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緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス 異変

 

 「・・・おい、そこ、手が休んでるぞ・・・。」


気持ちの良い夜を過ごすのとは裏腹に、

昼間はタケルの機嫌が良くない事がしばしばあった。

原因は、地元の村の青年が仕事をさぼったり、途中で寝転んだりしてるせいもあるのだが、

彼らに関してはタケルも文句をつけられない。

だが、彼らに倣って、スサのメンバーたちもが仕事の手を抜くのなら話は別だ。

自分としては一気に仕事を片付けて、

この村から出るべきだと思っているのだが、

末端のメンバーは、そのことを考えていないようなそぶりすらある。

いったい何しに、こんな地下世界に降りてきたというのか?


彼らは、タケルの言葉に対し、不満ありげな態度を隠そうともしない。

・・・ここは強硬に・・・!

と、スサのトップとしての権威をもって強く出ようとすると、

タイミングを見計らったかのように、初老の現場監督が「休憩にしましょ」と酒を配り始めるのだ。

しかも休憩が終わる時間にも関わらず、戻ってこない奴らもいる。

酒田のおっさんは、そこら辺の岩場の上で、時間が過ぎても寝過ごしていた。

その事を咎めると、

思いっきり不機嫌そうに周りを見渡し、

「空気を読めよ、タケル・・・!」と反論してくる始末だ。

何か、どんどんスサがヤバい方向に転がり落ちて来ている気がする。

 


しかもそれは狩猟班も一緒だ。

テントにタケル達が帰ってきた時、

ミィナやグログロンガは、

村の若い男女と、楽しそうにはしゃぎまくっていたのだ。

しかもまだ夕飯前なのに、グデグデに酔っぱらってる・・・。

 「おい、お前ら・・・

 狩りの方はどうしたんだ・・・!」


楽しみを邪魔されたミィナは、醒めた目つきでタケルをバカにする。

 「ああ~?

 ちゃんと猪一匹仕留めたよ、

 それで今日の仕事は終わりだ!

 別に時間いっぱい働くのが能じゃねーだろ!

 獲物の乱獲こそ、自然破壊の一歩だよ、タケルちゃん~?」

 「ミィナ、お前酔いすぎてんぞ・・・。」

 「はぁぁぁ? あ~そうかぁ、

 仲間外れにされて淋しいんだろぉ~?

 ばっかだなぁ、

 ちゃんと一緒に遊びたいって言えば遊んでやるのにぃ~?」

 「てめっ・・・!」


それ以上、タケルは反論できなかった・・・。

ここには村の男女もいる・・・。

あまり事を荒立てれば、村人たちの心象も・・・。


 だけど・・・

 何で、こんな事に・・・!?

 


気がつけば、あからさまにスサの空気が悪くなっていた・・・。

勿論、まだまともな思考のままの隊員もいる。

だが、彼らも暴走し始めた仲間を制することができないのだ。

せいぜい、場の空気を悪くしないように、なぁなぁで穏便に済ませている。

ミィナや酒田にまともにしゃべらせると、

「なんでお前らこそ、もっと友好的に振舞えないのか?」と、

そういう事になる。

クリシュナのオッサンはどっちつかずに日和見っているが、

グログロンガすらも、遊ぶ連中の方に行ってしまった事は、タケルにはショックだった。

そして、この状況に危機を抱いているのは、マリアもサルペドンも一緒だ。

これまでほとんど一枚岩の固い結束を誇っていたスサに、

まったくの想定外の事態が起きていたのだ。



タケル、マリア、サルペドンの三人で話し合った結果、

明日、全員を集めて、規律を糺そうと言う事になった。

夕飯を終えると、

ここのところ、仕事で世話になっている村のそれぞれの責任者の所へ出向いて、

明日の仕事は手伝えないか、

良くても遅れての参加になるか、どちらかだと断りを入れると、

相手側はもちろん差し支えないという。

 



