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緒沢タケル編9 森の神シルヴァヌス 渦巻く感情


驚いたのはそれだけではない。

苦痛に歪むその顔も異様だ・・・。

骨格自体が人間のそれではない。

こいつは本当に人間と言っていいのだろうか?

眼球は浮き出て、額や頭部が異常に小さい・・・。

喉には首を伸ばした鳥のヒナを思い浮かべるような筋が走っている。

まさか・・・。


 「・・・おい! てめぇ、何もんだ!?」

とは言ったものの、

よく考えればタケルの言葉はこいつらに通じない。

さらに言うと、

巨大で筋肉の塊のようなタケルに凄まれて、この男は怯えることしかできない。

何しろ、片腕を封じられた後は、この貧弱な下半身しかないのだ。

足で物を掴むのは器用そうだが、カラダを支える程の力はないのだろう、

逃げる事も叶わず、ただうずくまるだけだ。

 「あっぁ あう っう!」

と、後は言葉にならない呻き声をあげるのみ・・・。

部下に男を縛らせた後、タケルはサルペドンに無線を入れた。

 


 「・・・とゆーわけなんだが、サルペドン。」

今までの経過は省略しておく。

同じ説明は皆様には必要あるまい。

さて、サルペドンは少し考える時間を要してから返答を送った。

 『タケルにはどう見えるんだ?

 人間とは違う生き物なのか?

 それとも、なんらかの障害に見えるのか?』

 「障害?

 ああ・・・そういえばそうも見えるな。

 知能はちゃんとありそうだし・・・。」

 『なら・・・もしかすると、

 そいつは放射能を浴びて生まれてきた存在かも・・・。』

その言葉にタケルはショックを受ける。

 「ええっ!? こいつが!?」

 『私も医者じゃないし、この目で見てないのでなんとも言えんが・・・、

 この地下世界に人権意識などないだろう、

 まともな姿でない者は地位の低い仕事に就くか、

 こうやって末端の兵になるしか・・・、

 どちらにせよ、放射線障害や遺伝子異常を持って生まれたら、

 そんなに長生きも出来んだろう・・・。』

タケルは思わず、その怯える男を見下ろした・・・。

 

 こいつも・・・。


タケルはかつての出来事を思い出さずにはいられない。

いつかの府中の製薬工場で見たもの・・・。

騎士団の日浦義純が案内した、この世の闇で日常的に行われている風景・・・。

異常出生や人体実験、人身売買など、

普通に人生を送っている者ならば想像もできないような世界。

そして一般人は、

彼らのような助けを呼ぶこともできない犠牲の上に、

安心して日々を過ごしてきたことも気づかずに・・・。


やり場のない怒りがタケルの心を覆っていく・・・。

確かにこいつらを生み出してしまったのは地上の人間・・・、

だが・・・だけど・・・。

 『タケル?』

サルペドンの無線がタケルを我に戻した。

 「あっ、悪ぃ、

 サルペドン、それで何だ?」

 

 『・・・いや、それでその男をどうするんだ?

 言葉が分からなければ道案内もできないだろう?』

 「ああ・・・こいつは解放するよ・・・、

 もう戦意は喪失してる・・・。」

 『そうか・・・、だが油断するなよ? 

 演技と言うこともある。』

 「心配すんな、

 二度と歯向かえねーよー、脅しとくさ。」


そこで無線は終了させる。

ただ、連れてきた部下は少し納得がいかないようだ。

 「いいのですか、タケル様?

 こいつは我らの仲間を殺して・・・。」

そこでタケルは、もはや動くこともなくなった部下の遺体に目を向ける・・・。


もちろん、悔しい・・・

側近ではないとはいえ、騎士団との戦いの時から戦闘時には行動を共にしていた。

喋ってでもいないと、怒りがこみあげてくる。

だが、それらの感情を、この放射能に冒された敵兵にぶつける気にはどうしてもなれなかったのだ。

 「・・・すまん、親しかったのか・・・。」

 「勿論です! タケル様とは接点は少なかったのでしょうが、

 私とは5年も同じ部隊で一緒にやってきたのです!!

