緒沢タケル編9 森の神シルヴァヌス 少女アイドメネア
あれ?
いつもの時間に更新されてない?
遅れてすみません。
それとぶっくまありがとうございます!
サルペドンは無線越しに会話を試みるつもりだろうが、この少女に状況は理解出るのか?
少女を怯えさせないように、
デンは、ゆっくり少女に視線を合わせ、
ぎこちなくも笑みを浮かべて無線を近づける。
少女も多少なりとも怖いのか、
釣られるような動作で、後ろに下がろうとする。
ああ、その位置のままで・・・。
「サルペドン、この位置で試してもらえますか?」
応答を切り替えるとすぐにサルペドンの渋い声が届いた。
『あー、少女よ、私の声が分かるか?
言葉が分かるなら返事をしてほしい。』
当たり前の反応だが、少女は仰天かましている。
デンの腕の先の箱から人間の声が聞こえてきたのだ。
無線という道具を知らない者は驚愕するだろう。
それでもデンは、
もう一度少女に視線を合わすと、出来る限り優しげに頷いて見せた。
・・・少女はゆっくり顔を近づける。
「あ・・・あーあの・・・わがりまず・・・。」
言葉が通じた!
カラダに障害が現れているが、知能そのものに影響はないのだろう。
『よかった、我々は地上からやってきた者だ、
この地に住む者に敵意はないが、
現在、この地のシルヴァヌスと交戦状態にある。
だがどうして君はここに一人でいる?』
少女は首を揺すりながら、無線での会話を楽しみ始めたようにも見える。
「あ、あー、おとーどのくすりきれた・・・、
しるヴぁぬすさまに出ちゃいげない、いわれた、
でもくすりないとおとーど、くるしい・・・。」
サルペドンの方は事態を理解した。
どうやらこの少女は戦闘に巻き込まれたということか、
サルペドンは少女を安心させる。
『そこにいる男はデンと言って私の仲間だ、
君と言葉を交わす事は出来ないが信用していい、
君に名前があるなら教えてくれないか?』
「・・・なまえ、んふぅー、あ、あいどめねあ・・・。
ておよどえら・・・あいどめねあ・・・。」
そこでサルペドンはデンを呼び出す。
『デン、代わってくれ。』
「はい、こちら、デン。」
『その少女の名は、神の女奴隷アイドメネア、
シルヴァヌス直属の奴隷ではない。
身分上は、それぞれの共同体に管理されてる農奴のような身分だ。
現代感覚なら、汚れ仕事も請け負う下っ端の公務員と考えればいい。
弟の薬草か何かを取りに来て、この状況に陥ったということだ。』
「了解、そんでどうしましょう?」
『とりあえず助けてやったらどうだ?
ただ、その後どうするかは考えろ、
人質にするか、案内役を頼むか、そのまま逃がすか・・・。』
「うぇえぇ、私が判断しろってですかぁ?」
さっき、タケルが敵兵を逃がしたばかりだし・・・。
とりあえず、
デンは彼女の足に絡み付いたツタを取ってやる。
確かに強力に巻きついているようだ・・・
これでは女の力で剥ぎとるのは難しいだろう。
デンは苦労しながらも、そのツタをサバイバルナイフで切断すると、
今度はあっさりとツタが離れてゆく。
ベリリと、少女・・・アイドメネアは、
両手で完全にツタを引っ剥がすと、ヨロヨロと立ち上がり、
その頬の筋肉を歪ませた・・・。
笑い顔・・・なのかな?
「デン・・・でん?」
ははっ・・・。
「ああ、オレの名前はデンだよ、アイドメネア・・・。」
アイドメネアはもう一度笑ったようだ。
その後、彼女は先ほど顔面を怪我した隊員の方を見ると、
びっこを引き摺りながら、茂みのさらに奥へと進む。
すぐに彼女は振り返ってデンを手招きする。
何かあるのだろうか?
足元や周りを注意して、デンは慎重に進む。
じっと待っているアイドメネアの傍までもう少し・・・
と言うところまで行くと、 彼女はいきなりデンの手首を捕まえた。
あれあれっ?
戸惑うデンに、アイドメネアは空いたもう一本の腕で、少し先の樹木を指さししている。
いったい何?
デンは科学技術知識は優れているが、植物の事はわからない。
彼女はその樹木の、太めな枝を折ろうと躍起になっている。
デンが彼女の意志を汲むべく、
その樹木の枝をギコギコナイフで切り取ってやると、
アイドメネアはその枝の断面から滴り落ちる、白い樹液を手のひらに落とした・・・。
まさか・・・。
続いて彼女は、力強くデンを引っ張りはじめた。
顔を怪我した隊員の方へ!
今は包帯を巻き終えた隊員の顔を指さすと、
次は「外せ」というジェスチャーが。
デンがもう一人の隊員と顔を見合わせるが・・・、
どうやら意見は一致したようだ。
デンは半信半疑で、怪我した隊員の包帯を外す。
すぐにアイドメネアは樹液を両手でこすりあわせると、
顔面が焼けただれたようになっている隊員の顔に、まんべんなくその両手を這わせ始めたのだ。
最初は苦痛に顔をゆがめた部下だが、
その内、カラダの力も抜けてきたようだ・・・。
「あ、あ、・・・不思議だ・・・、
痛みが引いてゆく・・・?」
どうやらあの樹液に鎮痛作用か消炎効果があったのだろう、
アイドメネアの恩返しと言うことか。
新しいガーゼに残りの樹液を垂らし、
もう一度、包帯を巻いて手当は完了した。
デンは嬉しくなって、
思わずアイドメネアの両手を握りしめて「ありがとう!」を言う。
あまり「女性」を意識するような風貌でもないが、当のアイドメネアにしてみれば過剰なお礼表現だったらしく、
いきなり慌ててうつむいてしまった。
ああ、そうか、女の子なんだもんな・・・。
幾分後悔したデンだが、まぁ気にすることもないだろう、
どうせ、自分はこの後、ここを離れるのだし・・・。