結局、村の人たちの目になるべく触れないような場所を見つけて、

話し合いの場を設けたが、予想通りその場は難航した。

別に酒田達にしたところで、当初の目的を忘れてはいない。

ただ、いろいろと理由をつけて「もう少し、ここにいよう」と、それが代表的な意志であるようだ。

一方、タケル自身、もう少しここにいてもいいとは思っているのだが、

この空気のままだと、

「じゃあいつまでいるんだ!?」と問えば、そこにはっきりした答えがないのだ。

そんないい加減な方針では、ずるずるこの村に溺れる事になるのは目に見えている。

こんな時、いつも偉そうなサルペドンが、皆を一喝する事も期待していたタケルだが、

何故か今回に限り、サルペドンもはっきりとした態度を示さない。

・・・ここからすぐに出るべきだとは、意見が一致しているのに・・・。


いい加減切れて、荒げた大声をも発してしまうタケルだが、それは一般の隊員達には逆効果だった。

もはや、その場にいる者たちは、

タケルを指導者としては認めていないかのような罵声をタケルに浴びせ始めたのだ。

 

 「そんなに戦うのが好きなら、タケルが一人で行きゃあいいじゃんっ?」


 「なっ・・・なんだとっ!!」

幾つもの罵声に紛れていたとはいえ、

あまりにも心ない言葉がタケルに投げつけられた。


 「誰だっ! 今叫んだヤツはっ!?」

あまりも痛すぎる言葉だ・・・。

つい最近まで、そこらへんのフリーターだったタケルに・・・。

いきなり争い事に巻き込まれ、たった一人の家族を殺され、

その姉と相思相愛だったかもしれない人をも自らの手にかけて・・・。


 誰も傷つけたくないのに、

 大勢の人間を殺さなくてなならない立場に、

 誰が・・・誰が好き好んでなるもんかっ・・・!


そんな当たり前の感情を無理やり抑えつけてここまで旅してきたのだ。

 それを・・・

 それを・・・っ!

 

・・・パリッ


傍にいたマリアはタケルの感情が突然膨れ上がるのを感じた。

・・・怒りと憎しみが混じった黒い感情・・・

そのあまりにも急激な変化に驚く隙もなく、


突然、その男は現れた。


デュオニュソス・・・。


 「やぁやぁ、みなさぁん・・・、

 おぉっと、お邪魔だったようですかな?」

タイミングが悪すぎる。

だが、考えようによっては、この紛糾した場に、一度水を向ける形にはなるようだが・・・。

比較的まだ冷静なサルペドンがデュオニュソスに応じる。

 「デュオニュソス殿、申し訳ない・・・。

 すこし、こちらで問題がありまして・・・。

 あなた方には迷惑をかけないつもりではいますので・・・。」

 


そこでデュオニュソスは大振りなジェスチャーで「まぁまぁ」と・・・。

 「いえいえ、それはそれは、

 私の方は少し、あなたがたに訊きたい事がありましてな、

 それが済めばここから消えますが、ちょっとよろしいですかな?」


そうまで言われれば断れない。

サルペドンが「何でしょう?」と問うと、

デュオニュソスはゴホンと咳払いをして、真面目腐った顔つきになる。

 「え、っとですな、

 もう、何人か村人たちから聞いてらっしゃるかもしれませんが、

 ・・・そろそろ、この村で最大の儀礼・・・

 アンテステリア祭の準備が始まります。

 この村どころか、ピュロスでもその規模、神秘性、特殊性にかけては、

 最大の秘儀と自負しております。

 これからは、他の村やテメノスからも参加者や、参加希望者がやってくるでしょう。

 そこで、

 ・・・ええと、あなた方スサの皆さんは、

 その祭儀までいらっしゃるのかどうか・・・。

 それによってこちらも用意が変わりますので、

 出来れば早いうちに決めていただこうと思いましてねぇ?」

 


いよいよデュオニュソスがその本性を現して・・・?


いいえ、彼は自分で喋った通り、オリオン神群とスサの争いには何の興味もありません。

彼の目的はただ一つ・・・。


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