緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス 初日の夜更け
さて、宴もたけなわ、
上機嫌のデユオニュソスがお開きの言葉をかけることとなる。
「えー、・・・あー、みなさん、
申し訳ないんだが、今夜はここまでとしていただきたい、
その代り・・・明日の晩が真の宴となります!
そこにはこの村の者たちも参加させたく思いますので、
どうかよろしく・・・お願いします!
楽団や踊りも用意させていただきますが、
皆様方の飛び入りも歓迎いたしたく存じます・・・。
それでは今宵はこの辺で・・・、
皆様、カラダをお冷やしになりません、よーにっ。」
酔っ払ってニコニコしている割には、締める所は締めてくる。
もっとも、よぉく思い出してみれば、
デュオニュソスは宴が始まる前から酔っぱらっていたのだ。
単純に来客で興奮して盛り上がっていただけかもしれない。
後片付けは全て村人たちがやってくれた。
スサのメンバー殆どは、各隊ごとに自分達のテントでとっとと眠りについてしまった。
タケルなどは恐縮して、
村人たちの手伝いを申し出たが、村人たちは陽気に笑って、タケルの助力を固辞する。
お客にそんな事はさせられないよっ、
とでも言いたげに・・・。
仲間の所へ戻ると、
サルペドン・・・マリア・・・グログロンガ、あと数人が比較的冷静な顔でそこに残っていた。
マリアさんは色っぽい頬をしているが、視線は結構冷静だ・・・。
ん・・・冷静か?
「あれ?
マリアさん、もう休んだら?」
「ああ、いえ、タケルさん、大丈夫・・・、
ミィナさんも寝かしてきましたし・・・。」
ああ、あいつ、かなり出来上がってたなぁ・・・、
未成年の筈だが・・・
まぁ、ウィグルで飲酒が認められている年齢なんて知ったこっちゃない。
とりあえず、寝袋に押しこんどきゃ大丈夫か・・・。
・・・て、マリアさん!?
見れば、足元がおぼつかないマリアはタケルのカラダによろめいた。
「あらあら? ごめんなさい?
まぁ~こんなに大きくなって(あくまでも身長の話である)・・・?」
白い・・・いや、
ピンクに染まったマリアの滑らかな手がタケルのカラダをさすってゆく。
ちょ・・・ホントに酔ってる!?
思わずタケルはサルペドンの方へ首を動かした。
タケルも実は感づいてる。
この二人はきっと・・・。
しかし、当のマリアはお構いなしにタケルに抱きついて、サルペドンは無表情だ。
や、やばくねーか!?
「タケルさぁん、だいじょーぶよぉ、
ミィナさん、くーくー眠ってるしぃ・・・。」
「えっ!?
ちょっと、どういう事っすか!?
なんでそこでミィナが!?」
「まぁた、トボケてぇ~、
結構いい感じじゃないぃぃ?」
「何言ってんすかっ!?
オレ殴られたり蹴られたりばっかですよっ!?」
「あはは、鈍いのですねぇ?
だぁからぁ、それが彼女のぉ・・・
あら、いっけなぁい?
こっから先は秘密ぅ~♪」
酔うとこういう人だったのか、
ダメだ、何とかしないと・・・。
勿論、タケルは女性に対し聖人君子ではあり得ない。
美人も色っぽいお姉さんも大好きである。
二人っきりで密室なら彼の理性も吹き飛んでいたに間違いないが、
ただ、この状況ではヤバい、
それは確実。
唯一の救いはサルペドンが大人であるということ。
「タケル、慌てるな、
それより・・・今、
この場に残ってる全員、みな冷静に物事を考えれるか?」
そう、冷静でいられるからこそ、
酔っていようがいい気持ちだろうが、テントに戻らずここにいるのだ。
全員、急に顔が険しくなる。
マリアさんは色っぽい表情で、タケルのカラダにぴったりくっついたままだ。
誤解がないよう説明するが、
マリアはタケルを勿論、異性とみなしていない。
彼女にとってはあくまでも「年下の男の子」である。
サルペドンもそれがわかっているから、別にどうも思わない。
も、もちろんタケルだってわかっているさ!
マリアに抱きすくめられながら、タケルが真剣に問う、
顔の表情は情けないままだけど・・・。
「サルペドン、あ、あんたも酔ってないんだな?」
「勿論だ、
確かに素晴らしいワインは堪能したがな。
いい気持ちだよ、
だがそれとこれは話が別でな。」
普段無口なグログロンガが、ここぞとばかり口を開く。
「罠だとしたら、明日・・・か?
今夜で油断させておいて・・・。」
もちろん、タケルもその可能性は考えていた。
タケルはその考えを持つこと自体、自分が許せないのだが、
スサのトップについている以上、「どんな最悪の状況」も想定せねばならない・・・、
その困難に打ち克つ為に・・・。
姉・・・美香の教え。
「今夜の宴の様子で・・・そんなそぶりはあったかよ・・・?」
唇をかみしめるようなタケルの発言に、
ここでマリアはカラダを離した・・・。
彼女は顔をサルペドンに向ける。
「私もアルコールが入った状態では、
感知機能は役立てられませんが・・・、
それでも強い思念波があれば反応できたと思うのです。
ですが・・・村人からも、デュオニュソスからもそんな波動は・・・。
もっとも、そんなものを片時も感じなかったから、
ここまで素直にワインを愉しめたわけでもありますが・・・ヒック!」
そしてマリアは一度、口を休めてから、もう一度サルペドンに問う。
「ねぇ、サルペドン、
あなたもデュオニュソスの思想に感銘を受けていましたよね?
隣のテーブルにいても、あなたの心が和らいで行くのがわかりましたよ?」
へぇ・・・?
それは、・・・意外だ。
確かにタケルも、デュオニュソスの言葉に嬉しくなったのは確かだ。
やっぱり、どんな厳しい男でも・・・
感動すること自体は一緒なのかな?
ここまでマリアさんは、一切、デュオニュソスや村人から悪意・敵意を感じていないそうです。
次回はちょっぴりハイなマリアさんの後始末。