緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス タケルをあしらう大人の二人
今回は少し長めです。
マリアさんの指摘にサルペドンは黙っていたが、
やがて、ゆっくりと口を開いた・・・。
「過去に・・・デュオニュソスの先代が、
他の神々と共に、地上の人間を滅ぼそうとするゼウスに異を唱えた・・・
これは確かな事実のようだ。
だが、
今のデュオニュソスは、先代とは別人だ。
完全に同じ思想を持っているという保証は誰もしてくれない。
ならば、我々は警戒をしておくべきだと思う。
既に警戒を解いて、無防備になってる奴らも・・・戒めておくべきかもしれないが、
酒田やミィナのように、彼らの歓待を心から受け入れられる人間も、
あれはあれで、このような場には必要だろう。
我々が完全な軍隊なら、元々この村に駐留させることもないのだが、
敵の制圧が我らの目的ではないしな・・・。
・・・どの道、明日の晩だけだ。
夜が明けたら、次のデメテルのテメノスへ向かう。
恐らく、ここほどでないにしても、そこでも争いは起きないはずだ。
全ての決着がついてから、もう一度ここに来たっていいんだしな。
その時は、心ゆくまで騒いでもいいだろう。」
結局この晩は、残った連中で交代しながら眠りにつくこととなった。
マリアさんは先に休んでもらおう。
「タケルさん、私酔っちゃいました。
テントまで運んでくださる?」
「うぃぃっ!?」
思わずサルペドンの方を向き直るが、彼は夜でもサングラスをかけているので、
こっちを見ているのか見てないのか・・・?
それとも全く興味を示していない・・・のだろうか?
まさか、二人、オレの知らないところでケンカでもしてたんじゃねーよな?
普通こういう場合、
男が女性の肩に腕を回すか、女性の腕を自分の頭に掛けるかするのだろうが、
タケルの場合、身長があるので、どうしてもどっちかが歩きにくくなる。
・・・結果、
アルテミス戦後、ミィナに対して行ったように、
マリアを抱きかかえるか背中に背負うか、どちらかを選択せざるを得ないだろう。
・・・背負うか・・・。
マリアはお酒が入って時間が経ったせいか、ひんやりとしてきた腕をタケルの前に回す。
まったく警戒していないようだ。
胸の膨らみがタケルの背中にあたっている・・・気がする・・・。
しゅ・・・集中・・・他の事考えねーとぉ・・・!
テントまで持てよぉ! オレの理性っ!!
別に女性一人抱えたところで、重くも何ともない。
テントまでの距離があろうがどうってことはない。
そして彼には、道中別の心配も・・・。
ミィナ・・・中で熟睡してるんだよな・・・?
テントについて、マリアさんを地面に下ろす。
ちょっとフラついたが大丈夫だろう。
「マリアさん、後、大丈夫?」
「は~い、タケルさん、ありがとぉ~♪」
そう、言いながら、マリアは最後にもう一度、タケルに抱きついてきた。
「うわうわ!
・・・ね、ねぇ、マリアさん、サルペドンと何かあった?」
その言葉に一瞬、マリアはきょとんとしたが、急にケラケラと笑い始めた。
「アハハハハ、勘のいい人ですねぇ、タケルさん、
でも、大丈夫、いま、あの人には余裕がないだけ・・・、
あの人は今、責任と重圧で自分と戦っているの・・・。」
そうなのか・・・?
「え、でもマリアさん、だったら余計・・・。」
「そう思います?
でも、彼は自分で自分を縛りあげる性格・・・、
問題が解決しない今、
誰かに慰めてもらうようなマネは不要と考えるのよ。
それこそ、自分の気持ちが緩んでしまうから・・・。」
「だから、今夜もあいつは酔いもせずに?」
「ええ、そう・・・、
私は愉しませてもらったけどね?
