緒沢タケル編9 森の神シルヴァヌス 最初の犠牲者
ぶっくまありがとうございます!
「今、底なし沼って言わなかったか!?」
その言葉を否定できる者はいなかった。
確かに自分達が歩いている道は、落ち葉や枯れ草が積み重なり、柔らかな感触を彼らに与えている。
だが、ここは「道」である。
何人もの人間や獣も足を踏み固めているであろう「道」のはずだ。
斥候がわざわざ道を離れ、底なし沼のある場所まで迷い込んでしまったというのか?
それとも途中、何かを見つけ、ルートから離れてしまっただけなのか?
無線を持つデンは、もう一度、無線を試みる。
「斥候! 繰り返す!
落ち着いて明瞭簡潔に現在の状況を説明しろ!!」
ジジ・・・ ジジジ
『・・・途中で隊員の一人がぬかるみに足をとられました!
ところが、そのうちぬかるみが突然、拡がり始め、その隊員のカラダを飲みこみ始めたのです!
今まで救助を試みていたのですが、
・・・残念ながら・・・たった今!
全身が泥沼に浸かり・・・!』
なんということか!
ついにこの地底世界で初めての犠牲者が・・・、
いや、まだ助ける事が出来れば蘇生できる筈・・・。
「その場所はどこだ!?
急いで救援を送る! 今どこにいる!?」
『橋の袂から歩いて20分ほどの場所です!
道は途中いくつか分かれていましたが、真っすぐの道を選択して進んできました!
目印に、頭上の先端が見えないほどの巨大な古木があります!』
「行こうっ!」
すぐにタケルをはじめ、何人かの人間が救助隊を作り先を急ぐ。
真っすぐの道で良いというなら、急げばそんなに時間はかからないはずだ。
バサバサッ!
「うっ!?」
ギャーッ!! バサバササっ!
だが彼らのゆく手を遮るかのように、大きな鳥がタケルの顔面付近を威嚇しながら飛び去ってゆく。
これも地上で見覚えのある種ではない。
キジのように尾は長いが真っ黒でカラスを思わせる。
・・・だが今はそんな事に構っていられない。
急がなければ!!
・・・タケルは背後に3人の部下を引き連れ、沼にはまった仲間を助けるべく、大急ぎで現地に向かう。
もう周りの景色を観察している余裕はない。
途中、確かに幾つか分かれ道がある。
先程の報告だと、真っすぐの道を選んでいたというが・・・。
「・・・おい?
もうかなりの距離を進んでる筈だよな?
道は間違っていないよな、これで・・・!?」
結構な距離を急いできたはずだが、一向に斥候の居場所も、巨大な古木とやらも見かける気配はない。
部下の一人が確認の無線を入れる。
「斥候部隊に告ぐ、
そちらは位置を変えていないか?
まだそちらの所在が確認できない。」
ジジ・・・
『こっちは移動もしていない!
救援はまだか!?
これ以上は沼から引き上げたとしても、もう・・・!』
タケルは急いで判断を下す。
「無線で伝えろ!
オリオンの奴らに気づかれても仕方ない!
銃を空に向かって発砲するんだ!」
「しかし、この地形では、
霞や洞窟に音が吸収されてしまうか、反射して位置が分かりにくいのでは?」
既にこの場所が、洞窟という概念に収まるのかどうか、彼らに確かめる術はない。
あくまでも彼らの認識上での言葉である。
そしてタケルの考えは、ここが洞窟であろうがなかろうが、関係ない話だ。
「別に発砲音だけに頼るつもりはねーよ!
大きな音をぶっぱなせば、斥候近くの森の鳥たちが騒いで飛び立つはずだ!
オレ達はそれらのどれかにでも反応すればいいんだ!」
すぐさま部下が同様の内容を相手に伝える。
間もなく、斥候チームの拳銃の音と、
タケルの言ったように鳥たちのざわめきが・・・!
「あっちか・・・!?
・・・てあっちはオレ達が今来た方向じゃないか!?」
「我々は追い抜いてしまったというわけですか!?」
「考えても仕方ねぇ! 行くぞ!!」
すぐにタケル達は元来た道を戻り、
先ほどの鳥たちのざわめきのある方向へと向かう。
・・・だが、
確かにここまで歩いてきたはずの獣道が、
銃声のあった方向からずれていき、
いつの間にやら、全く見当違いの方角へと離れていく。
少なくともタケルにはそれだけは確実に理解できた。
いったいどうなってるっ!?
「タケル様・・・!
これはまさか我らは・・・!?」
まさかでなくとも、道に迷ったらしい。
少なくとも今向かっている道は、斥候の待っている場所でもないし、
残りのスサ一団が待機している場所でもない。
・・・迂闊だった!
「人の住んでいる地域」だという勝手な思い込みで、目印も何も残さず進んでしまったとは!?
悔やんでも始まらない、
タケルは自らの失策に恥じながらも、
本隊に無線を飛ばして、次善の策を乞う。
・・・地上ならGPSが使えたのだろうが・・・。
一方、報告を全て聞いたサルペドンは舌打ちをする。
タケルの短慮を責めるつもりは毛頭なかった。
これは恐らく・・・。
「・・・タケル、落ち着け、
お前のせいだけとは限らない。
既に私たちは森の神シルヴァヌスの術中に陥っているのかもしれない・・・!」
『えっ!? 術中って!?』
「アルテミスのように、直接、攻撃をかけてくるとは限らないんだ、
森の神の能力なら・・・
この森の形を自由に変えたり・・・、
そう言えば、先程お前は鳥たちを飛び立たせたな?
あれすらもシルヴァヌスの幻惑の手段かもしれない・・・!
私も迂闊だったよ、
道の真ん中に底なし沼があると聞いて、
その不自然さに警戒すべきだった!!」
『ちょっと待て!
それって・・・具体的にどんな能力なんだ!?』
「今、言った通りだ・・・
ヤツは森を自由に操れる。
それが森の神シルヴァヌスなのだ・・・!」
お互い後悔しても始まらない。
サルペドンは隊を幾つかに分け、さらに捜索隊を組む。
ミイラ取りがミイラになる訳にもいかないので、道の分岐点では必ず目印を残す事を徹底させる。
デン部隊、クリシュナ部隊、グログロンガ部隊・・・
それぞれに無線を持たせ、
斥候やタケル達を再合流させないと・・・。
もう、沼に引き摺り込まれた部下は、
残念だが諦めるしかないのかも・・・。
ついに犠牲者が・・・。
次回、マリアさんが隠された能力を。