緒沢タケル編8 狩猟の女神アルテミス 窮地
アルテミスは再び弓をつがえる!
この距離では、いくらミィナの反応速度でも叩き落とせるわけもない。
やっべ!
見っともなく転がりながら後ろ斜めにミィナは回避!
ギリギリでアルテミスの弓矢は、ミィナの背中をかすめて飛んでゆく。
あっぶねぇぇっ!!
何とか態勢を立て直すも、
既にアルテミスとの距離は、彼女の鞭の攻撃範囲の遥か外。
もう一度接近しなければ、アルテミスを倒すことは不可能だ。
・・・だがこの距離では・・・。
「あらあら?
行っちゃったの?
今は、あなたの攻撃が無駄である事を教えてあげるために、
わざと近づかせてあげたのよ?
もう・・・同じようなチャンスはないけど・・・
その位置で・・・いいの?」
更なるアルテミスの攻撃!
今度は真っすぐミィナを狙わず、水平より30度ほど上に向かって・・・。
シュパッ!
「上かよッ!」
今度は山なりの軌道を描いて、ミィナの頭上から落ちてきた!
矢の射出スピードから考えれば、物理上不自然、いや不可能な落ち方だ!
すぐさま鞭で反応するも・・・。
・・・無理だ!
待機状態で地面に垂らしている鞭を頭上にまで振り上げる動作は、スピードも正確性も、その真価を発揮できる動きではない!
「きゃあっ!」
ミィナの腕から鮮血が飛ぶっ!
直撃は避けられたものの、アルテミスの放った矢は、ミィナの皮膚を10センチほど切り裂いた!
「はぁい、次ぃ♪」
アルテミスは容赦しない。
今度は2本連続で左右に撃ち分ける!
二つの矢は左右から大きな弧を描いて、
ほとんど同時にミィナのカラダを喰い破るのだ!
「アグゥッ!」
戦いを見守っていたタケルは、
ようやく、先ほどサルペドンが放ったセリフの意味に納得した。
『レーザーを使用したとしても、照準を合わす動作が間に合わない』
このアルテミスは矢を放つ時、狙いを定めていない。
言葉は悪いが、めくらめっぽう撃っているだけである。
そこから先は、自分の能力で敵を追尾しているのだ。
故に、ハナから「狙いを定める」時間を必要としないのだ。
目の前で女の子が血だらけになる姿を、黙って見ていられる訳もない。
タケルが思わず天叢雲剣に手をかけようとするも、
アルテミスは未だ余裕か、
放った一本の矢をタケルの足元に突き刺した!!
「うぉっ!?」
「・・・行儀が悪いんじゃないかしら、
カッコいいお兄さん?
女同士の一騎打ちを望んだのは、そ・ち・ら!
まずはこの子が、
無残な姿になるのを指を咥えて見ててごらんなさぁい?」
その時、またもやミィナがチラ目で叫んだ!
「・・・テメェ、タケル!
手ぇだすんじゃねーぞぉ!!」
自力でここからどうにか出来るというのか!?
ミィナはアルテミスの一瞬の隙をついて、
またもや自らの間合いに収めるべく、
砂埃を巻き上げながら必死の接近ダッシュ!
「無茶だ! 真っすぐ突っ込んだって・・・!」
タケルの言葉の後にサルペドンも反応!
「いや、タケル! むしろ・・・」
ミィナとアルテミスの武器特性からすれば、
実はミィナに有効な攻撃は、
真っすぐに距離を詰める事だけがたった一つの手段なのである。
距離を詰めれば詰めるほど、
アルテミスの「物体誘導」の効力は、
その物体の初速に阻まれて、大きく軌道を曲げる事が出来ない。
つまり、二人の距離が近ければ近いほど、
それは普通の弓矢の攻撃なのである。
アルテミスはそれを知っているが為、
わざと最初に「ミィナの接近攻撃が無駄である」ことを見せつける必要があったのだ。
だが、至近距離ならミィナも反応出来ないこともまた事実。
では彼女は・・・!?
アルテミスがミィナに向かって矢を放った瞬間!
ミィナは小さく前転してギリギリ弓矢をかわす!
2発目を放つ隙など与えない!
このアタシの怒りパワーの籠った一撃を喰らえっ!!
アルテミスが慌てて次の矢を打ち込もうとした刹那、
ミィナの鞭のロッド部分でアルテミスの弓を叩き落とす事に成功!
「きゃあっ!?」
「へっ! ザマミロ!
もう、お前に勝ちはねぇっ! このまま・・・」
ズキンッ!
「・・・!?」
ミィナの攻撃が止まった。
いや、その動きが一瞬、滞っただけである。
だが、そのタイミングが遅れたために、
アルテミスもミィナの鞭を、能力を使うまでもなく避ける事に成功した。
・・・そして・・・そんな余裕などある筈もないのに、
アルテミスは砂地に落ちた弓を拾い上げる・・・。
いや、その長い黒髪までかきあげて・・・。
ミィナは次の攻撃に移らない。
おかしい・・・。
スサの誰もが、その光景の違和感の正体に気づけない。
一体、何が起きたのか?
見れば、ミィナは背中を丸めて、不自然なくらい内股に・・・。
「・・・!?
嘘・・・、何で今頃・・・、
それもこんな痛っ・・・!」
ミィナのカラダに異変でも生じているのだろうか、
目線だけでも、ミィナはアルテミスを睨みかえし、
必死に鞭の攻撃を再開させようとする。
だが、めざとくアルテミスは後方にバックステップ、
既に彼女のカラダはミィナの攻撃範囲の外・・・。
しかもミィナは追跡できずにうずくまる寸前の態勢だ。
「ミィナ、どうしたっ!?」
次回、「更なる能力」