緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス 予定変更
おや?
翌朝、夢から醒めたかのように、
村人たちは後片付けをしながら、段々と日常の生活へと戻り始めていた。
スサのメンバー達も、
・・・二日酔いというか、体内にまだ大量のアルコールが残っているために、
全員、けだるい体調を必死に耐えながら出発の支度を始める。
タケルも井戸の水で顔を洗った後、
・・・まぁ、元々セーブして飲んでいた彼は、比較的さっぱりした顔でデュオニュソスに挨拶をする。
「おはようございます、
もう、本当になんてお礼を述べればいいか・・・、
準備が整ったら、オレ達はここを去りますが、
もし、デュオニュソスさんも地上に来ることがあったら、
是非、オレの住んでる日本ってところに来て下さいよ、
この村にもない日本酒ってものをご馳走しますよ。」
朝っぱらからデュオニュソスの瞳が瞬いた!
「本当ですか!
行きます! 絶対に行きます!!
樽ごと飲みつくさせていただきます!!」
「え・・・それはちょっとさすがに・・・お金がもたない・・・けど、
で、できる限り、ハハ・・・。」
その後、漏れなくタケルも他の隊員達と出発の準備を始めるが、
この辺りから、「歯車」に違和感が生じた・・・。
最初はクリシュナがやってきたことから始まる・・・。
「タケル殿、報告したい事が・・・。」
「ん? どうしたんだい、クリシュナさん?」
「はい、先の戦いで・・・
アルテミスの村と、シルヴァヌスの森で負傷していた者がおりましたな?
彼らも、普通にしている分には傷の方に影響はなかったので、
宴の方にも参加していましたが、
どうも、今朝から熱を出して動けないようなのです。
外傷なら手当てもできますが、熱の方だと、
今回アベ先生も連れてきませんでしたし・・・。」
忘れてはならない、
アベ先生の名前のアクセントは「ア」に来ることを。
いや、今はそんな話はどうでもいい。
「え? 何人ぐらい寝込んでいるんだ?」
「5名です・・・、
あと、これは無理やり叩き起せばいいでしょうが、
二日酔いで、気分が悪いと言ってる者も3~4人・・・。
一人はミィナ殿・・・。」
あいつか!!
さすがにそれだけいると、ほっとく訳にもいかない。
サルペドンやマリアにも声をかけ、対応を協議した。
次のデメテルのテメノスも安全だと言うなら、
無理やり、行軍してもいいかもしれないが、
天然の要害などもあるやもしれず、
ましてや最初の時みたいに、大トカゲなんかに出くわしたら溜まったもんじゃない。
では、彼らをこの村に預けてしまえばいいか、とさすがにそれも図々しかろう。
それにマリアとサルペドン以外、言葉が通じないのだ。
やはり、全員で残るべきなのか・・・。
そうなると、スサの人間だけで結論を出すわけにもいかないので、
早速デュオニュソスのゲルまで行って相談することになった。
分厚い絨毯の敷いてある彼のゲルの中に入ると・・・、
あ・・・また朝から酒、かっくらってやがった!
・・・酒の匂いがここもプンプンするが、もう驚きゃしない。
それより、要件を・・・。
デュオニュソスは目を見開いて真剣な表情を浮かべる。
「なんと!
熱を出した方がおられるのですか!
それは是非もない、
別に我らは構いませんぞ?
元気になるまでいてくださればいいではないですか。」
本当にデュオニュソスは太っ腹とも言える器の大きさで、
タケル達は頭が上がらない。
ところが、ディオニュソスの後ろに控えていた召使が、
彼の耳元に何かを囁いた・・・。
そしてその瞬間、デュオニュソスの表情に変化が・・・。
そのやりとりを見守っていたタケル達に、
デュオニュソスは咳払いをして、
・・・何とも言いにくそうに・・・。
「ああ、ゴホン!
その・・・実はスサの皆さん!
えー、いや、どうぞ、ここにいてもらうのはどうってことないんだが・・・、
何と言うか、来月、大きな祭りがありましてな、
その為にある程度、貯蔵している食料や酒の備蓄量に問題が・・・。」
成程、それは仕方がない。
それに、二日続けて大量に飲み食いさせてもらった今では、
タケル達に返す言葉などある訳もない。
気を使わせてしまった事を陳謝し、
予定通り、すぐに村を引き払う事を告げると、
今度は又、泣きそうな顔でデュオニュソスはタケルに抱きついてきた。
ま、まさか、そっちの気があるんじゃないだろな、おっさん・・・。
「ああああ、お待ちください、お待ちください、
誤解なさらないでください、
出て行けって言ってるのではないのですよ、
そうだ! こういうのはどうでしょう?
確かにこの小さな村に、あなた方のような人数で連日泊まられると負担も大きいのですが、
あなた方がご自分で食料などを賄っていただければ・・・。」
「え? というと?」
デュオニュソスは申し訳なさそうに腰を低くする。
「あ、いや、あくまでも提案ですよ?
私から条件をつけると言うのもおこがましいのですが、
いわゆるギブアンドティクで・・・。
村の外には、猪などもおりますので捕まえてくれれば、
村人の食糧も潤いますし、
他にも、今、井戸を掘っていますので、
それに肉体労働を供給していただければと、
いわゆる、対価を払っていただくと言うことで・・・、
寝込んでいる方々の看病はこちらでも人員を割けますので・・・どうかな、と。」
最初はきょとんとしていたタケルだが、
デュオニュソスの提案は、むしろタケル達も後ろめたさを感じずに、
この村に世話になれる良い提案である。
確かに、あんだけ歓待してもらって、何もしないこっちの方が失礼なのだ。
マリアやサルペドンにも相談してみたが、
やはり全員、異論はなく、
快くデュオニュソスの依頼を引き受ける事にした。
どっちにしろ、一日~二日の話で終わるだろうし・・・。
風向きに変化が?