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第5話


・・・少し時間が遡る、再び日本・・・。

古びた出版社の一室を借りて、

二人の男が席についていた。

一人はこの出版社で働いている伊藤・・・、

そして今一人は、

表向きは興信所所長という職に就いている男、

日浦義純であった。

 「どーも、

 お忙しいところをすみません。」 

日浦義純が丁寧に挨拶をする。

 「いえいえ、

 こちらも気にしていた事件ですので、

 かえって助かります。」

こちらは伊藤。

お互い最初から、

含むものをはらんだ会見であった。

義純は、

警察の内部資料を知っている事を隠しながら、

伊藤からメリーの情報をつかもうとしていたし、

伊藤のほうは、

目の前にいる義純が、

メリーとどんなつながりがあるのか、

またメリーを救えるだけの力を持っているのか知ろうとして、

それぞれが、

名目上の取材とは別のものを胸に秘めていたのである。

口火を切ったのは義純だ。


 「さっそくですが、伊藤さん、

 わたしはある依頼で、

 こないだのカルト教会について調査をしていました。

 ・・・ところがあんな事件が起きてしまい、

 調査方針が大きく揺らぐ事になったのです。

 結果、わたしの調査対象は、

 教会よりも、

 あの大量殺人がなんだったのか?

 ・・・そちらに重点が置かれるようになりました。

 その後調べてみると、

 日本各地で同じ手口のものが・・・、

 特に伊藤さん、

 あなたが現場にいた東北の県議会議員のときと、

 ほぼ同じものではないかと思うようになったのです。」

 「・・・なるほど、

 しかし、よく私まで調べられましたねぇ、

 もう六年も前のことなのに・・・。」

 「いえ、まぁ、そういう仕事ですからね、

 それであなたはあの事件の顛末を記事にされてますが、

 結論として、

 誰があの議員や警備の者を殺したと思っているのです?」

 「私にはわかりませんよ、

 ただ、議員達に恨みを持つ者・・・

 としか考えられません。

 もし、今回の殺人事件と同一犯なら、

 そういった者の依頼を受ける殺し屋・・・とかでしょう?」

伊藤も慎重だ・・・、

麻衣の予知夢の事があるので、

この男が信用できるのか見極めようとしている。

 「なるほど・・・、

 ところで伊藤さん、

 ・・・変なことを聞きますが・・・。」

 「はい?」

 「あなたは事件犯行時、

 まさに現場にいたそうですが、

 ・・・変な生き物を見かけませんでした?」

 

 ・・・ドクン!

伊藤の体からアドレナリンが噴出する・・・。

やはりこの日浦という男は何か知っているのだ。

 「・・・変な生き物・・・?」

 「すいませんね、

 おかしな事を聞いて。

 ・・・わたしもカルト教会の時、

 犯行時刻の直前まで現場にいましてね、

 そこで・・・自分の目を疑うようなものを見てしまったんですよ。」

間違いない、

この男はメリーのことを調べている。

だが・・・? 

とぼけていても埒が明かない、

伊藤も一歩踏み出してみることにした。

 「日浦さん、あなたが見たモノとは・・・

 動く・・・モノトーンの物体・・・?」

義純の目が輝いた。

 「そうなんです!

 やはりあなたもご覧になっていたんですね!?」

 「・・・もしかして日浦さん、

 あなたが調べているのは・・・

 殺害事件そのもではなく、

 ・・・『人形』のことです・・・か?」

義純はそのまま固まる。

 


伊藤の指摘も的確だ、

警察にもかなりの情報が記述されていたが、

この伊藤は間違いなくそれ以上の事実を知っている・・・、

それを義純は確信した。

 「・・・いやぁ、恐れ入りました、

 まさしくそうなんです。

 ウチの事務所にスカウトしたいぐらいだ。

 それで、あなたも・・・

 ご覧になっているんですね・・・?

 あの人形を!」

義純は、

静かな伊藤の答えを待たずに話を続ける。

 「カルト教会の方では、

 現場での目撃者はいない、

 全て殺されている。

 わたしは見たといっても、

 ほんの一瞬・・・、

 あとはスピーカーからの、

 彼女の声しか聞いていない。

 あなたからなら、

 もっと多くの情報を得られるかと思って連絡させていただいたんです。」

もはや、この時既に、

互いの予感は確信に変わっていた。

 


ただ、伊藤の方の反応はぎこちない。

 「『彼女』・・・

 彼女の声も聞いてらっしゃるのですね・・・?

