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緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス デュオニュソスの立ち位置その2

 

デュオニュソスが、子供のようにみんなの反応を待っている。

「オレの作った酒の味はどうだ!」と言わんばかりに。

勿論、誰も文句のつけようがない。

タケル自身、あまりの衝撃に、なんて言えばいいかわからないのだ。

そこはサルペドンもよくわかったらしく、

彼自身がデュオニュソスに対し、スサの一団の反応を代弁してくれた。

 「ご覧ください・・・、素晴らしい味ですよ。

 みんな話をする事も忘れて、あなたのワインに酔いしれている・・・。

 これは・・・先代のデュオニュソス殿と比べても引けを取らないのでは?」


見ればデュオニュソスは嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。

 「おかわりぃぃぃ~♪」

もう、自分のグラスを空けている・・・。

やはりアルコールには強いのだろう。

すぐさま、薄い生地を重ねた女性たちが、各テーブルのグラスに追加のワインを注ぎに来る。


さて、ここで酒田さんが贅沢な望みを・・・。

 「あ、あの・・・マリアさん、通訳してもらえません?

 ウィスキーみたいなものはあるのかな?」

 

気持ちは分からないでもない。

テーブル越しでマリアがデュオニュソスに訊くと、

「任せろ!」と言わんばかりに胸を叩く。

すぐに先の女性たち・・・

恐らくデュオニュソスの女奴隷達が別の容器とグラスを持ってやってきた。

どうやら水割りで飲むようだ。


 湧きたつ香り・・・、

酒田さんは小さく口にその液体を含むと、

あっという間に、目を瞑ったまま空を仰いだ。

 「・・・んはぁぁあああっ!」

さすがにこちらも名前負けしないようで、とても美味しそうに飲んでいる。

もう周りの連中も、どんどん明るいノリで宴席を愉しみ始めるしかないだろう。


二十歳そこらのタケルも、酒はどちらかと言うと好きな方だが、

これまで酒でハメを外したことなどはない。

単に金がないので、飲み過ぎる心配もなかったと言えようが、

元々向こう見ずな振舞いをするほど思慮が浅いわけではないのだ。

ちなみに高校時代の付き合いだと、酒飲んで騒ぐのは今日子たちがメインで、

タケルはストッパー役となっていた。

もちろん、騒ぐときはタケルも騒ぐが、常識の範疇を越えることはないように、いつも気を使っていたのである。

 

さて、話を戻そう。

タケルにとっては、オリオン神群と、初めてまともにコミュニケーションが可能となる場である。

 酔っぱらわないうちに、今までの疑問をぶつけてみるか。

そう願ったのは自然な成り行きであった。

 

 「デュオニュソスさん、

 オレらここに来て、こんな嬉しい歓待を受けられると思ってませんでした。」

 「ハハッ、なぁに?

 これが大地の恵みの力だよ。

 別に私は『神の力』で、これらの酒の味を高めているわけではない。 

 麦とか穀類の素材に関しては、・・・向こうのデメテルの管轄だが、

 いわゆる果実など樹木の成長を促し、最高の状態で人々の手元に届ける・・・。

 私にできるのはそこまで。

 後は、長年培った村人たちの技術や知恵で、

 これだけの酒を造っている。

 オリオン神群などと偉そうな名前など、つける必要もなく、

 私は自然と人間の仲介役を務めればいいのさぁ。」


それを聞いて、珍しくサルペドンが嬉しそうな表情を浮かべた。

 「そのような考え方が、

 ・・・ゼウスにとっては疎ましがられるのかもしれませんな?」

デュオニュオソスはそれを聞いて、

しばらくグラス中の真紅の液体を見つめる・・・。

 「ふふん、知ったこっちゃないさぁ、

 あいつ等にだって分け隔てなく極上のワインを届けてやってるんだ、

 人間だ、神だ、くだらねぇ・・・。」

 


 こんな者がオリオン神群にいたのか・・・、

 やはり、人は絶望することなどない・・・。

人種や環境が異なったって、どこかで通じるものがある筈・・・。

タケルは、先のシルヴァヌス戦での荒んだ気持ちが、

一気に浄化されてゆくような気になった。

・・・恐らく他の隊員達も・・・。


 「それで、デュオニュソスさん、

 ここに来るまで気になったんですけど、

 空の・・・あれって太陽なんですか?」

 「ん? ああ、あれ?

 あれはヘリオスと他の神々で頑張って造り上げた偽物の太陽だよ、

 まぁ、あれがあるおかげで、植物の生育も可能なので、私も・・・

 あああ・・・そうだ!

 君たち、間違ってもヘリオスと戦ってくれるなよ!

 その時は、君らに呪いをかけて一生、酒を飲めないカラダにしてやるからな!!」


どうやらサルペドンの予想は当たっていたらしい。

そしてこのデュオニュソスの表情は真剣そのものだ。

まぁ、これは彼にしてみれば当然の願いなのだろう・・・。

 

そのデュオニュソスの要求にはサルペドンが答える。

 「わかりました、

 デュオニュソス殿の願いどおりに・・・。

 それでヘリオスのテメノスは・・・?

 なるべくその付近を通らないようにしたいと思いますが?」

 「ああ、そうだな、んーと、いや、大丈夫かも・・・、

 あなたがたは王都ピュロスを目指すのでしょう?

 ここからなら・・・そのピュロスの向こう・・・完全に反対方向だ。

 ま、後はこの村の向こうにある、デメテルの村、

 それと王都近く、光の女神アグレイアの村・・・

 そこらで争い事を起こさなきゃ、まぁ、後は勝手にやってくれ。」


それにしても、夜空を見上げると改めて凄い・・・。

今は夜ということで、光を弱めているのだろうが、

ずっと、あの太陽を上げているなんて・・・。

 

タケルの視線に合わせて、デュオニュソスは話を元に戻す。

 「んん、・・・あれは特殊な能力だ。

 数千年以上も昔、この地下世界に流れ着いた祖先たち・・・、

 その初代ヘリオス達が共同で造り上げた太陽を、

 その後継者たちが力を引き継いで、休むことなく維持しているんだ・・・。

 アルテミスやシルヴァウスが、

 瞬間的に能力を発動させているのとは用法が全く異なる。

 術者が寝ている間も、

 わずかな残留思念でその効果が続けられるようにねぇ・・・。」


それはそれで凄い能力だと真剣に思う。

他にも様々な能力を持った神々が、

この地底での人々の暮らしを可能にしているのかもしれない。

だが、どんなに超常的な能力を駆使してみたところで、

・・・人間は人間の業から逃れられない・・・。

その事をタケル達が気づくのは・・・もう少し後・・・。

 


デュオニュソスは樹木の神なのでしょうか・・・?


なお、この物語のデュオニュソスは、

オリオン神群を「神」などと思っていやしません。


次回のお話は、


お酒に酔ったマリアさんが・・・


ではまた!



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