 せっかく騎士団戦でも生き延びて、こんなところまで、や、やってきたのに・・・。」


それはタケルに対するあからさまな抗議の視線だ。

復讐するのが当然の行為、ここでタケルの下した判断は間違っている・・・

そう指摘されているのかもしれない。

・・・否定できない。

確かに仲間を殺されて悲しいのは、自分よりも、この部下の方だろう。


だけどこれは戦争。

しかも・・・いや、少なくともこちらは相手が憎くて戦っているわけではない。

その上で殺し合いを行っているのだ。

相手が降伏したらそれまで。

それ以上、命を奪うのならそれは殺戮だ。

それは自分たちの目的ではない。


 「・・・敵はこの男に命令を下した奴だ・・・。

 落とし前は付けさせる・・・。

 必ずだ・・・!

 それで納得してくれないか・・・?

 俺には・・・地上のオレたちのせいでこんな姿になったヤツを、これ以上どうこうする気になれない・・・。」


最後の言葉に、部下は一瞬だけ顔を強張らせる。

タケルの心情にも気が付いたのか、部下もようやく「はい・・・」と頷いてくれた。

もちろん、全てを納得したわけでもないだろう。

・・・それはタケル自身同じことだ・・・。

正直に言えば、今も内心、これで良かったのか迷い続けている。

単に、一度言葉として口に出してしまったから、もう行動を翻せない・・・

その程度で自分のカラダを動かしているだけなのではないだろうか。


結局、それ以上、会話もなく、タケル達は敵兵の縄をほどき、傷口を応急手当てしてやった。

敵兵の方にしても、怯えつつもあり戸惑っているようでもある。

止血と包帯の処置が終わると、

タケルは剣を振って「行け」と合図した。

敵兵は完全に自分が殺される事も覚悟していたに違いない、

タケルの真意が理解できないようだ。

 ・・・まぁ、どうだっていい。

タケルは天叢雲剣を頭上に振りかざすと・・・、

溜めていたフラストレーションを、雷撃のエネルギーに換えて頭上へとぶちまけた!

 

霞がかかる森の中を青白い無数の刃が切り裂いていく!

男は腰を抜かして驚くと、ヨタヨタと不格好に逃げだし始めた。

例の足では普通には歩けないのか、

近くの巨木を見つけると、

ここまで来た時と同じように、なんとか登り始めるも、

肩口の痛みのためか、これもつらそうに登っている。

その姿を確認すると、タケルは興味を失い、元の目的のために探索を続ける。

だが・・・タケルの心中は、数々の思いで渦を巻いていた・・・。


 ・・・自己満足? 偽善?

 そうかもしれない。

 だからどうだって言うんだ。

 自分が正義だとか、善行を行ったつもりなんかさらさらない。

 あの男が、一つ行動を異にしていたら、遠慮なく命を奪っていただろうし・・・。

 今までの戦いだってそうだ。

 敵を殺す・・・助ける・・・。

 その違いに明確な基準を設けていたつもりもない。

 どうしても許せないヤツはいたが、

 仮に相手が心底から罪を悔いる気持ちを見せれば、

 殺さなくても良かったかもしれない・・・。


そしてその事は、

・・・その考えはタケルに別の解釈も気づかせる・・・。

   

 なら・・・別に出会う者、

 片っ端から殺してったって・・・。




一方、サルペドン側にも変化があった。

マリアが一度、術を停止させていたのだ。

 「マリア、どうだ?

 何か分かったのか?」

 「・・・サルペドン、

 ノイズが一瞬だけ強まりました・・・。」

 「それは何だ?

 シルヴァヌスの能力の影響か?」

 「いいえ、それとは明確に性質が違います。

 シルヴァヌスの力は、森全体を真綿のような白いイメージで覆っていますが、

 ノイズはどちらかというと、

 ・・・黒い・・・闇の・・・。」

 「黒い闇?

 タケルが天叢雲剣を使った時でもないのか?」

 「あ、・・・それは・・・。」

 「タケルの精神エネルギーは未だ安定していない。

 故に、時おり剣から洩れる力をお前は感知しているのではないか?」


だが、そのサルペドンの予想にマリアは納得できないようだ。

 「いえ、サルペドン、

 確かに天叢雲剣の強い発動はありました。

 彼の不安定な力が私の感知能力に引っ掛かることもあるでしょう、

 でも、それとも違うのです。

 ・・・ただ・・・

 確かにタケルさんが能力を使う前後、

 ノイズが激しくなったのも事実です・・・。」 

 



次回、別動隊のお話になります。


ノイズやら黒い何とかの話は一度置いておいて下さい。

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