タケルさん、もしできるなら・・・彼を最後まで信用してあげてね・・・。」
「信用? 信用ってどういう意味です・・・?」
「今は聞かないで・・・、そのうち、時が来れば分かるから・・・。
彼も、その時から逃げる事はもうできないと言う事を・・・。」
そう言ってマリアは、タケルのカラダから離れてテントの中に入って行った。
「タケルさん、お休みなさい・・・、
ごめんね? 重かったでしょ?」
「いえいえ、とんでもないっす、楽勝っす!」
謝ってもらうなら、できれば他のことについてだが、
まぁ、もう何も起きないだろう。
入口の隙間から大口開いて寝ているミィナが見えた。
毛布をぐっちゃぐちゃにはだけて、着の身着のまま両足おっぴろげて・・・。
間違いなく寝ている。
・・・グアアアア、ピィィィィ
・・・何も心配はない・・・。
強いて言えば、あんな色気もへったくれもない寝顔晒してちゃんとお嫁に行けるのだろうか、
それだけは真剣に心配だ。
最後にマリアさんがニコっと笑う。
「タケルさん、時間が来たら遠慮なく起こしてくださいね?
何なら、ここであなたも一緒に休んでいく?」
「ダメです! ダメったらダメです!
何を言ってるんすか!!」
油断も隙もない。
もちろんタケルの性格を見越して言っているんだろう。
だが、いつまでも同じ反応を保っていられるほど、自分はできてる人間ではない!
「あはは~、怒られちゃったぁ、
じゃあ私はミィナさん抱きついて寝ますね~、
お休みなさいぃ~。」
「お、お休みなさい、そいじゃ・・・!」
思わず、二人が絡んでいる姿を想像してしまった。
そんで次に、
自分がそこにいるとんでもない状況を・・・
そして、ミィナが目を覚まして半狂乱に・・・
怖っ!!
でもこれでいい、
結局、マリアさんに対して、不埒なマネは何もしなかったのは・・・、
その気になれば、
胸に手を当てがったり、ウェストに腕回したりできそうだったけど・・・
もったいない気もしたが、これでいいんだ・・・。
疑われないうちにサルペドンの所に戻ろう・・・。
お・・・よしよし、静かに焚き火に当たってるな・・・。
タケルが元の場所に戻ると、サルペドンが静かに顔を上げた。
「彼女は寝たか?」
「ああ、なんとか・・・
酔うとああなるとは思わなかった。」
「別に誰に対してもってわけじゃないさ、
お前を気に入ってるんだよ。」
「はぁ!? アンタがそんな事言うのぉ!?」
「別におかしな事じゃないだろう、
マリアに限らず、スサはみんな、緊張ギリギリの生活を強いられてきたんだ、
誰だってたまにはハメを外したくなるってもんじゃないか?」
タケルも多少頭に酒は回っているが・・・、
えーと、
それはつまり・・・。
「オレは、ハメ外しても心配ない安パイってことか?」
「ははは、それはそれでもいいだろう、
信用されてるってことだ。」
まぁ、それは確かに嬉しい事なのか・・・
しかし年頃の男の子としてはそれも何か悔しい・・・。
「サルペドン、アンタはいいのか?」
「ん? 何がだ?」
「あー、そら?
ハメ外さなくても、よ?」
「何だ? オレがそんな年に見えるのか?」
「年とると、そんな風に落ち着けれるもんか?」
「お前も長生きすれば分かるさ。」
その辺りで、タケルは村人たちに置いてってもらった水差しからコップに水を注ぐ。
一気に飲み干した・・・。
「そんなもんかね、・・・サルペドン、
でもマリアさん心配してたぜ?」
「・・・何をだ?」
「う、いや、ホラ、気を抜かないとか、
ハメ外さないことに関してとか・・・。」
さすがにストレートには伝えられない。
「そんな事か、
・・・ま、この旅が無事に決着すれば・・・、肩の荷は下ろせるとは思う。
そうすれば気を抜かせてもらうさ、
それまで・・・頼んだぞ、タケル。」
「・・・オーケー。」
「そうだ、タケル、それでマリアの抱き心地はどうだった?」
今頃それかよ!!
ニマニマしてんじゃねーよ! ちくしょう!
何もしてねーって!!
そして夜が明ける・・・。
サルペドン大人です。
タケル
「でもアイツ、人間臭くなってきたっていうか、自分の考えや感情を表に出す機会増えた気がするな。」
マリア
「・・・・・・。」
そして次回は宴(本番)です。