緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス 変化
様子が変わってきました・・・。
そして翌日、
高熱を発し寝込んでいた者も、ようやく体力を回復させ、
無理をしなければ旅を続けられそうな意志を見せ始めた。
そうか・・・それは、
うん、当然だ・・・。
ならば名残惜しいけど、この村を旅立たねば・・・。
そう思い、各幹部たちを招集すると、
タケルは予想外の、各メンバーの反応に唖然とした。
特に、酒田のおっさんやミィナを始め、みな何も言わないどころか、
タケルの言葉に視線を落とし始めたのだ。
さぁ出発、の口上を前に、
不満アリアリな態度をあからさまに表明していると言っていいだろう。
「お・・・おい、みんなどうしたっ?
ここが素晴らしいところだってのはオレだって分かってるけど、
元々こんな地下世界までやってきたのは、
楽園を探しに来たってわけじゃないだろう!?」
だが各自の反応は鈍い・・・。
勿論、全員が当初の目的を忘れているわけではない。
だからこそ、後ろめたく、タケルの言葉に表だって反対できないのだ。
タケルも思わず、サルペドンとマリアを見るが、彼らも目をパチクリさせて、幹部たちの反応に驚いている。
まぁ、サングラスかけたサルペドンの目はよく分からないけど。
しばらくして、
ようやくためらいがちに酒田が口を開いた。
「いや、タケル、わかってる、そうだよな、
行かなきゃいけないんだよな?
で、でもよ、
オレ達が参加してる井戸も、あと2~3日で完成だろ?
デュオニュソスだって、十分な食料を仕留めてくれりゃ、
いつまでだっていてもいいって言ってるんだぜ?
特にブラインド猪は畑を荒らす害獣だ。
オレ達の働きに村人たちも感謝してくれる。
みんな、うまく行ってるじゃないか?
せめて井戸が完成するまで、
見届けるってのがそんなに大きな時間のロスになるのか!?」
正直に言えば、
タケルだってここにいたい。
スサの総代としての自分が、出発の決定を下さねばならないと思っていただけなのである。
ここで、無理やり出発すれば、隊員達の士気も下がる。
・・・いまだ指導者としての経験も覚悟も伴っていないタケルでは、ここで決断もできない。
それに何より、
酒田の反論は自分も少なからず同意できるのだ。
「わかった、
じゃあ、井戸を完成させて・・・、
それで終わり次第、デュオニュソスに別れを告げよう・・・、
今までのパターンだと、また送別会を開くとか言い出しかねないが、
翌日になって二日酔いでまた出発できないとか言い出すなよ?
それでどうだ?」
途端にみんなの顔が明るくなりやがった。
なんて現金な奴らだ。
念のために最高幹部である二人の確認もとる。
「サルペドンもマリアさんもそれいいか?」
彼らの反応はまた別である。
はっきりと拒絶の意志を見せてるわけでも、心から賛同しているわけでもなさそうだ。
サルペドンは一言、
「・・・まぁ、いいんじゃないか・・・。」
と、静かに言い放つだけだし、
マリアさんは無表情で頷くだけだ。
そこにタケルも一抹の不安を感じたわけだが、
具体的に自分の決定のどこがまずかったのか、はっきり理由がつけられないだけに、
これ以上、話題を引っ張りたくはなかったのである。
いや、それはタケルだけではない。
明確に根拠があれば、サルペドンは黙っていない。
彼ですら、心に引っかかるものを残しつつも、
それ以上の判断をできなかったのだ・・・。
というわけで、今日は遅めに作業に出掛けた。
「遅れてすいません・・・!」
と言い繕うとしたタケルだが、
ここでも意外な事態に、タケルは驚く。
井戸の工事メンバーの集まりが非常に悪い・・・。
いるべきはずの村の青年が、かなりいない。
もしかしてオレ達が遅れたことと関係あるのか?
その事を問うと、初老の現場責任者は「ハハハ!」と笑いだした。
「あー、あー、気にしないでください、
よくあることです。
まー、あなた方に会えなくて帰ったやつもいましたけどね、
気が向けば、昼過ぎにでもやってきますよ。」
まだ言葉を完全に理解してないタケルだが、
こういうことがしばしばあるという事だけは何とか把握した。
でも、それでいいのだろうか?
そう言えば、
この村では、時間とか約束とかという概念は、地上のものと違うのだろうか?
違和感を覚えまくるタケルに酒田がフォローした。
「多分だけどな、
ここの住民はアクセクしてないんだと思うぞ?
程度は全然違うにしても、
日本でも沖縄じゃ、すんげーのんびりしてるっていうじゃないか、
郷に入れば郷に従えだよ、
あんま気にしなくていいんじゃねーの?」
まぁ、・・・その理屈はわかる。
そういや、ここは貨幣経済でもないようなのだ。
地上の既成概念はとっぱらった方が良さそうだ。
しかし・・・そうなると、
今日の仕事は大して進みそうもないな・・・?
そして案の定というか、何と言うか、
上空の疑似太陽の輝きが最大になる昼過ぎには、
現場責任者が酒を飲み始めて、「今日は終わろう」とか言い出しやがった。
「えっ? じゃ、オレ達の仕事は!?」
慌てるタケルに初老の責任者は、
「気にしない、気にしない、デュオニュソス様には言っとくよ。」
と、全然、どうでもいいことかのように、
笑いながら帰っていきやがったのだ。
次回、デュオニュソスさんが大事なお話を。