緒沢タケル編9 森の神シルヴァヌス 異形なる襲撃者
二人目の犠牲者です・・・。
「おい! 大丈夫・・・うっ!?」
襲われた隊員は、そのまま地面に崩れ落ちる・・・。
既にその時、隊員の目に光はない・・・。
地面に横たわった彼の頭部はざっくり割れていたからだ。
やられた・・・、
ここでも犠牲者が・・・
「畜生!
だが、いまのは動物じゃ・・・!?
シルヴァヌス!?
こうやって背後から襲ってくるのがヤツだというのか!?」
どんなにタケルの攻撃力が高くとも、
相手の存在を捉えられなければ攻撃しようがない。
サルペドンにも言われている、
敵がどんな手を使ってこようとも、文句は言えない。
この条件下で敵を倒すには・・・!?
その時、タケルの無線にサルペドンの声が入ってきた。
『・・・聞こえるか、タケル!
応答しろ!』
タケルは周りの警戒を怠らないようにしながら無線をとる。
「こちら、タケル、
・・・こっちにも犠牲者が出た。
周りにまだ敵はいる筈だ、手短に頼む。」
『そうか・・・!
その敵だが、森の中に何人か潜んでいるらしい!
気をつけろ!』
「何人か?
敵はシルヴァヌス一人じゃないのか?」
『森を操っているのはシルヴァヌス一人だ!
だが、そいつにも配下の兵がいるだろう。
例え今の敵を倒したとしても油断するな?
それで終わりではない!』
成程、考えてみればそれは当たり前である、
タケルは納得しながらサルペドンに礼を言う。
「オーケィ、あんがとよ!
これからこっちも反撃を試みる、
無線取れなくとも大目に見てくれ!」
『いや、もう一つ!』
「ん?」
『うまく説明できなくて悪いが・・・
敵の他にも何かある・・・!』
「あ? どういうことだ、そりゃ!?」
サルペドンも、なるべく多くの事を伝えたいのだが、
現在タケルが敵の攻撃を受けている真っ最中ならば、優先度の低いものを伝えている余裕はない。
マリアが感知中に気づいたノイズとやらは、放っておくしかないだろう。
『いや、悪い、気にするな、
そのまま敵の警戒にあたれ。以上だ!』
なんだい・・・!?
まぁ、確かに今はどうでもいい。
最優先すべきは敵の排除!
タケルは残る二人の部下に、自分から離れるよう指示をした。
最低でも自分自身のカラダを守るようにと・・・。
では自分は・・・。
めくらめっぽう天叢雲剣を放ったところで、周りの植物を焦がすだけだろう。
息を潜めて相手の動くのを待ってもいいが・・・、
同じ土俵なら、
・・・いや土俵は一緒ではないのだ。
常に相手に有利な状況を作られているはず。
こちらから動くしかない。
タケルはゆっくり立ち上がると、周りの木立を薙ぎ払った。
足もとに障害もないかどうか確認すると、
握りしめた天叢雲剣を高々と掲げ、
ゆっくり・・徐々に速度を上げつつ、ひらりと舞い始めた・・・!
「祓いの剣」・・・!
緒沢タケルは、
胸元の紋章と、右手の天叢雲剣の効力により、
その精神力を人間以上のレベルにまで高め、雷撃を放出できる。
それは、マリアが現在行っているような、感知能力とは全く異なる原理による超常能力だ。
雷撃を「動」とするなら感知能力は「静」である。
故に、緒沢タケルが無類の破壊力を持つ雷撃を得意としても、
その対照的な能力である感知系に優れているとは決して言うことはできない。
では、彼が取った手段は何なのか?
それは超常現象とは全く異なる方法・・・、
修行や実戦を重ねた武術家が辿り着く、その道の最高峰の境地に身を置くこと。
祓いの剣は、その舞を繰り返す事によって、
自らの余計な雑念や意識を排し、研ぎ澄まされた精神を以って、
自らの周囲に絶対的な結界を創り出す。
その結界に侵入した者は、
タケルの意識を経由することなく、彼の五感が反応した瞬間、その刃によって切り刻まれるのだ!
一方、タケル達を狙う側から見れば、
突然、一人の巨大な男が剣を取って踊り出したのを見て、自分の目を疑うだけだろう。
もしくは敵の頭がおかしくなったのかと考える。
この・・・森の守護者・・・
シルヴァヌスの忠実なる刺客は、
森の木立から木立へと飛び移りながら、
自らの気配を森に同化し、今や・・・タケルの頭上に・・・。
「ああっ!?」
タケルの配下が「それ」に気づいたとき、
既に、その攻撃者はタケルの頭上から鋭い凶刃を振り下ろす瞬間だった!
その刹那、
タケルの全身が波打つ!
敵の刃はタケルの顔面をかすめ、
それと同時に美しく弧を描いたタケルの剣は、
まるで吸い込まれるように頭上の敵のカラダを切り裂く!
「ヒィッ!」
悲鳴と同時にタケルの頭上から血飛沫が飛ぶっ!
続く第二撃を撃ちこむまでもなく、
直後、頭上から暗緑色で覆われた塊が落ちてきた。
見れば肩口から大量の血が溢れ始めている・・・。
この大怪我では逃げる事は出来ても、反撃することはできまい。
すぐにタケルの部下がやってきて、この男を捕縛しようとすると・・・。
「うっ!?」
部下は何を驚いたのだ?
「おい、どうし・・・ 」
その瞬間タケルも息を飲んだ。
頭上から攻撃してきたのは間違いなく人間だと思ったのだが、この異様な姿は・・・!?
「な・・・なんだぁ、こいつはっ!?」
その姿・・・
保護色になるように暗緑色で染められた衣服の下・・・、
地面に落ちた人間の下半身は、
まるで小枝のように細いのだ・・・。
そしてその関節も、
人間のモノと言うより、小型猿でも連想せざるを得ない。
それに、その襲撃者の足の踵やつま先は、まるで・・・
足と言うより、手のひらのような形に・・・。
次回、少々グロいかも・・・。
アルテミス戦はほのぼの(?)で終わりましたが、
そんなうまい話が何度も続くはずもないのです・・・。