緒沢タケル編9 森の神シルヴァヌス 牙を剥く森
そこまでのやりとりの結果は、
無線でクリシュナ部隊やグログロンガにも伝わった。
彼らは彼らで、様々な森のトラップに悩まされながらも、今の所は大怪我を負うこともなく森を進んでいた。
・・・一方、再び感知能力を使い始めていたマリアが危急を告げた。
「サルペドン! 皆に連絡を!
森の中の悪意が強まりました!!」
それと前後して、
デンの後にぴったりとくっついてきたアイドメネアが、
デンに向かって叫び声をあげる。
何事かと彼が振り向いたとき、すぐに彼にも異変が分かった。
アイドメネアの後ろの方角から何かがやってきている・・・!
繁みで見えないが、音で分かる。
何かが・・・
大量の何かがそこまでやってきている。
慌ててサーモスコープをかぶってようやくその正体が判明した!
小動物の群れ・・・恐らく・・・ネズミだ!!
いや、でかすぎる!
一匹だけで体長30センチは上回る!
森の中の生き物まで、シルヴァヌスの意のままだというのか!?
デンにできたのは無線でこの状況を他に伝えること・・・!
後は・・・今ある武器では・・・!
拳銃で撃とうが石を投げつけようが焼け石に水である。
せめて火炎放射機でもあったなら・・・。
ネズミの群れはあっという間にアイドメネアに追いつき、
彼女の足元を齧りついたのだ!
「ぎゃあっ!!」
ちょっと待て・・・。
そいつは・・・その子は!
お前達の・・・オリオン神群の同胞じゃねぇのかっ!?
な・・・なんでその子まで・・・
「何でその子まで攻撃するんだ、てめぇらぁっ!!」
草むらに倒れこんだアイドメネアを、デンは覆いかぶさってネズミを払いのける。
離れろっ! 離れろよっ!!
このクソ鼠どもぉっ!!
だが、払っても払っても、ネズミの大群は二人のカラダに群がり続ける・・・!
終いにはデンのカラダもネズミに食われ始めた!!
「あぅっ、ああ! うっう、!
デン! でんっ・・・!」
見る見るアイドメネアのカラダが血まみれに・・・、
いや、ネズミどもに埋もれてゆく・・・。
何とか彼女のカラダを抱きかかえて・・・
せめて樹木の上に・・・ぐわぁぁっ!!
「デン様っ!!」
部下たちが駆け寄るも、もはや何の助けにもならない!
あっという間に彼らもネズミの海に飲み込まれる!
一度はアイドメネアを抱え上げたが、
戦闘員でもないデンではこれが限界だ。
足元は今やほとんど齧られ続け白い骨が露出し始めている。
しかしそれでもネズミは齧るのを止めない。
アイドメネアを見捨てて逃げだせば、
デン達は助かったのかもしれないのに・・・。
だが、デンにそれはできなかった・・・。
普段、直接戦闘に参加しないデンは、
ある種コンプレックスのようなものを常に抱えていた。
タケルやグログロンガを常に危険に晒しながら、自分は安全な所に・・・。
勿論、デンの役目はスサでも最も重要な仕事であるし、
誰もその事を責める者などいる筈もない。
だけど、・・・自分だってカラダを張れるんだ・・・、
ダイアナだってその身を賭けたじゃないかっ
なら・・・自分だって・・・
オレだって・・・!
美香さ・・・ま
「アアヴァう、 でん・・・でん!!
あっぁああっ!!」
ネズミの海から最後まで宙に伸びていたのは、
アイドメネアの白い・・・小枝のように細い腕・・・。
やがてその指は何かをしようと最後まであがき続けていたが、
次第に意志を失い、
痙攣のみ反応をはじめ・・・
やがて、その腕すらも・・・
ネズミ達の餌となり果ててしまう・・・。
未だ無線は機能を停止していない・・・。
そこからは、
『デン! 応答しろ!! デン! デンッ!』
という、サルペドンの悲痛な音声のみ送られてくる・・・。
だが、その声に応えられる者は、
もうここにはいない・・・。
「・・・なんてことだ・・・
このままでは全滅か・・・?」
サルペドンの声に力はない・・・。
デンの最後は、
「ネズミ」に襲われたという必死の声で、大方の予想はつく。
だが、今森の中に入っている全員でも・・・
それを防ぐことはできないのではないか?
狼や虎辺りの肉食獣なら、タケルでも何とかは出来るだろう。
だが、他にどんな手段を使われるかわかったもんじゃない。
一体、どうすれば・・・。
後ろで酒田のおっさんが森に火をつける事を提案するが、
なるべくならそこまでの事は避けたい。
そこまでやってしまったら、
人間による自然破壊を糾弾していた騎士団達の意志をも汚すことにもなる。
だが・・・、
もう一つ・・・サルペドンの計算や予想を無視した者がいる・・・。
タケルだ・・・。
彼もデンとサルペドンのやりとりは聞いていた。
デンの小隊と、奇形で生まれてきた村の娘が襲われたこと・・・。
デンが最後に選択した行動、
もしかしたら、デンがアイドメネアを見捨てて逃げ出していたならば、
彼の命は助かったのかもしれない。
そんな、デンの誇り高い意志を、タケルが知る由もなかったが、
彼の怒りに火をつけるには十分すぎるほどだった・・・。
「タケル様・・・!?」
「・・・俺の傍に近寄るな!
巻きこまねぇ保証はねぇ・・・っ!」
既に天叢雲剣は放電状態にある。
彼が敵と認識した者は、容赦なく雷撃の牙が襲いかかるだろう・・・。
・・・そして、タケルの感情に呼応するかのように、
このシルヴァヌスの森・・・最大の異変が・・・、
いま、彼の周辺で起き始めていたのである・・・。
マリアの様子がおかしい。
それに気づいたサルペドンは思わず声をかける。
「マリア・・・?」
「タケルさんのすぐ近くに・・・
闇が・・・これは!?
ノイズの正体・・・闇の・・・
暗黒の塊・・・!?」
次回・・・
久しぶりの登場となります・・・!