 ・・・一つ宜しいですか?

 日浦さん、

 あなたは彼女のことを知ってどうしようというのですか?

 わたしと違って、

 飯の種にはならないと思うんですが・・・。」

 「そこは依頼主の要望・・・

 としか本来言えないんですが・・・、

 最低限のことでよければお教えしますよ、

 危険の排除です。」

 「あの人形が・・・

 危険だということですか・・・。」


その返答には義純も戸惑った。

 「・・・危険な存在ではないとでも?

 危険ということでなければ・・・

 それを証明するのもわたしの仕事に含まれます。

 まずは、

 人形の正体を掴むのが先決です・・・。」


伊藤は顔を伏せて考え込んでいた・・・。

この男を信じてよいのだろうか・・・?

 「日浦さん、

 あなたは県議会議員の地元で伝わっている人形の伝説もご存知ですか?」

 「? あぁと・・・、

 そういう物があるとは聞きましたが、

 ・・・詳しくは知りません。」

 「分りました・・・、

 わたしも地元の神父からの又聞きですが、

 そこから話をしましょう・・・。」

 

 

伊藤はかつて自分が耳にした、

悲しい人形の話を義純に聞かせた。

また義純も、

真剣になって伊藤の話に耳を傾けた。

もともと、

日浦も滅多に人を馬鹿にしたり、

見下すような不遜な人間ではない。

そのバカ正直さゆえ、

「愚者の騎士」とまで呼ばれているのだ。

そして伊藤も・・・、

その真剣さに感じ入ったのか、

最後にあの議員宅での出来事・・・、

人形との不思議なやりとりも日浦に話してしまった・・・。

 「・・・確かにあの人形・・・、

 メリーは今までたくさんの人を殺してきたし、

 これからもそうでしょう。

 ですが、わたしは彼女を追い詰めようとは思いません。

 彼女が邪悪な存在とも考える事はできません。

 巻き添えになってる人は不運ですし、

 わたしも危うくその一人になるところでしたが、

 できれば、

 このままそっとしておいてあげたい・・・。」

伊藤の口調は穏やかだったが、

その言葉には強い願望がにじみ出ていた。

 

 

伊藤から、

全ての話を聞いた義純は、

深々と頭を下げた。

 「ありがとうございます、

 全てを語っていただいて・・・。

 最終的にこれからどうするのかは、

 わたしの依頼元が判断をしますが、

 なるべくあなたの気持ちが反映されるように伝えます。」

義純の態度はまさに誠実的なものだった。

だが、

伊藤もここで話を終わるわけにはいかないのだ。

 「・・・まだ、

 伝えてないことがあります。」

 「・・・えっ?」

 「日浦さん・・・あなたは、

 又はあなたの依頼元というのは、

 何らかの力を持った存在なのですか?」

 「えっ?

 ・・・な、なんでそんなことを・・・?」

完全に意表を突かれた。

義純がこれまで日本で活動しているうちに、

背後の騎士団の存在を指摘される事などありえなかったからだ。

 

 「わたしには娘がいます。

 ・・・まだ子供ですが、

 時々未来に起こることを言い当てます。

 死んだはずの祖母に教えてもらったとか、

 夢で見たとか、

 いろんな事をいいますが、

 娘の予知のおかげで、

 わたしはメリーに殺されなくて済んだとさえ思ってます。

 そして、今日出がけに娘は言いました。

 メリーが危機に瀕している・・・!

 メリーを助けてあげてと・・・!

 わたしが今日会う『人達』が、

 メリーを助けられるかもしれないということを!

 ・・・あなたがメリーの話を切り出したことで、

 私は確信を持ちました。

 あなたか、

 もしくはあなたの仲間が彼女を救い出せると!

 お願いです、

 私は娘と約束しました!

 力を貸してください!」


長い沈黙が続いた・・・。

部屋の時計の針の音だけが響く。

伊藤は自嘲気味に哂う・・・。

 「・・・ええ、そりゃあそうですよね、

 大の大人がこんな馬鹿な事を本気になって・・・。」

それが当たり前だ・・・、

伊藤は自分の発言を後悔するかのように、顔をうつむくだけしかできない。

 


 

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