緒沢タケル編9 森の神シルヴァヌス 無謀なる反撃
幻覚だって?
シルヴァヌスにそんな能力はないはず・・・。
あるとすれば、幻覚作用のあるキノコの胞子でも吸ったのだろうか?
だが、既にタケルが無事だというなら、もはやそれを検証したりする時間はない。
サルペドンは、疑念を抱きながらも次の作戦を伝える。
『まだ天叢雲剣を振るえるか?
ここからの作戦はお前の精神力次第なんだが・・・。』
「言え! まだ余裕だ・・・!」
『そうか・・・、
今お前が天叢雲剣を振るった時、マリアが閃いたそうだ。
先ほどシルヴァヌスが能力を強めた時、
ヤツがどこにいるのか感知できたらしい。
そこで・・・ここから先、
お前は天叢雲剣で放電しながら前へ進め!
お前が能力を使う瞬間、お前の精神の爆発力をマリアは感知してお前の位置をも把握する。
それでこっちでお前とシルヴァヌスの方向をチェックしながら無線を送る。
どういうことか分かるな!?』
え? マリアさんてそんな事出来たの?
いやそれより、何つう強引かつ力技だ!
そんな無茶をやれと!?
・・・いや、やってやろうじゃねーか!!
そういう押しの強い作戦はタケルも大好きだ。
自分の性にふさわしいとさえ言える。
早速タケルは、少し進んでから天叢雲剣を発動!
すぐにサルペドンから無線が入る。
『違う! そこから右に30度!
是正してから進め!』
そういや、距離はどれぐらいなんだ!?
だが、これはかなり効果的な作戦だ。
『少し左にずれてきた!
もう一度右へ10度!』
ええぃ、やかましい!!
行きゃあいいんだろっ!
気をつければいいのは足場だけ・・・。
後は頭上から木々のツタが襲ってこようと、
周りから獣に取り囲まれようと!!
もう踏みしめられた道など関係ない!
目的地まで一直線に!
だが・・・
タケルの本能は危機も察知する!
進む方向の向こうに何かいる・・・!
タケルの毛が逆立った・・・!
だが、先ほどの暗い森のような、絶対的な恐怖は感じない。
これは生物的な・・・まさか、
そうだ・・・
先ほどのデン達を襲った小型・・・
いや、中型げっ歯類の塊り・・・!
ついに奴らはタケル達をも発見し、
その、小さいながらも強力で、更に凶悪な牙を剥き出しにしたのだ!
あっという間に「それら」はタケルの眼前に現れ、見る見る内に増殖していく!
背後の部下はうろたえるばかりで、今にも怖気づいて逃げ出しそうだ。
だが・・・
既にタケルはこんなものでビビりはしない!!
「おめーら、後ろに跳べっ!!」
何を思ったのか、
タケルは天叢雲剣を眼下の柔らかい土壌に深々と突き刺した!!
その間、立ち止まっているタケルに、
遠慮なくネズミどもは群がりはじめた!!
「痛てっ! だ・・・だがな、
・・・今だけだ・・・てめぇら、デンの仇ぃっ!!
覚悟しやがれえぇぇッ!!」
カラダを喰われる痛みに耐えながらタケルが行った脅威の戦法・・・それは・・・!
「ああまぁのぉむぅらぁくうもぉぉおっ!
おめぇも遠慮するなぁぁぁあっ! 消し炭にしてやれぇぇぇぇーっ!!」
なんと!
タケルはその状態で天叢雲剣を発動っ!
当然、雷の刃は土中を伝わるばかりか・・・、辺り一帯の・・・
そしてタケル本人の足からカラダ全体に伝わるっ!!
ああばばばばばばばっばあばっ!!
「タ、タケル様っ!?」
見ていた部下の方が肝を潰した!
タケルをも襲う雷のエネルギーは、
2メートルの身長を誇るタケルのカラダを激しく痙攣させる。
勿論、その強力なパワーにネズミどもが耐えられる訳もない!
耳をも切り裂かれるかと思われるような激しい音と、
腐った肉が焦げるような嫌な匂いが、あっという間に辺りを覆う。
終わってみればなんと呆気ない・・・。
ネズミども全滅・・・。
いや、勿論、遠巻きにいた集団もいるにはいるが・・・、
恐らく、シルヴァヌスからの命令(?)のようなものより、
本能的な恐怖の方が大きいのだろう、
慌てて散り散りに去ってゆく。
後ろに構えていた部下たちは気が気でない・・・。
「あ・・・あの、タケル様・・・?」
見ればタケルは、大きく腰を落とした不動の態勢で、
天叢雲剣を土の中にブッ刺したまま・・・。
周りに煙が立ち上っているようだが、
落ち葉が焼けたのか、ネズミのカラダからか、それともタケルから湯気でも出ているのか・・・、
とにかく本人は無事なのだろうか!?
ビクリ!
あ、動いた!
「タケル様、ご・・・ご無事ですか!?」
ようやく、タケルはカラダを動かし始める・・・。
「・・・お、おお、だーいーじょーおーぶー、
お、お、思ったーとおりだー、
か、カラダが順応してってんぜー、電流によー・・・!」
別にふざけているわけではない、
舌がうまく回らないので、ゆっくり喋ろうとしているだけだ。
そうしながらも、自分のカラダにどれだけのダメージがあったのか、確認しているようだ。
それにしても、つくづく・・・化け物か、この男・・・。
さすがにすぐに行軍を再開できる筈もない。
タケルの膝や足もとも、カラダを流れた電流のせいか、
まだ、うまく自分の言う事を聞いてくれない。
・・・だが、問題はない。
すぐに回復していくさ・・・。
それより、今までの天叢雲剣の発動で、精神エネルギーをかなり消費している筈だ。
シルヴァヌスの所に辿り着くまでに、
彼の潜在エネルギーは持ちこたえていられるのだろうか?
サルペドンはタケルに付いている二人の部下に、
タケルの前衛になるよう指示を送った。
タケルとしては、これ以上、仲間に被害を与えたくないのだが、
タケルがシルヴァヌスを倒す唯一の能力を持てる戦士である以上、
他のメンバーは可能な限り、タケルの負担を減らさねばならない。
例え、自らのカラダを盾にしようとも・・・。
あと一息です。
次回、ついにシルヴァヌスと対面です!