緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス アイドル・ミィナ
ぶっくま、ありがとんです!!
そして極めつけは、村人たちの催しものだ。
子供達の合唱や、村娘の舞踊、
きっと晴れの舞台でのみ、着る事を許されるのであろう派手な衣装に、
男女がフォークダンスのようなものまで、飽きることなく踊りを演じていた。
当然、こんな雰囲気では飛び入りもOKだ。
酒田さんや、ノリのいいスサの成員たちが踊りに混じり始める。
踊り方なんて現地の人間に合わせられないもんだから、もうムチャクチャ。
デュオニュソスは腹を抱えて地面に転げまわってはしゃいでいた。
・・・すげー笑い方だな・・・。
そこで真打登場!
「おらぁ! 地上を代表しましてミィナちゃんの出番だよ~!」
一人だけ民族衣装をまとったミィナが、
タイミングを見計らって演台に躍り出た!
あれ?
なんでグログロンガ・・・?
何と、彼女の後ろに弦楽器・・・バンジョー?
・・・の、ようなものを持ったインディアン、グログロンガも後ろに続く。
さらにその背後に、彼の直属部下二人。
太鼓と笛だ。
お前ら、そんな特技を・・・いや、
この地底にそんなかさばる物持ち込んでたのかよ!
まぁ、それはいいが、
外からやってきた異邦人のショータイムに、村人たちは更に盛り上がる。
特に、ミィナの踊りなんて、スサのメンバーも誰も見たことないから、
これはもう目が離せない。
さぁ、始まった!
ミィナは静かに音楽が始まるまで、足を揃えてうつむき加減で、休めの状態。
そして笛の始まりの後、
遅れてバンジョーと太鼓、そしてミィナが小さく首を上下に動かし始めた。
元々、ミィナの衣装にしても、
あくまでも踊りの為の衣装ではなく、彼女の生まれ故郷での普段着ではあるのだろうが、
ビーズを散りばめた小っちゃな帽子をかぶり、
両腕は露出してるが、長い足首までのスカート姿は新鮮だ。
そしてタケルはすぐに目を奪われた・・・。
日頃、あんながさつな言動の彼女だが、
踊っているその姿は、まさに可憐な少女だ・・・。
野に咲く小さな一輪の花、
そういう表現がつい出てしまうほど、あどけない笑顔を聴衆にふりまいて、
知らない人が見たら、いいとこのお嬢様のようにしか見えないだろう。
踊りは派手なパフォーマンスと言うには一切程遠く、
特徴としては指先の動かし方がとても可愛い。
よく、犬の影絵なんかでやるアレだ。
踊りながら両手の指で、パクパク動かしたり、アヒルみたいな歩き方を取り入れたりと、
何か動物の動きをモチーフにしているのだろう、
これは絵になる。
後で聞いたら、本来は4~5人で一緒に踊るものだそうだ。
そしてタケルはふと我に返る・・・。
周りを見回すと、現地の年頃の男どもが身を乗り出して・・・。
さすがに踊りを邪魔したりはしないが、ギリギリまでミィナの近くによって、
彼女に意味深な視線を投げかける。
・・・そんでもって踊っているミィナも、まんざらではなさそうな視線を彼らに返すのだ。
し・・・心配はいらないよ・・・な。
踊り終わると、ミィナはもうアイドル並の歓声で男どもに囲まれてしまう。
調子に乗って、彼女の肌に触れようとする野郎どもも現れる始末・・・。
どうする?
ミィナなら不快を感じたら、自力で・・・いや、暴力を使ってでも拒絶するだろうが・・・。
と、ここで意外な展開、
後ろに控えていたグログロンガが、
静かな顔してミィナの両肩を支え、平和裏に舞台から退場させてしまったのだ。
「やるじゃん♪」とでも言いたげに、
ミィナはグログロンガと視線で会話する。
そして何故か、タケルの心中に穏やかならぬ物が・・・。
勘のいい者なら、
タケルの表情が硬くなったことに気づいただろう。
・・・そうら、マリアさんの目が光る。
「タケルさん・・・
身近な所にライバル出現・・・かな?」
「だーかーらー、ちーがーうー!」
久しぶりにタケルの口癖が出る。
彼も何だかんだでお酒が程良く回っているのだ。
昔のノリに戻ったところで、誰もとがめられまい。
それよか、
スサのメンバーの中で、最大の体格を誇るタケルだ。
静かにしていたところで周りが放っておかない。
酒田さんが飛び込んできた!
「タケル! 飲んでるか!!」
「あ、ああ、はい、の、飲んでますよ!」
「良し! お前も何か芸やれ!!」
「ええええええ、こんな席で披露できるものなんか・・・。」
「祓いの舞があるだろう、
あれなら十分、絵になるだろうが。」
今の時代、アルハラという便利な言葉がある。
まさに酒田さんの要求はそれだ。
「ダメっすよ!
アレは門外不出の・・・こんなとこで大っぴらにやるようなもんじゃ・・・。」
「はぁぁぁぁ!? しょーがねーなぁ!
じゃあ、中国拳法の演舞できるだろ!?」
「そ・・・それはできますけど、
あんな殺伐としたものを?
それに日本人のオレが中国拳法の演舞を披露って、なんか違くないっすか!?」
「やれ・・・!」
ダメだ、酒田さん目が据わってきた・・・。
逆らうと何しでかすかわからない・・・。
「や、やります!
やるってば・・・やらして下さい・・・。」
一応、デュオニュソスに確認を取ってから、
タケルは先の尖ってない2メートル程の棒っきれを探してきた。
しなり具合や強度を確認してから壇上に上がる。
・・・酒の席で、こんなもんやりだして、
顰蹙買わないか最後まで心配だが・・・、
ここまで来たからには後には引けない・・・。
大勢の村人たちがタケルの姿を注視する。
そのタケルは、一息ついて、膝を曲げ、腰を落とし、
低く・・・低く構えてから・・・。
ミィナの踊りは、
新疆ウィグル自治区のトルファンで観光客相手に踊ってた一団の踊りをイメージしてます。
あ、この物語のウィグルは、現実世界のウィグル人とは全く関係ありませんよ!!
そして次回はタケルがキャーキャー言われます。