるまでもない。

 その時は私の真の力を使います。

 そうなると何が起きるか?

 あなた方の隠された本心・・・。

 今まで無理やり抑え込んできたストレス、恨み、憎しみ・・・欲望・・・

 全てが無差別に・・・そして強制的に解放されます。

 ここの村人が、なぜ常日頃からアルコールを常飲しているのか?

 なぜ、旅人をもてなすのか?

 それはそういう隠されたネガティブな濁った心を排出するため・・・、

 アンテステリア祭に、鬱積した情念を抱え込んだまま参加すると、

 その意識は暴走し、自分の周りの人々に危害を加え始めかねない・・・。

 だからこそ、我々はアルコールの力を借りて、

 その人間の邪な感情をウオッシュしてきたのですよ。

 ・・・しかし、あなた方は酒を飲んでも、その心の奥を解放しようとはしなかった・・・。」

 

さらにデュオニュソスは首を振る。

 「いや、特にタケルさんの場合はもっと危険だ・・・。

 あなたの心の奥底にはどす黒いモノが渦を巻いている・・・。

 アンテステリア祭で、あなたの秘めた破壊願望を爆発させられたら、

 恐らく大勢の人間の夥しい血が流れるでしょう。」


・・・しばらくタケルは呆気に取られていて、反論することさえ忘れていた・・・。

これまで友好的に接してきたはずの・・・

尊敬の念さえ抱いていたデュオニュソスに、いきなりそこまで言い切られて・・・。


ようやく・・・

握りこぶしを振り上げながらタケルは反論する。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!

 オレがいつそんな暴力的な振舞いをした!?

 破壊願望!?

 そんなものは持ってない!

 デュオニュソスさん、誤解だ!

 あなたは何を見てそんな事っ!?」

 

だが、デュオニュソスの言葉は、冷たい現実をタケルに押しつける・・・。

彼は、右手をあげてタケルの腰元を指さした。

 「それ・・・天叢雲剣と仰るんでしたっけ・・・?

 先ほど、その剣が小さく放電していたのにあなたは気づきましたか?」


思わずタケルは、自分の剣に目を落とす。

今は何ともなってないが・・・

先ほどと言えば・・・スサの中で激昂していた時・・・。

 「私はあなた方スサの内部の問題に、口をはさむつもりは一切ありません。

 ですが、タケルさん、

 あなたは容易く怒りに我を忘れ、

 破壊衝動を垂れ流した・・・。

 アンテステリア祭で、そんなマネをされたら、どうなるか・・・。

 あなたが溜めこんでいるストレスや衝動を、

 何の理性のタガも外して解放される訳にはいかない、

 ・・・それが祭祀を司るデュオニュソスの判断なのです・・・。」

 

その瞬間、

スサのメンバー達が興奮してデュオニュソスに狂喜の歓声を浴びせ始めた・・・。

自分達の思いをデュオニュソスが代弁でもしたかのように、

まるで、自分達の主がデュオニュソスであるかのように・・・。

もう、

誰もタケルを見ていない。

拍手と賞賛の嵐がデュオニュソスを包む・・・。


タケルには何もできない、

何も言い返す事が出来なかった・・・。

それもそのはずだ・・・。

ここの所の心の荒み方は、自分が誰よりも知っていた・・・。

気付きたくなかっただけだ、

だが、改めてその事をデュオニュソスに指摘させられて、

完全にタケルはその意気を喪失させてしまったのだ・・・。

彼は、膝を震わせ、

もう・・・立ち続ける事すらできなくなり、

気がつくと、

後ろの椅子に、大きく音をたてて無造作に腰を落としてしまう。

立ちあがる事も出来ない・・・

顔も起こす事も出来ない・・・、

他人と目を合わせる事すら・・・もう・・・。

 



次回、そこで初めてデュオニュソスの能力の正体を。

ただし、まだ彼の目的はわからないままです。

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