緒沢タケル編10 酩酊のデュオニュソス デュオニュソス登場
この村では、
スサの一団を歓迎してくれるそうです。
疲れ切った戦士たちの間にどよめきが起こる。
タケルも本心から安心するが、
一応、組織のトップとして心配すべきところは警戒しないと・・・。
「良かった! でもマリアさん、サルペドン、
これが罠である可能性は?」
静かにサルペドンは頷いた・・・。
「そうだな、
いいぞタケル、その可能性に気づいたか。
ただ、恐らくこの村の様子からすると、
争いに慣れてないのは確実と思っていいと思う。
疑うとしたら、飲食物に毒や眠り薬を入れられることか、
ここに他の神々が隠れ潜んでいる、という可能性だけでよいだろうな。
ただ、後者は考えにくい。
どっちにしても、まずはデュオニュソスに会ってみよう。
・・・それでマリアは何飲んだんだ?
味はどうだった?」
マリアさん、顔を赤らめながら・・・お酒のせいか恥ずかしいのか、
これは、タケルも初めて見るマリアさんの表情だ。
「あ、は、はい、
シェリー酒のようなものを・・・少し・・・。
地上ではお目にかかれない極上のものでしたわ・・・。」
酒田さんの目が輝き始めた。
良く見るとクリシュナのおっさんも興奮しているような・・・。
勿論、彼らはそんな軟弱な飲み物以外を期待しているのだろう。
果たして、この村で如何なるアルコールが彼らを待っているのだろうか?
急な来訪者が現れた事は、村中に伝わったらしく、
タケル達が村の入り口をくぐろうとする頃には、大勢の老若男女が彼らの周りを取り囲み始めていた。
とびっきりの笑顔を浮かべる者、
歓声を上げる者、
多少怯えて、人々の隙間からこちらを覗く者、
反応は様々だが、
概して良好な態度で迎えられている事に疑う余地はないようだ。
こっちもミィナと酒田さんが両手をあげて歓待に応えている。
ミィナ、お前、投げキッスしてどういうつもりだよ・・・。
村の中はレンガでできた大きな建物がいっぱいある。
建物の前にはいくつもの樽が並べられているが・・・、
もう、ここまで来たら、それらがほとんど酒蔵か、それに関係する建物である事は容易に判断できる。
村の中央には広場があり、そのど真ん中には、
周りより低い・・・、
それでいてかなりの円周を持つテント・・・
ゲルと言った方がいいのだろうか?・・・が存在した。
村の案内役とマリアが先導するということは、
そこがこの村の主、デュオニュソスの棲家ということか。
暗がりで完全には見えないが、
その大きなゲルの前に何人かが固まっている。
一人は座っているようで、
その前に二人の人間が構えている。
もしや・・・あれが・・・。
タケル達が数メートル前に近づくと、
並んで立っていた二人の男が恭しく頭を下げた。
衣裳からして神官のようなものか?
では後ろに座っているのが・・・。
サルペドンがお返しに頭を下げてから近づくと、
座っていた男はおもむろに立ち上がる。
大きい・・・。
勿論タケルほどでないが、
身長180真ん中のサルペドンと並んでも遜色がない。
薄い衣に包まれた浅黒い肌・・・、
分厚い胸板・・・年の頃は中年辺りだろうが、
上唇にウェーブされた髭を蓄え、頭髪も短めだが、
欧米人によく見る巻き毛タイプ・・・。
そして・・・勿論、既にアルコールが入っているのか、
ニコニコしながらその男はスサのメンバーを受け入れた。
・・・いや、ここで衝撃的な言葉が・・・。
「あー、はぁろぅ~、はうどぅゆーどぅ~
ご機嫌いかがかなぁ、地上のみなさぁん♪
私がこのテメノスの主、デュオニュソスでーす!」
その男の口から流れ出たのは、紛れもなく英語であった。
たどたどしい発音には違いないようだが、
それは確かな言葉遣いである。
そして勿論、スサの人間たちが、
地上からやってきている事も、彼は理解はしているようだ。
では何故、同胞の争いを無視してここまで笑顔を見せるのだろう?
歓待を受けるには、まずそこを確かめてから、・・・だな。
サルペドンが礼儀正しく手を伸ばす。
「・・・初めまして、
突然の来訪にも関わらず、我らをお招きいただき感謝の言葉もありません、
スサの副官カール・サルペドンと申します。
・・・こちらが我らの頭領、緒沢タケルです・・・。
会話は私を通していただければ、
ここの言葉でも対応できますが、一体どこで地上の言葉を?」
ディオニュソスは「ハハハ!」と笑いだす。
「酒のためなら地上でも地の果てまでも行きますよ、
まぁ、滅多に地上に出る機会はないのですがね。」
どうやら、このピュロスを抜け出して、
時々地上に出歩いているということか。
そういう人間(?)もいるんだな・・・。
その後、紹介を受けてタケルもガッチリとデュオニュソスと握手する・・・。
力強く温かい掌だ。
・・・でも酒くせぇ!!
デュオニュソスはタケルの顔を見てニヤッ・・・と、笑う。
ん?
どこかで・・・?
いや、気のせいか、
見覚えなんかあるわけもない。
あるとしたら、
地上で誰か、雰囲気の似ている人間でも見かけた事があったかどうかと言うところだろう。
だが、その笑顔に親近感のようなものを感じたのは確かである。
さて、村の広場には、
簡素なテーブルと椅子が並べられ、
各テーブルには、
燭台と、小皿にフルーツ、おつまみが乗せられている。
基本的にはスサの隊員全てをもてなすための席で、
村の人々は同席しない。
言葉が分からないのだから、無理させることはないということだろう。
それでも、宴席の周辺では村人たちが寄せ集まって、
誰かが号令をかけたら、一斉に各テーブルまで集まってきそうだ。
真ん中の大きなテーブルには、
デュオニュソスと、神官二名・・・
そしてタケルとサルペドン・・・
華も必要と言うことでミィナも同席、
マリアさんは他の幹部と、村の長老格らしき数人とでテーブルを隣につける。
次回は宴会(仮)です。
何故デュオニュソスがこんなにも友好的かの説明も徐々にしていきます。